この話も、いつものように平次と八五郎の掛け合いから始まる。開口一番八五郎はこう言うのだ。
「親分、金持になつて見たくはありませんか」
平次は貧乏暮らしだが、貧乏なことにプライドをもっているようなところがあるのでこう応えた。
「又變な話を持つて來やがる、俺は今うんと忙しいところだ。金儲けなんかに取合つちや居られねえよ」
こんな調子である。
さて今回の事件の方だが、十二社の榎長者と呼ばれている太左衞門が亡くなり、何百年も貯めた宝がどこにも見つからず、その在りかを探してくれというのだ。その例がなんと百両。しかし平次は気が乗らないようである。
この榎長者の義理の弟と名乗る與八郎という男が、平次のもとを訪れ、宝を探してくれと頼むが、平次はけんもほろろな対応で断る。
ところが、この與八郎が殺され、殺人事件ということでようやく平次は重い腰を上げる。ついでに宝のありかも明らかにするというわけだ。タイトルの富士見の塔というのは、塔に登れば大きな富士山を見ることができるという3階建ての高い塔で屋敷の後ろに建てられていた。この富士見の塔が焼け落ち、その塔を占拠していた與八郎が死んだのである。
実は與八郎は、太左衞門の義理の弟でもなんでもなく、太左衞門の死後に弟分だと言って乗り込んできたというチンピラである。もちろん今だったら相続権も何も無いので、即たたき出されたと思うが、江戸時代だからか、田舎だからかはわからないが、結局富士見の塔を占拠してしまった。というのは宝の在りかはこの富士見の塔に関係しているらしいのだ。
キーワードは、太左衞門が生前妻に語っていた「春分、日午、探頂、獲寳』という言葉。ミステリーファンならこの言葉で、宝の在りかが分かったかもしれないが、平次も見事に宝の在りかを言い当てる。
與八郎は碌でもない男だったので、平次は犯人を縛ったりせずに帰っている。それどころかアドバイスまでしているのだ。この類のものは、杓子定規に犯人を捕まえるというものが多いが、平次は結構こういうところがある。これも平次の魅力の一つだろう。
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