この物語は他にジュディ・ガーランド版しか見ていないのだが、一作目にも通じるラストの決め台詞This is Mrs.Norman Maineをどうするのか注目していた。今だとMrs.がすでに使えないのだから。しかし自分の上昇と引き換えるように退場した夫との紐帯を表明する決めの一言なのだから、なしということはありえない。
はたせるかな、I am Ally Maineになっていて、Mrs.は外していたが、しかし考えてみるとアリーはどうももともと苗字が出てこなくてビルボードに出てくる芸名もAllyだけになっている。Mainという夫の姓を名乗っていることで自然に「私はノーマンの妻です」といったニュアンスを出しているということだろう。そのセリフは決めではなく、そこから歌に移るという位置づけも適切。
冒頭からステージ前に薬を飲んでいたりして、アリーと会う前から大スターながらじりじりと転落していく予兆は出ている。その転落と引き換えにアリーを世に出すというニュアンスもある。
親子ほども歳の違う兄とのやりとりから本来父親とこういうやりとりができたのができなかった欠落感から、父親のアルコール依存症を悪いことだとわかっていながら再現してしまう心的傾向が見て取れる。
これだけ良い歌揃いというのも珍しいのではないか。その使い方のドラマ的な組み立ても見事なもの。
ステージの撮り方も観衆がほとんどボケて背景に引っ込んでいて、観衆の熱狂をはさんで歌の興奮を煽るといったことはまるでやっていない。
編集が手続き通りという感じではなく次にどういうカットが来るのかいうルーティンをうまく外して回っている。
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