『ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。』
監督:島田陽磨
前夜に『死にたくなったら電話して』を読んだら十三に行きたくなり、
第七藝術劇場にて、ドキュメンタリーを3本ハシゴの1本目。
熊本県で訪問介護の仕事に就いている林恵子さん。
成人した子どもたちが出て行った後、恵子さんは認知症の姉を引き取って暮らしています。
彼女にはもう一人の姉、愛子さんがいました。
恵子さんより20歳上の愛子さんは、母親の亡き後、弟妹の面倒をひとりで見ていました。
なかでも愛子さんによく懐いていたのが恵子さんでした。
しかし在日朝鮮人の男性から見初められて結婚した愛子さんは、
1960(昭和35)年、政府が後押しする「北朝鮮への帰国事業」に乗り、
日本人妻として北朝鮮へと渡ってしまいます。
3年経てば帰ってくると言っていたのに、そのまま半世紀以上が経ちました。
北朝鮮から来る愛子さんの手紙に書かれていたのは、金や衣服の無心。
手紙のみならず電話がかかってくることもあり、
ほとほと嫌になった恵子さんは、愛子さんからの連絡を無視するようになります。
けれど、歳を取って初めてわかる我が姉の気持ち。
大好きだった姉にこのまま会わずにいてよいものだろうか。
一方の愛子さんも90歳を前に、弟妹の、特に恵子さんが元気かどうかを知りたくて、
再び連絡を取れるものなら取りたいと思いはじめます。
姉妹の58年ぶりの再会。
両親の墓参りをしたいという愛子さんの願いは叶わず、恵子さんが北朝鮮へ。
さまざまな規制のもと、やっと会えたふたり。孫同士も会うことができました。
愛子さんの孫が歌う曲にはどれもこれも「将軍様」やら「党」やらの歌詞があり、
なにやらとても複雑な気持ち。
国交が正常化されたら行き来できると愛子さんは言うけれど、そんな日は来ない。
コロナ禍の前に姉妹が会えたことは本当によかった。
今は手紙を送ることすら許されていないそうです。
愛子さんの無事を祈る。