prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「モリコーネ 映画が恋した音楽家」

2023年01月27日 | 映画
武満徹が好きな外国の映画音楽家にモリコーネの名前を挙げていたのだが、いくつか共通するところがあると思う。
つまり楽器の音だけが音楽を成り立たせるわけではなく、沈黙も含めてあらゆる物音が音楽となりうるという発想で、それを理論化したジョン・ケージの影響を受けているということ。

現代音楽におけるケージの影響は大きく、あまりに方図もなく何でもありになり過ぎて一般人を逃がしてしまったわけだが、その中でモリコーネは現代音楽の書法の一方で親しみやすいメロディーをいともやすやすと量産してしまうのには驚嘆するしかない(余談だが、武満はぼくはやろうと思えばすごく甘ったるいメロディー書けるんですよと言っていたし、実際そうしていた)。

そのあらゆる音が音楽の一部として共存できたのは映画という物音やセリフ=人声と当然に共存する場にあったからとは言えるのではないか。
映画音楽というのが程度の低いものとして扱われたのに悩んだというのが理不尽としか言いようがない。もともと商業主義の上に成立しているからか。

モリコーネがアカデミー賞を名誉賞を獲った後、改めて作曲賞で受賞したのはポール・ニューマンがやはり名誉賞のあと主演男優賞を獲ったみたいで、だったらもう二,三回獲っていておかしくないだろうと思わせるのも一緒。
とはいえ、モリコーネは本気で賞をもらって感激して泣いたりしていて、天才にありがちな傲慢さや狷介さを感じない。
ただ、既成曲を監督が使いたがるのには抵抗を見せる。

大著「あの音を求めて モリコーネ、音楽・映画・人生を語る」で記述されている毎日の日課としていたストレッチとはどんなものか実際に見ることができてなるほどと納得できたのは映像の効用。
引用される映画の画質があまり良くないのが多いのは残念。