夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『海にかかる霧』

2015年05月01日 | 映画(あ行)
『海にかかる霧』(英題:Sea Fog)
監督:シム・ソンボ
出演:キム・ユンソク,パク・ユチョン,キム・サンホ,イ・ヒジュン,ムン・ソングン,
   ユ・スンモク,ハン・イェリ,チョン・インギ,ユン・ジェムン他

前述の『王妃の館』を観て憮然、TOHOシネマズ梅田別館アネックスに直行。
この劇場、嫌いではないのですが、とにかくトイレが古すぎる
初めて来たとおぼしき女性が「え~、全部和式ぃ?ショックぅ」と叫んでいました。
左端っこのみ洋式だけど、空いていないことのほうが多いです。

韓国で起きたなんたら号の事件と聞いて最初に思い浮かぶのはセウォル号の事故。
てっきり本作はその事故を取り上げた作品なのだと思い込んでいたら、
2001年にこんなに恐ろしい事件が海上で起きていたとは。
基になっているのは2001年に実際に起きた“テチャン号事件”だそうです。

小型漁船“チョンジン号”の船長カン・チョルジュは、
不況と不漁によって追い詰められ、金策に窮する。
家へ帰れば妻は男を連れ込んで堂々と浮気、稼ぎもないくせに旦那づらするなと罵られる。

船を売れば当面はしのげそうだが、大事にしてきたチョンジン号を手放したくはない。
これまでは決して手を出そうと思わなかった仕事だが、
中国から朝鮮族の密航者を運ぶ仕事を引き受けることにする。

カン船長は、頼りになる甲板長のホヨンには事前に相談していたが、
機関長のワノとまだ若手の船員のチャンウク、ギョング、
そして新人のドンシクには何も告げないまま出港。
密航者を運ぶ話を事後承諾の形で聞かされる船員たちだが、どうしようもない。

嵐に見舞われた夜、チョンジン号は沖合で中国船と合流。
荒れ狂う海の上で、密航者たちをチョンジン号へと乗り移らせる。
数十名の密航者のうち、女性はわずかに二人。
そのうち若いほうの娘ホンメが上手く飛び降りられずに落ちてしまう。
思わず海に飛び込んだドンシクは溺れかけたホンメを救い、一目で恋に落ちる。
ホンメのことを放っておけないドンシクは、機関室へと彼女を誘導して匿う。

翌日、監視船が海上の巡回にやってくる。
機関室に隠れているホンメを除き、密航者たちは魚艙に一時的に押し込まれる。
なんとか監視船を追い払い、魚艙の扉を開けると、誰も息をしていない。
オンボロ船ゆえにフロンガスが漏れて魚艙に充満し、全員が中毒死してしまったのだ。
このままでは還れないし、遺体は一体たりとも岸に流れ着かせてはいけない。
カン船長は遺体をぶったぎって海に棄てる。
船員たちにもとっとと遺体を処分せよと指示するのだが……。

実際のテチャン号事件の船長は、どういう経済状況にあったのかわかりませんが、
本作と同様に、沖合で密航者を中国船から乗り換えさせ、
麗水まで運ぶという仕事を持ちかけられて、一旦は断ったそうです。
しかし、最初に提示されて報酬が、最終的に30倍の金額にまで引き上げられ、
自分と家族同様の船員の懐も潤してやることができるならばと承諾します。

朝鮮族の密航者たちは、ブローカーから美味しい話ばかりをにおわされ、
何年分もの収入に当たるお金を払ってコリアンドリームを見る。
韓国で数年働けば、あとの人生は安泰だと信じて。
劣悪な環境の漁船でろくに食事も与えられないまま1週間ほど揺られました。
テチャン号に乗り移ると魚艙と水槽タンクに分けて閉じ込められ、
魚艙に閉じ込められた25名はまったく息をする余地がなく窒息死。
水槽タンクの35名はかろうじて生き延びますが、
密航者なのですから、おおっぴらに生きられるわけもなく。
うち数名が食糧を求めて民家に立ち寄ったために通報され、
過失致死と遺体遺棄の罪で船長ほか船員らは逮捕されたとのこと。

本作では、遺体をぶったぎって棄てたあと、船員のひとりの気がふれます。
そんな奴に通報されてはたまらないと、船長は船員を殺します。
ホンメが隠れていると知り、強姦しようと探し回る船員もいて、
霧に覆われた海に停泊するチョンジン号の恐ろしい姿。

良心を最後まで失わなかった人間だけが生き残るのは希望がありますが、
モデルとなった船員や関係者の親族などはこんなふうに描かれてたまらないでしょう。
だから、あくまでフィクションとして観たい船上サスペンス。
韓流イケメンスターとはほど遠い、ドロドロの韓国映画が似合う演技派ばかり。
『チェイサー』(2008)では元刑事役、『哀しき獣』(2010)では闇社会のボス役、
『ワンドゥギ』(2011)では型破りな教師役だったキム・ユンソクがカン船長を演じています。
監督は『殺人の追憶』(2003)の脚本を手がけたシム・ソンボでこれが初監督作品。
骨太の作品をこれからも撮ってくれそうです。

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