文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

沈黙のパレード

2022-09-19 10:01:52 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本書は、ガリレオシリーズの1冊である。そうテレビドラマでは、急に数式をそこら中に書き出す大変人に描かれている物理学者が探偵役を務めるミステリーである。

 この巻では、湯川は、准教授から教授にめでたく昇進している。そして彼の親友で大学同期の草薙刑事は警視庁の係長になっている。ところで湯川の勤めている大学は帝都大学という設定だが、そのモデルはどこだろう。手がかりは、湯川の属しているのが理工学部というところと、草薙が係長に昇進したというところだろう。

 理工学部の設置されている大学は以外と少ない。ちなみに、ドラマに使われているのは京大だが、京大には工学部と理学部はあるものの理工学部というものはない。東大も、入試こそ類別だが、学部はちゃんと工学部と理学部に分かれている。東京工大も一時理工学部のあった時代はあったが、その後分割され、現在では理学院と工学院になっている。残念ながら東京に国立大で理工学部のある大学はないようだ。しかし私大には、いくつかある。帝都大は東京にあるという設定である。この時点で、帝都大のモデルは国立大ではないだろうと推測できる。

 もう一つは、草薙40歳くらいで警視庁捜査一課の係長になっているということだ。警視庁の係長と言えば階級は警部である。東大、京大なら、キャリアとして入る人が多いと思う。その場合40歳くらいなら警視正かその上の警視長になっているはずだ。警視正でも警部より2階級も上である。つまり草薙刑事はノンキャリアということだろう。まあ、東大を出ても、ノンキャリアのおまわりさんになる人もいるので、絶対という訳ではないが。

 これらのことから、帝都大の明確なモデルは絞れないものの、東京にある私大を意識していることは推察されるだろう。よくモデルは東大といわれるが、以上の点から私は違うと考える。

 さてストーリーの方だが、舞台は東京の西側にあるという設定の菊野市。湯川は、大学が金属材料研究所磁気物理学研究部門の研究拠点を作ったためにここにきている。ただ完全にここに勤務しているわけではなく、時に施設内に泊まることはあっても、週に2~3回通っているし、研究がひと段落すれば、本部のほうに帰っているので、こちらにも研究施設があるということかな。そして「なみきや」という食堂の常連客になっている。

 この「なみきや」の看板娘の並木佐織は3年以上前に疾走していた。その遺体が、静岡県にあるゴミ屋敷の火事のあとから発見させる。佐織は静岡県には行ったことがないというのに。そして佐織は歌の才能が豊かな娘で、「なみきや」の常連客たちからも愛されている存在だった。その容疑者として逮捕されたのは蓮沼寛一という男。彼は、23年前にも本橋優奈という少女を誘拐して殺したという容疑で逮捕されていた。ところが本橋優菜の事件では、蓮沼は無罪となり、並木佐織の事件でも、釈放されていた。

 その蓮沼が殺される。犯人は割と早めに分かるので、湯川が犯行の過程を解き明かされていくようなものかと思ったら、最後にびっくりするようなどんでん返しが控えている。しかも、それにもどんでん返しがあるという驚くような内容だ。ただ蓮沼が殺されたことでは物理学者らしいところも出ているが、それ以降にはあまり物理学者らしいところが視られないのは残念。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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人間椅子

2022-09-09 11:29:28 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この作品は、佳子(よしこ)という夫が役人の、美貌の女流作家に元に届いた原稿から始まる。しかし、この部分にはツッコミたい。

仕事にとりかかる前に、先まず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何いずれも、極きまり切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣こころづかいから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛あてられたものは、兎とも角かくも、一通りは読んで見ることにしていた。



 いや、女性(特に美人)が優しいというのは男の幻想だろう。男の方が優しいことっていくらでもあると思う。女性が優しいのなら、「悪女」というのはいないことになるのだが、実際にはよく聞くよね。

 ところで、原稿の方だが、ある椅子職人から来たものだ。それには、彼が椅子の中に潜み、ホテルに納入され、色々な人々の座られ心地を楽しんでいたが、ホテルの経営者が、何かの都合で帰国することになり、居抜きのまま日本人の会社に譲られることになった。

 件の椅子は、道具やに置かれたが、ある役人に買われて、その夫人が主に使っていた。男はその夫人に恋心を抱く用になる。実はその夫人とはあなたのことだと書かれている。

 彼女は、原稿を読んで気味が悪いと真っ青になるが、そこに同じ男から手紙が来る。その手紙には、原稿は創作で、批評してもらえれば幸いであると書かれていた。

 このオチには驚くが、本当に創作だったのか、真相は藪の中だ。

☆☆☆☆

 

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半七捕物帳 65 夜叉神堂

2022-08-24 10:38:34 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 これも「半七捕物帳」の中の話だが、半七が聞いた話で、直接関わったわけではない。半七捕物帳には、前半ホラー仕立てで、後半はミステリーとなり、何も不思議なことはなかったというようなものが多いのだが、この話は、不思議なことがあったか、なかったかは微妙なところだろう。

 渋谷の長谷寺(ちょうこくじ、はせでらではない)に、京都の清水観音の出開帳があったときのこと。「開帳」というのは、寺院において、普段は秘仏として見れない逗子の扉を開いて、一般の人に拝ませることだ。出開帳というのは、本来の寺院のある場所とは別のところに出向いて開帳することである。そして開帳や祭礼には造り物が不可欠だった。

 この出開帳で評判になった造り物は小銭でできた大兜。ただし、前立てや吹き返しには、本物の慶弔小判や二朱銀が使われていた。この小判5枚と二朱銀5枚が紛失するという事件が起こる。最初に述べたように、この事件は半七が直接関わったわけではないので、探偵役の岡っ引きは、兼松とその子分の勘太である。

 小判や二朱銀を盗んだ犯人は、鬼の面をかぶっていたが、その面が汗でべっとり張り付いて、容易に取れなくなった。これは夜叉神のたたりでこのまま面が取れなくなるのではなかとうかと、すっかり恐怖にかられた犯人はなんとか金を返そうとする。

 結局、兼松と勘太の働きで、事件は解決するのだが、鬼の面が取れなくなったのは、本当に夜叉神の祟りか。それとも単に犯人がものすごい汗っかきなのか?

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 088 不死の霊薬

2022-08-18 09:02:29 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 出不精のくせに、いつも元気な平次だが、この話では珍しく風邪で寝込んでいる。なんでも寝込むのは、六つのときに麻疹以来らしい。

 物語は子分の八五郎が、平次を見舞いに来たときから始まる。このとき八五郎が見舞いに持ってきたのが、上菓子と灘の生一本の剣菱5升。八五郎がいつになく金回りがいいので、怪訝に思った平次が問いただすと、なんでも叔母が天霊様という新興宗教の総本山にお参りの旅に出るが、二度と江戸に帰れるかどうかわからないというので、片身として5両をくれたというのだ。

 日本は1神教などではなく、八百万の神様がいらっしゃる。民衆は、現金なもので、この神様は利益があるという噂が立つと、それこそ猫も杓子もそちらへなびく。そして潮が引くように廃れていく。これがいわゆる「はやり神」というやつである。中には、カルト教団のようなものもあったことは想像に難くない。この天霊様というのもはやり神のひとつだが、最近信者が行方不明になっているという。裏では恐ろしい犯罪が行われている臭いがする。

 平次は石原の利助の娘で女御用聞と言われるお品に協力を仰ぐが、こんどはそのお品が行方不明になる。果たして、平次は八五郎の叔母やお品を助け出すことができるのか。なお、この作品では平次が女装している。しかし、間違っても、ドラマで銭形平次を演じている役者の女装姿を思い浮かべないように。

 この話からの教訓は、宗教にはご用心ということか。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 58 菊人形の昔

2022-07-29 12:42:31 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 これも半七捕物帳の話の一つだ。他の話と同じように、明治になってから、目明し時代の話を、語り手である私に語るという形態のものである。

 話の主筋は、菊人形見物にやってきた3人の外国人が、女スリを取り押さえたはいいが、財布が出てこなかったため(仲間に渡していた)、暴動がおこり、外国人の乗っていた西洋馬と外国人を案内していた役人の日本馬が盗まれたというものだ。

 このスリを働いた女が蟹のお角。「蟹のお角」とタイトルのついた話があるくらいなので、この捕物帳の中では結構な有名人のようである。

 ただ、この話の中では両腕に蟹の彫り物があると書かれているが、「蟹のお角」の話の中では、胸のポッチを蟹が挟み込むような彫り物があったと書かれていた。私としては、後者の方が鉄火な感じが出ていいと思うのだが。

 半七捕物帳は、オカルティックな味付けのされている者が多い。この話も、市子や管狐などを登場させている。市子というのは要するに霊能力者のことだ。ここでは、梓の弓を鳴らして、生霊や死霊の口寄せをするものと書かれている。その市子のおころが殺される。なお、この事件と馬泥棒に事件は、泥棒の実行犯の平吉がおころの息子という関係はあるが、直接の関係はなく、基本的には別の事件である。

☆☆☆☆

 

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QED 源氏の神霊

2022-07-07 10:04:44 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 QEDシリーズ、本編の方は完結したとばかり思っていたが、まだまだ続いていたようだ。おなじみ、桑原崇と棚旗奈々のコンビが歴史上の謎と組み合わせて、現実の事件の謎を暴くというものである。

 ところで、桑原崇と棚旗奈々って、まだ結婚していなかったんだね。桑原君、寺社巡りばかりしていないでそろそろ決めようよ。計算したら奈々ちゃんなんてアラフォーだよ。いつまで待たせるんだ。

 奈々ちゃんのの妹の沙織なんて二度も結婚しているのに、それも二度目は子連れ結婚。まあ、相手が熊つ崎こと小松崎くん(明邦大学の崇の同級生で奈々の先輩。空手部の首相だったという設定。その体つきから、崇は熊つ崎と呼んでいたが、最近その熊つ崎というのも略して「熊」と呼んでるらしい)だったので、収まるべきところに収まった感じはあるんだが。

 さて今回の歴史上の謎は源頼政に関するもの。この人物、鵺退治で有名だが、なんと77歳で以仁王の令旨に呼応して、平家に対して挙兵している。どうしてそんな老齢になって挙兵したのか?そして京都府亀岡市には、彼の遺骸を祭っている頼政塚というものがあり、地元には、この塚に無礼なふるまいをすると祟りがあるという伝承がある。どうして彼は祟り神として扱われるようになったのか?

 そして現実の世界では、この頼政塚で水瀬正敏という男が割腹自殺をしているのが発見される。そしてその息子の義正が、遠く離れた関門海峡で死んでいるのが発見された。そして、新下関大学助教授の玉置愛子も関門海峡に浮かぶ死体で発見される。

 この物語に出てくる場所は、主に宇治の平等院、下関市の赤間神宮。出てくる主要人物は、頼政の他に木曾義仲そして安徳天皇。

 面白かったのは、木曽義仲の話。義仲に連れ添った女性武将としては巴御膳が有名だが、他にも葵御膳とか山吹御膳という女性もいたようだ。これは初耳。

 そして決定的なのが安徳天皇女帝説。こちらもなかなか興味深い。ただし現実の事件の方は、今時源氏の末裔とか平家の末裔とかを気にする人間がそう沢山いるとは思えない。そもそも源氏とか平家だとか言っても、それは男系のみ。女系の方で見れば、良く分からなくなっているのではないだろうか。

 崇の次のセリフはいただけない。

「陰陽道や九星気学は、明らかに統計学ですからね。(以下略)」(p219)


 いや、誰もそんな統計知りませんから。どこが明らかやねん。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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スワロウテイルの消失点 法医昆虫学捜査官

2022-06-27 09:12:05 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本作は、著者による「法医昆虫学捜査官」シリーズの第7弾となる。法医昆虫学とは、昆虫の生態を犯罪捜査に活かしていこうというもの。主人公はもちろん法医昆虫学者で大学准教授(大学名不明)の赤堀涼子先生。前作から警視庁の組織である捜査分析支援センターに所属しているが、大学にも籍があり、兼任のようである。

 この作品では、最初にウジの洗礼を受けるというのがお約束なのだが、今回はそれに加えて、謎の虫刺されに、被害者の解剖の場にいたものが襲われる。この虫に刺されるととにかくものすごくかゆいのだ。おまけに、薬はまず効かない。実はこれ台湾などにいる小黒蚊という吸血性の昆虫なのだが、痒みを和らげることができるのは、ハッカ油だけ。

 今回の事件の被害者は、72歳の飯山清志という一人暮らしの老人。なんと宝くじで1億を当てている。今回の事件はそれを狙った犯行のようだ。犯行現場には、大量のクチグロ(カバキコマチグモ)がいた。

 小黒蚊やクチグロも別にそれほど作品中に大きな役割を占めておらず、これなくしても話は組み立てられるんじゃないかと思う。この作品では、ツバメが運んできたことになっているが、それにしては数が多すぎるような気がする。
 
 事件の解決に繋がったのは、3番目に出てきたシバンムシ。これとて、聞き込みの途中で偶然出てきた感が強い。

 なお表題にあるスワロウテイルとは、ツバメの尾と言う意味で、転じて、燕尾服やアゲハ蝶のことなどを言う。この話、確かにツバメは出てくるのだが、テイルの部分はあまり関係ないかな。消失点も、ツバメが巣作りをしなかったことを指すのかもしれないが、分かり難い。

 このシリーズでは赤堀先生か岩楯刑事のどちらかが、ひどい目に合うというもうひとつのお約束がある。今回は岩楯刑事の番のようだ。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 089 百四十四夜

2022-06-25 08:35:20 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話もいつものように平次と八五郎の掛け合いから始まる。平次は相変わらずの貧乏暮らしで、この掛け合いの中で、平次が店賃を溜めていることが判明する。今回平次は、石原の利助の娘であるお品を助けている。

 この利助、かっては平次と張り合って、散々嫌がらせもしたようだが、今は中風気味で引きこもっており、娘のお品が娘御用聞として、十手取縄をなんとか守り通しているが、ここらで大きな手柄を立てなければ、返上も免れないところまで来ている。しかし、そんな利助の娘のお品を助けてやるのだから、平次も優しい。

 さて事件の方だが、三年前、大阪に送る幕府の御用金5千両が、宇津谷峠で三人組の凶賊に奪い取られた。この事件を調べに行ったのが石原の利助というわけだ。三人のうちの一人・三州の藤太が駿府で役人に切られて死んだが、死ぬ前に、5千両を頭分西国浪人赤井市兵衛が隠していると白状したという。そして、藤太の煙草入れの中には鍵が1つと、次の言葉が書かれていた紙片が入っていた。
「大船町市兵衛百四十四夜」と。つまり、これがキーワードというわけだ。

 平次は、このキーワードなどから、赤井市兵衛が、小舟町の白石屋半兵衛に間違いないとあたりをつける。ところがこの半兵衛が殺される。そしてこんどは番頭の喜助が殺された。果たして事件の真相は? 三人組の残る一人稲妻小僧の正体は?

 キーワード自体は「なあんだ!」と思う人が多いかもしれないが、最後のどんでん返しは、結構面白かった。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 013 美女を洗ひ出す

2022-06-09 08:25:01 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 このシリーズには、珍しく八五郎が平次のところに飛び込んできて始まるというのとは違っている。事件は芝三島町の學寮の門出、疾風の綱吉という土地の遊び人が殺されるという事件が起きた。

 犯行現場あたりを縄張りとしている御用聞きは柴井町の友次郎だが、八五郎は川崎大師からの帰りにこの騒ぎに出くわしたのだ。つまり今回の事件のへぼ探偵役は、ドラマに出てくるいつもの三ノ輪の万七ではなく、柴井町の友次郎という訳だ。この友次郎、へぼ探偵のくせに、誤認逮捕は当たり前という迷惑な奴らしい。

「まアね。後學の爲に話して置かう。ネ、八兄イ、よく見て置くが宜い。これはお前、脇差や匕首を突立てた傷ぢやねえ、肉の反り具合から言ふと、槍でなきア、よく磨いた鑿のみだ」


ということで、友次郎は、露月町の大工の棟梁で、辰五郎をお縄にしてしまう。綱吉と辰五郎は、水茶屋のお常という美女を張り合っていた。

 もちろん自信たっぷりに言った友次郎の推理は大外れ。そして辰五郎は昔八五郎が世話になっていたことから平次が事件に関わってくる。

 それにしても、平次の以下のセリフ

「柴井町の友次郎を向うへ廻すのは厭だな」


 平次にはこんなところがある。他の岡っ引きに極端に気を遣うのだ。これは最近の警察小説で、警察の縄張りを気にするシーンがあることと共通しているのかもしれない。

 そして、なぜか平次は、お常の水茶屋に入り浸りになる。そんな平次が襲われたことで、辰五郎は無実ということが判明して解放されるが、こんどはその辰五郎が殺される。

 その後も犯行は続き、それにつれてなぜかお常はどんどんみすぼらしくなっていく。平次が真実に行きついたときとった行動とは。最近のミステリーには、警察は「犯人を捕まえるのが俺たちの仕事だ」とばかりに、十分な情状があっても逮捕してしまう。しかし平次はそんなことはしない。死人に口なしとばかりに、悪人にすべての罪をなすりつけ、情状がある人間は、たとえ殺人でも見逃す。このあたりも、平次の魅力の一つだろうと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 249 富士見の塔

2022-05-18 20:12:54 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

この話も、いつものように平次と八五郎の掛け合いから始まる。開口一番八五郎はこう言うのだ。

「親分、金持になつて見たくはありませんか」



 平次は貧乏暮らしだが、貧乏なことにプライドをもっているようなところがあるのでこう応えた。

「又變な話を持つて來やがる、俺は今うんと忙しいところだ。金儲けなんかに取合つちや居られねえよ」


こんな調子である。

 さて今回の事件の方だが、十二社の榎長者と呼ばれている太左衞門が亡くなり、何百年も貯めた宝がどこにも見つからず、その在りかを探してくれというのだ。その例がなんと百両。しかし平次は気が乗らないようである。

 この榎長者の義理の弟と名乗る與八郎という男が、平次のもとを訪れ、宝を探してくれと頼むが、平次はけんもほろろな対応で断る。

 ところが、この與八郎が殺され、殺人事件ということでようやく平次は重い腰を上げる。ついでに宝のありかも明らかにするというわけだ。タイトルの富士見の塔というのは、塔に登れば大きな富士山を見ることができるという3階建ての高い塔で屋敷の後ろに建てられていた。この富士見の塔が焼け落ち、その塔を占拠していた與八郎が死んだのである。

 実は與八郎は、太左衞門の義理の弟でもなんでもなく、太左衞門の死後に弟分だと言って乗り込んできたというチンピラである。もちろん今だったら相続権も何も無いので、即たたき出されたと思うが、江戸時代だからか、田舎だからかはわからないが、結局富士見の塔を占拠してしまった。というのは宝の在りかはこの富士見の塔に関係しているらしいのだ。

 キーワードは、太左衞門が生前妻に語っていた「春分、日午、探頂、獲寳』という言葉。ミステリーファンならこの言葉で、宝の在りかが分かったかもしれないが、平次も見事に宝の在りかを言い当てる。

 與八郎は碌でもない男だったので、平次は犯人を縛ったりせずに帰っている。それどころかアドバイスまでしているのだ。この類のものは、杓子定規に犯人を捕まえるというものが多いが、平次は結構こういうところがある。これも平次の魅力の一つだろう。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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