『658kn、陽子の旅』
監督:熊切和嘉
出演:菊地凛子,竹原ピストル,黒沢あすか,見上愛,浜野謙太,吉澤健,風吹ジュン,オダギリジョー他
シネ・リーブル梅田にて、前述の『イビルアイ』の次に。
あんなホラー映画がその日観る最後の作品では寝付きが悪くなりますから(笑)。
“TSUTAYA CREATORS' PROGRAM”で2019年に脚本部門の審査員特別賞を受賞した室井孝介の脚本を映画化。
“TSUTAYA CREATORS' PROGRAM”には企画部門と監督・脚本部門があるようです。
脚本部門の受賞作で映画化された作品って、ほかにあるのかなぁ。
自ら監督するのもいいでしょうが、自分の脚本を一流監督に撮ってもらえるのも嬉しいものでしょうね。
彼女の演技を過去にすごく好きだと感じたことはない気がしますが、これはとても好きでした。
42歳の独身女性・工藤陽子(菊地凛子)は、20年以上前に青森から上京し、ひとり暮らし。
茂は妻子と共に車で青森に向かうから、陽子にも一緒に乗っていけと言う。
なんとか車に乗り込んだ陽子だったが、サービスエリアで置き去りにされるはめに。
茂一家にトラブルが発生したためで、わざとではなかったのだが、
荷物はすべて茂の車に積んだまま、財布には2千円ちょいしか入っておらず、
スマホはたまたま出発前日に壊れて連絡手段がない。
公衆電話から青森の実家に電話するも、話し中だったり、陽子の状況を伝えられなかったり。
父親の出棺は明日正午と聞いている。それに間に合うようになんとかせねば。
致し方なく勇気を振り絞ってヒッチハイクを試みた陽子は……。
学生の頃、何度かヒッチハイクをしたことはあります。けれどもそれはごくごく近場。
男子2人と私1人でその辺の山の帰りに単に疲れたからと、軽トラなどに乗せてもらったことがありました。
でもこれ、完全にひとりきりだったら、怖くてできなかったと思います。
乗るほうもそうだし、乗せるほうだって怖い。世の中いい人ばかりじゃないですし。
コミュ障の陽子は、誰かに声をかけるのもままならない。
トイレの個室にこもって人に声をかける練習をする様子は、姿が見えないから可笑しくも切ない。
意を決して出てくると、そこら中の人に声をかけてみるけれど、
明らかに「おかしな人」の彼女には誰も優しくはしてくれません。
そんな中でも「いいよ」と呆気なく言ってくれる人はいる。
でも、お金を貸してほしいという頼みまでは聞いてくれません。
凍えそうになっている陽子を拾ってくれた男は下心丸出しで、それを断れない彼女は悲惨。
心も体もズタボロになっているとき、心底彼女を心配してくれる人。
握手のシーンには胸がジーンとしました。
自分の親が今の私の歳だった頃、私は何歳で、親はどうしていたっけと最近よく考えます。