半世紀以上前の1965年にベルリン映画祭に出品されたのだが、山本薩夫監督「にっぽん泥棒物語」や増村保造監督「兵隊やくざ」といったメジャー系の一流監督作がはねられてピンク映画であるこの若松孝二監督作が選考を通ったものだから大騒ぎになったといういわくつきの映画。
ピンク映画に対する差別と偏見が声高に語られ、国辱という言葉さえ使われたものだから「国辱映画」というレッテルさえ貼られたという。
今の目で見ると、性描写そのものはR指定レベル。白黒映像ということもあって何をそんなに騒いだのかという話だが、ただ枕元にスターリンの肖像が飾ってあるところで情事に耽るというアイロニカルな表現や、特に冒頭のやたらとかっちりした幾何学的な構図で団地を捉えた閉塞感の表現は魅力があり、若松孝二作品としては珍しく美的。
考えてみると「団地妻」ものの先駆なのだけれど、もともと若松孝二監督作って、ピンクとはいってもあまりエロかったりセクシーだったりしておらず殺伐として暴力的で、これも荒涼とした感触の方が強い。
見ていないが、1963年の羽仁進の「彼女と彼」も団地モチーフだったらしい。
高度成長期のひとつの象徴だったのだろう。