まず本書を読んで感じたのは、著者はあまりこの方面に詳しくないのではないかということ。記述が不正確なうえ、紹介されている技術のチョイスも後述のようにどうかなとどうかなと思うものがあるのだ。
著者の略歴を見ると、理学部出身で専門は化学のようである。だから私の様な工学部で電気工学を学んだ者とは視点が違うのかも知れない。一番感じたのは、全体的に量的な話とコスト的な話が十分ではないということ。工学はコストの話まで含めてなんぼというところがある。
多くの問題点については、別の人が指摘しているので、なるべくそれと重ならないようにしよう。
一番まずいと思うのはこの部分。エネルギー不滅の法則(用語は本書による)を説明した部分だ。1階の屋根にいた人が飛び降りた場合にエネルギーが消滅したように見えるが、実は無くなっていないことの説明である。
それを表すのが、この飛び降りた人の「ケガ」です。この人は飛び降りた衝撃で足をくじきました、これは消えたように見えた1E(評者注:本書では1階の屋根に上った人の位置エネルギーをこう表している)の位置エネルギーが、実は「脚をくじかせる」という「仕事」をしていたことを意味します。(p32)
それでは、パチンコ玉のような鉄球を落とした場合はどうなるのだろう。もちろん、脚もくじかないし、ケガもしない。実は、この場合最後には熱エネルギーになって、温度が少し上がるのだ。
この部分も説明不足だと思う。
(シリコン太陽電池の)変換効率は単結晶で20%、多結晶で15%、薄膜で10%以下とされます。(p146)
しかし、142ページの表には、太陽電池の変換効率として5~40%とある。これは、少し説明が必要ではないか。確かにNEDOなどでは変換効率40%を目指して研究が行われている。しかしその目標年度は2030年なのである。今現在この変換効率が達成できている訳ではない。そして、使われているのもシリコンでなくコストがものすごく高くなる化合物なのである。
これも気になる。
原子力の熱で沸かしたスチームを発電機のプロペラにぶつけて、発電機を回して発電しているのです。(p152)
原子炉で蒸気を発生させているのは間違いないが、蒸気が導かれるのは発電機でなくてタービンである。タービンを回転させることにより、それに連結された発電機を回すのである。発電機にはプロペラなんて付いていない。あまりこの辺りの知識がない人には違いが分からないかも知れないが、少し知っている人なら、タービンと発電機は全くの別モノだと言うだろう。p236には、水蒸気でタービンを回すと書かれているので、(ここでは発電機のタービンと書かれているので不正確な気もする。前述のようにタービンと発電機は別物である。まあ、発電機に連結されたタービンということならぎりぎりOKか?)しかしなぜ、p152ではスチームと書かれていたのに、p236では水蒸気? 同じものを表すときは表記を統一した方がいい。
これは著者の勉強不足か?
地熱発電能力は約1000万kW(最新火力発電の約20基分)となり、(p172)
( )の部分だ。例えば電源開発の橘湾火力は単機容量105万kWであるし、松浦火力も100万kW、中国電力の三隅火力も100万kWなのである。つまり最新火力の約10基分ということになる。
これも大分気になる。
しかし、三重水素は地球上の自然界には、ほとんど存在せず、(p257)
三重水素とは、今話題のトリチウムのことだ。これは微量ながら自然界に一定量は存在している。ほとんど存在しないというのと、微量ながら一定量存在するというのでは、ニュアンスがだいぶ異なると思う。またトリチウムは、宇宙線と大気の作用で常に作られている。
さらに、p231の説明で、爆発に繋がるような原爆の反応のみを説明し、原子炉の中での反応が十分に説明されてないことや、地熱発電の説明で、熱水で沸点の低い媒体を沸騰させ、これを発電に利用するバイナリーサイクル、核融合の説明では、トカマク方式の説明があるが、その他代表的なヘリカル方式、レーザー方式が説明されてないのが気になる、風力発電のところでは「台風発電」と言ったあまり一般的でないものが紹介されていることを考えるとバランス的にどうだろう。なお岐阜県土岐市にあるのは「核融合研究所」ではなく、「核融合科学研究所」であり、研究されているのは、主にヘリカル方式である。
以上纏めると、あまりこの方面に詳しくない人が、あちこちで勉強した結果をまとめたように、私には見えるのだが。
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