文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

銭形平次捕物控 249 富士見の塔

2022-05-18 20:12:54 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

この話も、いつものように平次と八五郎の掛け合いから始まる。開口一番八五郎はこう言うのだ。

「親分、金持になつて見たくはありませんか」



 平次は貧乏暮らしだが、貧乏なことにプライドをもっているようなところがあるのでこう応えた。

「又變な話を持つて來やがる、俺は今うんと忙しいところだ。金儲けなんかに取合つちや居られねえよ」


こんな調子である。

 さて今回の事件の方だが、十二社の榎長者と呼ばれている太左衞門が亡くなり、何百年も貯めた宝がどこにも見つからず、その在りかを探してくれというのだ。その例がなんと百両。しかし平次は気が乗らないようである。

 この榎長者の義理の弟と名乗る與八郎という男が、平次のもとを訪れ、宝を探してくれと頼むが、平次はけんもほろろな対応で断る。

 ところが、この與八郎が殺され、殺人事件ということでようやく平次は重い腰を上げる。ついでに宝のありかも明らかにするというわけだ。タイトルの富士見の塔というのは、塔に登れば大きな富士山を見ることができるという3階建ての高い塔で屋敷の後ろに建てられていた。この富士見の塔が焼け落ち、その塔を占拠していた與八郎が死んだのである。

 実は與八郎は、太左衞門の義理の弟でもなんでもなく、太左衞門の死後に弟分だと言って乗り込んできたというチンピラである。もちろん今だったら相続権も何も無いので、即たたき出されたと思うが、江戸時代だからか、田舎だからかはわからないが、結局富士見の塔を占拠してしまった。というのは宝の在りかはこの富士見の塔に関係しているらしいのだ。

 キーワードは、太左衞門が生前妻に語っていた「春分、日午、探頂、獲寳』という言葉。ミステリーファンならこの言葉で、宝の在りかが分かったかもしれないが、平次も見事に宝の在りかを言い当てる。

 與八郎は碌でもない男だったので、平次は犯人を縛ったりせずに帰っている。それどころかアドバイスまでしているのだ。この類のものは、杓子定規に犯人を捕まえるというものが多いが、平次は結構こういうところがある。これも平次の魅力の一つだろう。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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ふたりの距離の概算

2022-05-12 08:25:52 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 高校までは、学校でマラソン大会があった人も多いだろう。私の場合もあった。さすがに大学ではそんなものはなかったが。走るのが好きで、歳をとっても走っている人もいるが、私のように走るのが好きでははない人間にとっては、ほんと迷惑この上ない催しものだった。

 さて本書であるが、古典部シリーズの5作目にあたる。もちろん主人公は、折木奉太郎をはじめとする古典部の面々。彼らが通う神山高校は文科系部活が盛んなことで知られるが、この迷惑なマラソン大会があった。正式には「星ヶ谷杯」というらしいが、その名で呼ぶ人はほとんどおらず、単に「マラソン大会」と呼ばれることが多い。ちなみに、20キロを走るので、正規のマラソンの約半分を走ることになる。

 今回のテーマは、古典部に仮入部していた大日向友子という侵入生が、本入部しないといった理由を推理するということ。それも奉太郎がマラソン大会で走っている最中に考えるのである。

 大日向はその際、部長の千反田えるのことを、「千反田先輩は菩薩みたいに見えますよね」と言った。「外面似菩薩内心如夜叉」という言葉がある。要するに菩薩のように見えるということは、心は夜叉のように恐ろしいということだ。なぜ大日向はそんなことを言って本入部しなかったのか。

 一応は謎解きを主体にしたミステリーに分類されるのだろうが、別に殺人事件のような大きな事件が起きる訳ではない。どちらかというと古典部員たちの高校生活を描いた青春小説としての色彩が強いだろう。しかし20キロも走るとなると、ため息が出るなあ。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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神の時空 倭の水霊

2022-05-04 10:03:53 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 歴史は時の権力者に都合のいいように書かれているというのは、よく指摘される話だが、ここでの主張は、後づけで美談のようにされる場合もあるということ。描かれる歴史上(神話上?)の事件は、日本武尊と弟橘媛。

 日本武尊とは、景行天皇の息子で仲哀天皇の父である。日本古代最大の英雄と言われているが、残された記述を読む限りそのような感じは受けない。なにしろ熊襲タケルを討った時は、女装をして、尻から剣を突き立てたそうだし、出雲タケルを討った際には、剣を入れ替えている。要するに騙し打ちをしたということなのだが、けっして英雄らしい行為とは思えない。昔は今とは価値観が大分違うのだろうか。また、双子の兄の大碓命を殺して手足をもいで捨てたという話もあるが、本書ではその話には疑問を呈している。

 そして、弟橘媛は、日本武尊の妻とされているが、走水海で海が荒れ狂ったとき、自ら海神の生贄になったという美談で有名だ。昔は「港、港に女あり」という自慢をしていた船乗りもいたが、日本武尊の場合は「遠征先に妻あり」といったところか。色々なところに現地妻のような人物がいるのだ。そして、弟橘媛は、日本武尊よりもずっと強い怨霊だとされている。ただし、弟橘媛が怨霊だということは割と詳しく説明されているのだが、日本武尊の方は、怨霊だとされているものの、この巻では、それがなぜかという説明はされていないが他の巻では説明されているのだろうか。

 さて、現実の事件の方だが、涙川沙也という25歳のOLが、男が殺されてるところに出会わす。その男は、沙也のストーカーだった徳田憲と言う男。そこから沙也は、殺人事件の犯人として追われることになる。その裏には、日本武尊と弟橘媛の怨霊を呼び覚まそうという恐ろしい企てがあった。それに対抗するのがこのシリーズの主人公である辻曲家の兄妹という訳である。

 本書は、QEDシリーズと同じように、古代史に新たな光を与え、それまでの伝統的な解釈と違う見方を示してくれる。そして、現実の事件と古代の事件を絡めているというのは他のこの作者の作品と同じ。他の巻も読めば一層楽しめるだろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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珈琲店タレーランの事件簿 7 悲しみの底に角砂糖を沈めて

2022-04-22 08:49:34 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この巻は、7つの短編集になっている。7巻目だから7つ短編を治めたという訳ではないだろうが、これらの短編に共通しているのはバリスタの切間美星が、喫茶店の客の話を聞いて、その謎ときをするというもの。ただ美星がハンドミルをコリコリ回して、コーヒー豆を挽きながらこう決めゼリフを言うシーンはない。
「その謎、たいへんよく挽けました―」
さすがに、作者も恥ずかしくなって止めたか。

 もうひとつ、この巻には美星の彼氏たる「アオヤマ」君は出てこない。ただ最後の話に、男性店員なる者が出てくるので、もしかしたらそれが「アオヤマ」君なのかもしれないが。いや夫婦漫才をほうふつさせるような掛け合いをしていたので、その可能性は高いが。

 収録されているのは、次の7編。いずれも事件そのものは、殺人事件のような大きなものではない。

〇ビブリオバトルの波乱
 ビブリオバトルの決勝で、順番を決める抽選箱に、7と8の数字のスタンプを押されたくじがなくなり、その代わり3と4の数字が押されたくじが入っていた。いったい誰がなんのために。

〇歌声は響かない
 高校時代の美星の話。美星は歌手になりたかったらしい。

〇ハネムーンの悲劇
 加納七恵の姉夫婦が、ハワイにハネムーンに行こうと関空に向かっているときに交通事故事故にあい、義兄は死亡。姉も重体に。その後姉は回復したが、彼女には行ってないはずのハネムーンの記憶が。そしてキャリーバッグの中には、姉がお土産に買ってくると言っていた、現地にしか売っていないはずのコーヒー豆が。

〇フレンチプレスといくつかの嘘
 客のカップルの男性に美星がコーヒーをフレンチプレスで入れたので、最後まで飲まない方がいいと告げる。でも実際にはハンドドリップで入れていた。その理由は

〇ママとかくれんぼ
 ガールズバーで働いている結城英美里は、子供の頃母親に、東京から福知山にかくれんぼをするために、連れていかれた。その後両親は離婚し、英美里は弁護士である父親と暮すことに。ところが母親の再婚相手から、母親が乳癌で長くないからあって欲しいと言われる。

〇拒絶しないで
 美星が大学生の柔道部員から告白される。美星はその学生とお友達からということで連絡先を交換するのだが、別の客からナプキンに「拒絶しないで」と走り書きで伝えられていた。

〇ブルボンポワントゥの奇跡
 浅井一太の下に、昔の元カノから電話がかかってくる。彼女は同性の同僚と間違えたと言っていたが、一太は、携帯のキャリアを変えて、その際電話番号も変わっていた。なぜ元カノは知らないはずの電話番号に電話することができたのか。

 しかし、いくら不思議がっていても、喫茶店でいきなり、店員から謎解きをされたらびっくりするだろう。正に奇人変人。美星、どんどんその変人ぶりをエスカレートさせて欲しいと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 44 むらさき鯉

2022-04-20 10:18:25 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 半七捕物帳には、前半が怪談仕立てになっており、後半その仕組みも含めて半七が解き明かすというものが収められているが、この話もそんな一つだ。

 まず前半だが、この話の舞台は小石川と牛込のあいだを流れている江戸川。ここは御留川になっており、殺生は禁じられていた。御留川になっているということは、ここで猟や釣をしてはいけないということだ。そしてこの川には紫色の鯉が泳いでいた。

 紫色の鯉といっても、別に普通の鯉より美味しいと言う訳ではないが、本来採ってはいけない鯉を食べたがる人間がいる。要するに味はともかく、希少なものに価値を見出すのである。

 牛込無量寺門前の小さい草履屋の亭主藤吉を訪ねて夜中に女が訪ねてきた。この藤吉は御留川で夜釣りをしてむらさき鯉を釣っていた。あいにく藤吉は留守で、対応したのは女房のお徳。この女の言う事には、この店にやってきたのは、夢で、むらさきの着物を被きて、冠をかぶった上品な人を見て、起きてみたら枕元に紫がかった金色の鱗のようなものが落ちていたからだ。そしてむらさき鯉を持って行ってしまった。

 その後藤吉が帰ってきたが、釣り仲間の紙屋の亭主為次郎が川に引き込まれたという。ところが、この為次郎は生きていて、藤吉は死骸になって江戸川に浮いていた。そして為次郎は御留川で夜釣りをしたことはないという。

 この怪談じみた事件を解き明かすのが半七親分というわけだ。もちろん終わってみれば不思議な事など何もなかったのである。半七親分の活躍ぶりを楽しみたい人にはいいだろう。

☆☆☆

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 103 巨盗還る

2022-04-05 08:33:21 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この作品は、いつものように平次と八五郎の掛け合いから始まる。掛け合いのない作品もあるが、これがないとちょっと寂しい。

 さて、今回の事件だが、麹町六丁目にある両替屋・櫻屋の評判娘が、残酷な殺され方をしたという。美人の娘が殺されるような事件に、やたら悔しがるのが八五郎のいつもの姿。別にその美人娘と八五郎には何の関係もないが、美人が殺されるのは八五郎には許せないらしい。

 そして平次のもとに手紙が来る。かって平次がお縄にして、処刑寸前で縄抜けをして逃亡した、日本一と言われた大泥棒お狩場の四郎からの挑戦状である。そして櫻屋の主人六兵衛は、四郎との因縁があった。

 櫻屋のあたりは、十三丁目の重三という岡っ引きの縄張りである。この重三が今回の平次の引き立て役。平次の引き立て役といえば、三輪の万七だが、原作の方ではいつも彼が出てくるわけではない。テレビドラマでは引き立て役は万七に決まっているようなところがあるが、原作の方では、結構引き立て役が多い。

 お狩場の四郎の件もあり、この事件に平次が乗り出すのだが、意外な結末が待っていた。それにしても、手柄を重三に譲るとは、平次結構世渡り上手?

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 321 橋場の人魚

2022-03-23 15:54:49 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 タイトルは「橋場の人魚」だが、もちろん本物の人魚というわけではない。泳ぎが得意で、まるで「人魚」のようなことからつけられた二つ名である。ただし、つけられた者は、単に泳ぎが得意と言うだけでなく、人殺しもする犯罪者。平次に言わせれば化物である。まあ、昔の日本の人魚の絵を見ると、本当に化物のような絵があるのだが。少なくとも、マーメイドとかローレライなどと呼ばれていた者たちとは大分姿が異なる。

 さて事件の方だが、いつものように八五郎が平次のところにやってきて、橋場で質両替の組頭をやっている伊豆屋の息子・菊次郎(次郎と付いているが惣領息子)が土左衛門になって見つかる。ちなみに平次の自称ライバルである三輪の万七は、事件性がないとしてさっさと帰ってしまったらしい。さすがは平次の引き立て役。

 平次が乗り出したのは、菊次郎の許嫁のお夏から、菊次郎の死はとても事故死とは思えないとの訴えを聞いたからだ。このお夏、元は武家の娘で、親が死んでからは、伊豆屋に引き取られて将来は菊次郎といっしょにさせるつもりだったようだ。しかし、お夏は元武家の娘。しっかりしすぎてどうも菊次郎とは合わなかったようである。菊次郎は向島にある茶屋のお銀という女に溺れて、放埓三昧。とうとう座敷牢に押し込められてしまった。今回の事件は、菊次郎が座敷牢を抜け出して隅田川に漕ぎ出した時に起こったらしい。

 しかし、江戸時代の女性は泳ぐときに腰巻を巻いて泳いだという。さすがに腰巻を巻いて泳いだことなはいが、これだと、腰巻が足に絡んできて、ものすごく泳ぎにくくなるのではないのだろうか。

 この話では平次は銭を投げていない。銭形平次と言えば投げ銭がトレードマークなのに、銭形平次の捕物帳には、銭を投げる話の方が少ないくらいなのだ。でも平次が言葉で犯人をひっかけるのは面白いと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 37 松茸

2022-03-07 15:44:31 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話は、語り手である私が、松茸をみやげに半七老人を訪ねるところから始まる。私は、明日が半七の誕生日なので、誕生祝の席に出てくれといわれた。土産の松茸は、その席の料理が1品増えるので喜ばれる。

 さて、半七の誕生日の席には、半七捕物帳によく出てくる三浦老人も来ていた。松茸が話題になると、それに関係した思い出話が始まる。まず三浦老人が献上松茸の話をして、それを受ける形で半七の捕物話が始まる。

 半七は両国橋をうろついている女に声をかける。女は外神田で糸や綿を扱っている大店加賀屋の女中のお鉄であった。お鉄は、武州熊谷から加賀屋に嫁に来ているお元について江戸に出てきたのだが、どうも様子がおかしい。

 実は、お元、お鉄の隣村に住む安吉という男が悪い奴だった。でもアホだ。半七に追われて赤裸になり、とうとう逃げあぐねて12月の不忍の池に飛び込んで凍死してしまったのだ。ここで三浦老人の献上松茸の話に繋がってくる。実は安吉は、この件でもやらかしており、捕まったら大変と思ったのだろう。

 この安吉、お鉄を手籠めにしたうえ、お元のことでお鉄を強請っていた。お鉄は安吉を殺そうと剃刀を持ち歩いていたのだ。両国橋で半七と会ったときも。

 しかし、こんなことが強請の種になるとは、江戸時代ならではだろう。まあ、血液型占いのようなもので、今だったら「お前アホか」といわれそうだが。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 105 刑場の花嫁

2022-03-03 08:40:13 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話は二つの点で他の話と違っている。一つ目は、いつものように、八五郎が平次の家に飛び込んできて、二人の掛け合いから話が始まるのではないということ。今回二人は出かけており、永代橋の上で新堀の鳶頭とぶつかりそうになったことから事件を知ることとなる。

 そして二つ目は、平次が大ポカをやらかして、あわや無実の人間を磔にするところだったということ。被疑者は、磔刑柱にかけられて刑が執行されようとする時に何とか間に合った感じだ。しかし、市中引き回しの方はしっかりされたようだ。市中引き回しとは、処刑場に行く前に、縛られて裸馬に載せられ、江戸の主な所を罪状を書いた高札を掲げて引き回すというもの。おそらく人権派弁護士の連中はなんやかやと反対するだろうが、現行犯など冤罪の余地の内容な犯罪の場合は、抑止のためにこういったものを復活させるのも一つの方法だと思う。

 事件の方は、新堀の廻船問屋、三文字屋の大旦那久兵衛が殺されたというもの。事件の起きたところは、富島町の島吉の縄張り。平次は、先代の島吉にとても世話になったことから、息子を助けるために、事件の解決に乗り出したという訳である。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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銭形平次捕物控 280 華魁崩れ

2022-02-17 08:33:20 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話も、いつものように平次と子分の八五郎との掛け合いから始まる。八五郎、平次にこんなことを言う。、

「羨ましい野郎があるもんですね、親分」

なんでも、生形の伊三郎と言う男のところに年季明けの女郎が飛び込んできたというのだ。

 ここから話は、質屋・油屋・両替商を兼ねている大金持ちの中谷貫三郎と言う男の話に移る。こちらは、誰袖華魁という江戸一番といわれる華魁を請出して後添えにしたというのである。そしてこの貫三郎には、前妻との間に、お柳、お藤と言う二人の娘があった。お柳は誰袖華魁と歳は2つしか違わず、出戻りだが共用豊かな娘であった。妹のお藤は透き通るような娘で笑うととても可愛らしいという。ところがこの誰袖が殺される。首には凶器の縮緬の手ぬぐいが巻かれていたという。

 この事件を平次は解決するのだが、この作品には華魁に対する一般的な考えに対する、作者の批判のようなものが見え隠れする。平次は華魁に対して批判的だし、かって、華魁は高い教養を持っていると言われたが、この話には、それが実は底が浅かったと言っているようなところが伺えるのだ。吉原で位が高いといっても、所詮は籠の鳥。吉原の客は、吉原の廓主たちのイメージ戦略に踊らされていたのだろう。

 最後に平次が謎解きを披露するが、それは驚くようなものだった。大どんでん返しに読者はびっくりするのではないだろうか。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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