文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

平成29年度試験版 電験三種徹底解説テキスト 電力

2022-09-15 09:27:46 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 これは、各年度ごとに、その年度の試験版が出ているが、別に試験の年度が替わる度に買い替える必要はないだろう。大事なのは、同じテキストを徹底的に勉強して、その内容を自家薬籠中の物とすることだと思う。そもそも電気工学自体は、1,2年で内容が大きく変わるような性格のものではない。また一度設備を設置したらかなり長い間使うというのが普通なので、昔のことは分かりませんというのでは、技術者として、まったく役に立たない。

 私自身は、だいぶ前に電験三種は取っている(三種と一種を持っている。二種は面倒くさいので受験せず)ので、別にこういう本を買う必要はないのだが、電験三種を受験したのは旧制度だった。別に旧制度だろうが新制度だろうが、電気工学自体が変わるわけはないのだが、新制度の電験における出題形式に興味があったというのと新制度の電験の難易度を知るために手に入れたという訳だ。

 さて本書の構成だが、まずpointとして、重要事項の内容が完結に述べられる。続いてこれについての解説や例題などが示されている。各章末には、章末問題が、試験の形式に合わせて、A問題とかB問題といったような分類付きで収められている。

 電験3種は高卒レベルだと言ってバカにしてはいけない。大卒でも結構落ちるという話を聞く。しかし、本書の内容を十分に理解しておけば、大学で単位を取るのにも役立つのではないかと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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感染症と生体防御

2022-07-31 11:12:15 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書も放送大学の同名科目のテキストである。この数年のコロナ禍で、感染症に対する社会認識はこれまでになく上がっていると思う。本書は感染症とはどのようなものかおよびそれに対する免疫機能を、詳しく説明したものである。

 一口に感染症といっても色々な種類がある。ウィルスによるもの、細菌によるもの、真菌によるもの、寄生虫によるものなどだ。感染症は次のようなことが予防に役立つ。

1.病原体をなくす
2.感染経路の遮断
3.抵抗力を上げて病気にならないようにする

 これを最近問題になっている新型コロナにあてはめてみると、1は消毒、2は密をさける、3はワクチンの接種ということになるだろうか。ただ3つを全部をやったつもりでも、感染しないという保証はない。本人は実施しているつもりでも、どこかに穴があるかもしれないのだ・しかし、リスクを大幅に下げることには寄与するだろう。

 本書を読めば、感染症にはどのようなものがあるかや、人体の免疫反応の仕組みが分かり、正しく感染症を恐れることができるようになるものと思う。ただ、結構普段使わないような専門用語も多いが、この本の内容を十分理解するためには、それらに慣れることは避けて通れない道だろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

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マンガでわかる 痔の治し方

2022-03-25 08:32:37 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書は、痔主の1級建築士で漫画家のヒヅメさんと肛門科専門医の平田肛門科医院院長の平田雅彦さんにいろいろ聞くという形で展開していく。もちろんタイトルの通り漫画仕立てになっている。

 ヒヅメ氏は、その職業がら座っての作業が多い。そのため切れ痔になってしまった。手術をして最初は快調だったのだが、また違和感を感じるようになり、痔の再発に怯える日々。

 なぜか下の病というのは、あまり人から同情されない観がある。性病しかり、痔しかりというわけだ。だから、病気になってもあまり人に話さない。痔主というのは思ったより多いのかもしれない。まあ、こんな主なんて誰もがなりたくないだろうし、そんな権利をもし人に譲れるとしたら、熨斗をつけて即譲り渡したいだろう。

 平田さんはその経験から痔の9割は自分で直せるという。そのためには生活態度を改める必要があるのだが、本書を読めば、どのような生活を送ればいいのか分かるだろう。大切なのは気長に、気軽に継続すること。短期的に効果の有無を判断してはいけないのである。本書には痔とはどんなものかから始まり、医者の選び方、痔になった時の食事方法やトイレの使い方、おしりにいい運動など、この壱冊を読めばあなたも立派な痔博士に(笑)。

 以外だったのは、痛くない痔があるということだ。本書を読む前は痔になったら、どんな痔でも痛いのだと思っていた。いぼ痔(内痔核)は、歯状線と言うところより内側にできるのだが、そこには痛みを感じる神経が無いということで痛くないらし。とにかく痔に悩んでいる人は一読あれ。書かれていることは基本的には生活改善に関することなので、やって損はないと思う。別に壺を買うようなことをする必要もないし(笑)。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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生物の進化と多様化の科学

2021-10-24 08:51:39 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書も放送大学のテキストのひとつである。本来は自然と環境コース開設科目だが、今在籍している生活と福祉コースの共用科目となっている。生活と福祉コースは、別にそれほど興味があるわけではないが、全科生として在籍できる最後のコース(他のコースは全て卒業してこのコースが最後に残った)ということで便宜的に所属している。でも本来のこのコースの科目にはあまり食指が動かないので、共用科目を中心に履修するつもりだ。

 それはさておき、本書によれば、進化とは、生物種の遺伝的な性質が時間の経過とともに変化することである。だから、俗に退化と呼ばれるものも、生物学上は進化のひとつなのである。大事なことは、その変化が個体だけに適用されるのではなく、生物種全体に適用されるということだ。生物は進化をすることにより、多様性を確保してきた。

 本書には基本的なことから、応用的なことまで、進化に関する様々なテーマが掲載されている。例えば、ゲノムなどのミクロレベルから、動植物の進化に関するマクロなレベルまで。寄生や共生と言ったテーマでも1章を割いている。本書を読めば、この方面を希望する人には、基礎的な知識が得られるものと思う。そうでない人が読んでも、章によっては結構面白いのではないかと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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神話と地球物理学

2021-08-11 10:16:53 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書は、夏目漱石の弟子として有名な物理学者の寺田寅彦さんのエッセイを収めたものだ。寺田さんによれば、神話の中にその国々の気候風土の特徴が濃厚に印銘されているという。例えば、速須佐之男命に関する神話は火山活動を連想するものが多いという。

 「批評理論入門」(廣野由美子:中公新書)と言う本がある。メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」を色々な観点から、解説したものだ。その中に面白いものがある。その中に、「マルクス主義批評」や「ポストコロニアル批評」と言うものが紹介されている。しかし、若干19歳のメアリ・シェリーが、そんな観点から「フランケンシュタイン」を書いた可能性は、それだけ大きくはないものと思われる。

 本書は、神話を地球物理学的に解釈しており、なかなか面白い。もちろん、神話を作った人が、そのような考えを持っていたかどうかは分からない。しかし、国語の入試問題を著者が解こうとしたら分からなかったという笑い話があるように、読んだ人が、それぞれの人生経験に重ねて解釈していけばいいと思う。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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脱炭素時代を生き抜くための「エネルギー」入門

2021-07-06 17:12:37 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 まず本書を読んで感じたのは、著者はあまりこの方面に詳しくないのではないかということ。記述が不正確なうえ、紹介されている技術のチョイスも後述のようにどうかなとどうかなと思うものがあるのだ。

 著者の略歴を見ると、理学部出身で専門は化学のようである。だから私の様な工学部で電気工学を学んだ者とは視点が違うのかも知れない。一番感じたのは、全体的に量的な話とコスト的な話が十分ではないということ。工学はコストの話まで含めてなんぼというところがある。

 多くの問題点については、別の人が指摘しているので、なるべくそれと重ならないようにしよう。

 一番まずいと思うのはこの部分。エネルギー不滅の法則(用語は本書による)を説明した部分だ。1階の屋根にいた人が飛び降りた場合にエネルギーが消滅したように見えるが、実は無くなっていないことの説明である。

それを表すのが、この飛び降りた人の「ケガ」です。この人は飛び降りた衝撃で足をくじきました、これは消えたように見えた1E(評者注:本書では1階の屋根に上った人の位置エネルギーをこう表している)の位置エネルギーが、実は「脚をくじかせる」という「仕事」をしていたことを意味します。(p32)


 それでは、パチンコ玉のような鉄球を落とした場合はどうなるのだろう。もちろん、脚もくじかないし、ケガもしない。実は、この場合最後には熱エネルギーになって、温度が少し上がるのだ。

 この部分も説明不足だと思う。

(シリコン太陽電池の)変換効率は単結晶で20%、多結晶で15%、薄膜で10%以下とされます。(p146)

 
しかし、142ページの表には、太陽電池の変換効率として5~40%とある。これは、少し説明が必要ではないか。確かにNEDOなどでは変換効率40%を目指して研究が行われている。しかしその目標年度は2030年なのである。今現在この変換効率が達成できている訳ではない。そして、使われているのもシリコンでなくコストがものすごく高くなる化合物なのである。

 これも気になる。

原子力の熱で沸かしたスチームを発電機のプロペラにぶつけて、発電機を回して発電しているのです。(p152)

 
原子炉で蒸気を発生させているのは間違いないが、蒸気が導かれるのは発電機でなくてタービンである。タービンを回転させることにより、それに連結された発電機を回すのである。発電機にはプロペラなんて付いていない。あまりこの辺りの知識がない人には違いが分からないかも知れないが、少し知っている人なら、タービンと発電機は全くの別モノだと言うだろう。p236には、水蒸気でタービンを回すと書かれているので、(ここでは発電機のタービンと書かれているので不正確な気もする。前述のようにタービンと発電機は別物である。まあ、発電機に連結されたタービンということならぎりぎりOKか?)しかしなぜ、p152ではスチームと書かれていたのに、p236では水蒸気? 同じものを表すときは表記を統一した方がいい。

 これは著者の勉強不足か?

地熱発電能力は約1000万kW(最新火力発電の約20基分)となり、(p172)

 
 ( )の部分だ。例えば電源開発の橘湾火力は単機容量105万kWであるし、松浦火力も100万kW、中国電力の三隅火力も100万kWなのである。つまり最新火力の約10基分ということになる。

 これも大分気になる。

しかし、三重水素は地球上の自然界には、ほとんど存在せず、(p257)


三重水素とは、今話題のトリチウムのことだ。これは微量ながら自然界に一定量は存在している。ほとんど存在しないというのと、微量ながら一定量存在するというのでは、ニュアンスがだいぶ異なると思う。またトリチウムは、宇宙線と大気の作用で常に作られている。

 さらに、p231の説明で、爆発に繋がるような原爆の反応のみを説明し、原子炉の中での反応が十分に説明されてないことや、地熱発電の説明で、熱水で沸点の低い媒体を沸騰させ、これを発電に利用するバイナリーサイクル、核融合の説明では、トカマク方式の説明があるが、その他代表的なヘリカル方式、レーザー方式が説明されてないのが気になる、風力発電のところでは「台風発電」と言ったあまり一般的でないものが紹介されていることを考えるとバランス的にどうだろう。なお岐阜県土岐市にあるのは「核融合研究所」ではなく、「核融合科学研究所」であり、研究されているのは、主にヘリカル方式である。

 以上纏めると、あまりこの方面に詳しくない人が、あちこちで勉強した結果をまとめたように、私には見えるのだが。

☆☆

 

 

 

 

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データベース

2021-02-04 09:28:05 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書は、放送大学の科目の教材の一つだ。表紙には編著者の二人が書かれているが、実は、後二人分担執筆者がいる。

 ところで、データベースというと経産省主催の情報処理試験のうちデータベーススペシャリストを思い浮かべる人も多いと思う。

 本書は、データベースとは何かから始まり、実際に用いられているデータベースの特徴、設計法などが一通り解説されているので、国家試験の合格を目指している人にも、基礎力を付けるには大いに役立つことだろう。本書に問題集を併用して勉強すればかなりの効果があるものと思われる。

 各章末には演習課題が付けられており、これらをやってみることにより、本書に書かれてあることの理解を助けるものと思う。ただ残念なことにこれらの課題の解答は付けられていないので略解程度は付けて欲しかったと思う人は多いのではないだろうか。

 放送大学の科目としてはテレビ科目(ラジオ科目ではなく)であり、科目改正がない限り、放送大学に入ればネットで授業を視ることができるし、放送大学に入らなくてもBS放送で視ることができる。今、確認すると2021年度1学期の科目にも入っていたので、来年度は大丈夫だと思うが、2017年度の科目なので、そろそろ改正があるかもしれない。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20

2020-12-22 09:27:57 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 新型コロナの全国的な大流行と共に、国のGOTOトラベルが年末年始に一時停止された。確かにGOTOトラベルにより感染が増加したという証拠は示しにくいだろう。しかし、常識的に考えてこれが感染拡大の一因になったことは想像できる。第一波の際には、人の移動がかなり減ると、それに伴い感染者が減った。要するに、感染を抑制するには人が動かなければいいということは明らかだろう。

 本書では、新型コロナは空気感染はしないと断言し、飛沫感染と接触感染を防ぐにはどうしたらいいかを紹介している。飛沫感染を防ぐにはマスクが有効だ。

マスクを着用する目的は、自分が感染者であった場合、周囲の人にウイルスを伝搬させないというものですが、着用者も感染する確率が少し減るというデータもあります。(p8)



 マスクを着けていると、完全ではないにしても人に感染させたり、自分が感染したりするリスクを少しでも減らせるのだ。しかし、このマスクを正しくつけてない人を良く目にする。

マスクから鼻を出していたり、マスクを顎につけていて、口と鼻を露出していてはマスクの効果が期待できないので、その点についても確認しましょう。(p40)

本当にこの鼻出しマスクはよく目にする。形だけマスクをつけていても、効果がないのなら無駄なことをしていることになる。

 コロナの関係であまり出歩かないようにしているが、先般やんごとない用事があって30分ほど新幹線に乗った。車両はガラガラだったが、それでもまったくマスクをしていない人が何人かいた。乗車率から言うとものすごく多い。マスクもせずに移動するこいつらのようなやつがコロナを拡散させているのだろう。

 またもう一つの感染ルートである接触感染についても、特に注意すべき部分を説明している。

 一番いいのは出歩かないことだが、人にはそれぞれ事情がある。どうしても移動しないといけない場合があるだろう。本書を読めば、どういう部分に特に気を付ければいいかが分かるだろう。ただし、100%コロナ感染が防げるという保証はないことをよく理解した上で行動して欲しいと思う。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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「池の水」抜くのは誰のため? 暴走する生き物愛

2020-12-18 10:15:19 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 このタイトルは某テレビ局の人気番組から来ていることは明らかだ。これは池の水を抜いて、そこに住んでいる外来種を駆除しようという番組で、タレントが水につかって巨大な外来種を捕まえているシーンを視たことがある人も多いものと思う。私も良く視ている。

 実は、ため池の水を抜いて干すのは、ため池のメンテナンスのために昔からやられてきた「かいぼり」という方法だ。だからこれをやることに対しては別に問題はない。しかし番組に問題点がまったくないわけではないので、二つほど上げてみたい。まず、センセーショナルなタイトルにより、外来種はすべて悪という空気を醸成してしまうこと。本書には、「人が管理出来て、生態系への悪影響やリスクを考えなくてもいいような外来種までも駆除する必要はありません。」(p91)と書かれているが、「人が管理出来る」と言う条件は、動かない植物でない限り無理だと思うので、外してもいいと思う。

 そもそも日本は外来種だらけである、動物はともかく植物ともなると外来種がものすごく多い。目の前に広がるクローバーの原っぱや、春先にそこら中で咲くオオイヌノフグリなどを思い浮かべるといいだろう。私たちが毎日食べているコメだって外来種である。また園芸品種が逃げ出して野良化しているのは良く見る。最近、どこでも見られる鯉を外来種として悪者にする空気がある。しかし、鯉はすっかり日本の生態系に溶け込んでおり、今更外来種という必要はないのではという気がする。日本の生態系に溶け込んでいるものを、いまさら外来種かどうかと議論してもしかたがないのではないか。

 もう一つは「かいぼり」はため池のメンテナンスのためにやるのだから、一度やって終わりというわけではない。定期的にやる必要があるのだが、あれだと一度やって終わりということになりかねない。

 冒頭に、ある千葉市議が、カブトムシの森を復活させようと、長崎からカブトムシを仕入れて放し、批判を浴びた例を紹介している。これがなぜ問題になるのだろう。私などこの批判こそ生き物愛の暴走のように思えるのだが。これに対して、著者は、4つの問題点を挙げている(pp19-21)が、私はこれに賛成できない。これらを一つ一つ反論してみよう。

1.カブトムシを森に話すと、樹液が不足して、他の虫のエサが不足する可能性がある。
(反論)確かにカブトムシがもともといなかった地区に、カブトムシを放すとそのような可能性があるかもしれないが、その場所は元々カブトムシがいたのであり、元の状態に戻るに過ぎない。また、著者は自然の状態で、虫たちが樹液に集まる状態を見たことがあるのだろうか。色々な虫が集まって樹液を吸っており、カブトムシだけになることはまずないだろう。そのようなことがあれば、とっくに樹液を吸う虫はカブトムシ以外絶滅しているはずである。それにカブトムシは夜行性なので、昼行性の昆虫にはあまり影響しないと思う。

2.幼虫の育つ環境があるとは限らず、その場合カブトムシを大量に捨てていることになる。
(反論)これも昔はいたのだから、幼虫の育つ環境がないとは考えにくい。

3.千葉のカブトムシと長崎のカブトムシは別物である。
4.千葉のカブトムシと長崎のカブトムシの間の子供は千葉の環境にうまくなじめない可能性がある。
(反論)その論理を突き詰めると、長崎の人は千葉の人とは結婚してはいけないということになる。人間だって長崎と千葉ではそれぞれ固有の遺伝子を持っているかもしれない。国際結婚もある。もし遺伝子が理由で結婚に反対したら人種差別主義者として大きな批判を受けるだろう。人間が良くて、他の生物がダメだというのは、一貫性のない勝手な理屈だろう。

 そもそも生物に雄雌があるのは、色々な遺伝子を交雑させるためだ。単一の遺伝子では、何かあるとその種が絶滅してしまう可能性がある。遺伝子の多様性は種の存続を考えるなら必要なことではないのか。他の地域の遺伝子が入ってはいけないというのは、人間の自己満足に過ぎないと思う。「なお「ヒト」つまり人間は、世界中に分布しますが外来種とはいいません」(p40)と書いているが、人間を特別扱いにする理由が分からない。そもそもアフリカ系の人とヨーロッパ系の人では、特徴が長崎と千葉のカブトムシ以上に違うと思う。そしてそれら両方のルーツを持っている人はたくさんいる。

 本書では、ピューマの近親交配が進んで繁殖能力や病気への耐性が低下したため、遠く離れたところからピューマを導入して交雑させた例が紹介されている(pp42-43)。それは良い例とした紹介されているのだが、私には千葉のカブトムシの例との違いがよく分からない。それに千葉の環境にうまくなじめないというのは可能性の話で、証明されているわけではない。生物の進化とはそんなに単純ではないのだ。子供が適応できる可能性だって十分にある。適応できた個体が生き残るだけだ。可能性だけで否定するのは科学的ではない。

 ブラックバスやヒアリのように、これまでいなかった生物を導入し、それが在来種の天敵になり、環境に簡単に回復できないような悪影響を与えたり、人間の生活に被害を与えるような場合は大問題であり、きつく規制すべきだと思うが、カブトムシの例のように、同じ種類の生物がかっていたが、現在はその生物が絶滅したか非常に少なくなったので、他地域からその生物を復活させようとして導入したような場合はあまり目くじらを立てる必要はないと思う。

 日本に元々いないヘラクレスオオカブトなんかを放せば問題になるだろうが、長崎のカブトムシも千葉のカブトムシも見た感じは日本のカブトムシだ。遺伝子レベルを調べないと違いがあるかどうかもわからないのである。日本のトキが絶滅したから中国からトキを導入したことをどう評価するのか。

 その他、ノネコなどの問題、悪質なカメラマンやバサーの問題、希少種の売買の問題など生物多様性を考えていくための材料は色々と含まれていると思う。私は田舎育ちなので、子供の頃には、今よりはるかに多くの種類の生物が見られた。だから総論としては、生物多様性は守るということには賛成だが、各論になると必ずしも本書の主張には賛成ではない。また、私は、希少種の密漁なども厳しく取り締まるべきだと思っている。密漁は間違いなく生物多様性に悪影響を与える行為だからだ。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数値の処理と数値解析

2020-11-09 12:31:33 | 書評:学術教養(科学・工学)

 

 本書も放送大学のテキストである。扱っているのはタイトルの通り数値解析。数値解析とは、方程式を解析的に解くことが困難なものを、数値より近似的に解く手法である。重要な手法だが、通常膨大な計算を伴うので、大変な作業量だったが、コンピュータの発達によりやりやすくなった。

 ただ問題によっては、コンピュータを使っても、計算量が膨大なため、ものすごく時間を要するようなものがある。また昔はメモリそのものの実装量が限られていたし、コンピュータの計算速度も遅かった。そのような中で先人たちは、様々な工夫を行いチャレンジを続けてきたのだ。

 しかし、近似値なので、誤差の問題がどうしても付きまとう。特にカオス的なものは、初期値のほんのわずかな差が時間と共に増大してしまうので注意が必要だろう。

 さて、本書ではその数値解析で行われていることを、様々なトピックにより説明している。あまり正規の大学通信教育でこのような科目があるのは放送大学くらいだろう。本書は各章末に練習問題がついており、最後の解説付きで解答も掲載されているのでこの方面に興味がある人は読んでみるといいと思う。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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