prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「アネット」

2022年04月11日 | 映画
タイトルになっているアネットとは主人公のアダム·ドライバーとマリオン·コティヤール夫妻の間にできた娘の名前なわけだが、これをなんと人形で表現しているのにびっくり。
幼児なのに堂々たる歌声を聞かせるというありえない存在なのだが、まずそのありえなさに見合った表現方法をとった格好。

また、妻のコティヤールが海で水死した話題性(ちょっとナタリー・ウッドの水死で夫のロバート・ワグナーが疑われた実例を思い出した)を利用して遺児を見せ物的に歌わせて金儲けしているわけで、本物の子供だったら搾取⋅虐待と見なされかねないことをやっているわけ。
しかし人形なら宙吊りさせようがいくら働かせようが構わないことになる。

余談だが、最近の映画の動物がCGで描かれることが多いのは、虐待という非難を受けるのを避ける目的もあるのではないか。アニマトロニクスの導入からすでにそうだったかもしれない。

ミュージカルナンバーがドラマに挟まる形式ではなく、「シェルブールの雨傘」式に全編歌で運ぶやり方をしている。
ミュージカルというと、どうしても個人的には歌と踊りという生きる力そのものの表出と思ってしまうのだが、内容的には悲劇的だったりエロスに対するタナトス志向なものの少なくない。これもそう。
何しろ幽霊まで出てきますものね。
ただし終盤、人形と人間が分裂するという形でエロス側に転換したともいえる。
それから一種の枠物語にして閉じた世界を逆に解放した。

アダムの役名はヘンリー⋅マクヘンリーHenry Mchenryという変な名前。Mcというのはアイルランド系の名前などで~の子孫といった意味。ファミリーネームがファーストネームの子孫というのだから、名前自体一種のどん詰まりを現していると考えていいだろう。