晴、28度、95%
先日、堀江敏幸さんの「曇天記」を読んでいました。その中で「線香花火」に触れた章がありました。そこに引用されていたのが寺田寅彦の文章でした。すぐさま、ネットで青空文庫を開けました。短い文ですが読んだ記憶があります。活字で読んでみたいと思いました。
寺田寅彦を読んだのは高校の2、3年の頃です。文庫本で読みました。その後、母が揃いで全集を買ったので拾い読みをしました。この家の整理の時に「寺田寅彦全集」は残すつもりでいたのに、どうしたことか残した本の中にありませんでした。全集とはいえ新書版サイズです。17冊でも一箱が片手に乗るほどの重さです。捨てる方の本の山に入ってしまったのでしょう。ネットで検索すると、この全集を持っている古本屋に当たりました。ずいぶんお安く売られています。外函、内函に傷みがあると書かれています。思い切って買うことにしました。この古本屋さんは根室にあります。発送後、私の住む福岡までは1週間近くかかるだろうと知らせてくださいました。 根室から札幌を中継しました。さて、札幌から福岡までどうやってやって来たのやら、思いもかけずに早く手に入れることができました。
箱を開けると、本の外函は波を打ってボロボロです。蓋を開けると懐かしい小ぶりな本が17冊。内函は思ったよりいい状態です。私の古本屋通いは高校時代に始まりました。珍しい古本を意気揚々と持ち帰ると、母に「消毒しなさい。」と言われました。要するに虫干しです。そこで天気もいいので、デッキのベンチに並べました。 不思議です古本屋の本の匂いは、福岡でも、東京でもこの根室でもとても似通っています。本、古い紙の匂いです。幸い銀色の紙魚はいないようです。
「寺田寅彦」は夏目漱石との師弟関係で有名です。「吾輩は猫である」の登場人物、「寒月先生」のモデルが寺田寅彦だと言われています。科学者なのに絵も描き、こうして全集まで残した寺田寅彦の書くものは、単に文がうまいというだけではなく科学者としての視線を感じます。 内函に描かれた絵はどれも虎彦の手によるものです。この求めた全集は匂いも強く古いものですが、1冊1冊を確かめると読んだ形跡がありません。つまり私が初めて紐解くことになりました。全集は月1冊ずつ出版されることが多く月報が入っています。
この月報がまた楽しい、第1号は昔の東大学長の茅誠司が書いています。仮名遣いは新仮名遣いに改められていますが、文体は明治の終わり頃までに書かれた文章は古文体です。声には出さず胸の内で声にして読み進めると、古文体はコロコロと流れます。どこに「線香花火」の下りがあるやら、のんびりと読みます。今日もいいお天気です。ベンチの上には本が並びます。