夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『鍵泥棒のメソッド』

2012年09月20日 | 映画(か行)
『鍵泥棒のメソッド』
監督:内田けんじ
出演:堺雅人,香川照之,広末涼子,荒川良々,森口瑤子,
   小山田サユリ,木野花,小野武彦他

この間の日曜日、ひょこっと1本だけ観る時間ができたので、
家から最も近いシネコンにて。

ずっと、広末涼子が苦手でした。
すんごく可愛いとは思うけれど、あの笑顔がどうも駄目。
映画でもドラマでもCMでも何かのインタビューでも、
あの笑顔を観るたびに、ホンマは何を考えてるんやろと疑い、
でもこの笑顔になら騙されてもいいとみんな思うんやろなぁって。

本作の広末涼子は笑いません。
そうしたら、めちゃくちゃイイじゃないですか。
これまでの彼女の出演作のうち、本作の彼女がいちばん好き。
こっちの彼女になら騙されてもええぞ。

そもそも広末涼子が苦手なのに、本作をどうしても観たかったのは、
『運命じゃない人』(2004)の監督だから。
結論から言って、あの「幸せなヤラレタ感」に比べると負けますが、
この監督の作品は『アフタースクール』(2008)にしてもそう、
必ずとびっきり幸せなラストが待っています。

売れない役者の桜井武史、35歳。ある日、自殺に失敗。
財布の中には全財産の千円ちょっとと近所の銭湯のサービス券。
ひとっ風呂浴びるかと銭湯へ出向くと、やけに分厚い財布の男を発見。
羨ましげな目で眺めてみたところでどうにもならない。

ところが、あとから浴場へ入ってきたその男が、
石鹸で足を滑らせて派手に転倒。頭を打って動かない。
ほかの客たちが心配そうに様子を窺うなか、
桜井は咄嗟にこっそり、その男が手首に巻き付けていたロッカーの鍵と
自分が持っていたロッカーの鍵を取り替える。

救急車で運ばれた男は病院で目を覚ますが、一時的な記憶喪失に。
何も思い出せず、所持品から自分のことを桜井だと思い込む。
困り果てていたところを某雑誌の編集長を務める水嶋香苗が救う。

一方、ホンモノの桜井は、男が持っていた鍵から車を探し当てる。
所持品から判明した住所に向かえば、なんとも豪華なマンションが。
山崎という名前だと思われたその男は、いくつもの名前を使い分けているらしい。
しかも、誰も顔は見たことがない伝説の殺し屋コンドウでもあると判明して……。

主演は一応堺雅人ではありますが、恐るべし、香川照之。
コンドウのときの彼と、桜井のときの彼の演技のギャップに笑わされっぱなし。
性格の根っこの部分である几帳面さはどちらのときも持ちつづけているけれど、
それがどういう面で活かされるかは、まず「器」があって、
その「器」によって人間は変わることもあるのかも……なんて思ったりして。
彼の生真面目さは、桜井のときには役者として開花する助けとなり、
また、香苗は彼のその生真面目さに「努力の人」として好意を持ちます。
コンドウとしての意識を取り戻してからも絶品。
オタオタする堺雅人演じるホンモノの桜井とのコンビが傑作です。

笑わない広末涼子は、まだ相手もいないのに訳あって結婚を急ぐ34歳。
ニコッともしない彼女と、その彼女に普通に対応する部下たちは、
オフビートな笑いを誘い、これも傑作。

ちょうどこの日、小学生とおぼしき男の子がお母さんに連れられて観に来ていました。
彼の笑いっぷりがまた見事で、釣られて笑うことしばしば。
小学生男子をも虜にするこの作品、いま思い出してもニタニタ可笑しい。

前述の『青い塩』では、2作では好き嫌いは判断できないけどと言いましたが、
内田けんじ監督、『運命じゃない人』以来、私はアナタがだぁい好きです。

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『青い塩』

2012年09月18日 | 映画(あ行)
『青い塩』(英題:Hindsight)
監督:イ・ヒョンスン
出演:ソン・ガンホ,シン・セギョン,チョン・ジョンミョン,
   イ・ジョンヒョク,キム・ミンジュン,ユン・ヨジョン他

2011年の韓国作品。レンタル新作です。
もともと寡作の監督で、日本公開の前作は10年以上前の『イルマーレ』(2001)。
この2作だけではなんとも言えないけれど、かなり好きかも。

ソウルの伝説的ヤクザだったドゥホン。
今はその世界から足を洗い、ヤクザ仲間とも上手くつきあいながら、
母親の故郷プサンで穏やかな日々を送っている。

しかしその頃ソウルでは、ドゥホンがかつて所属していた組の長が死亡。
死にぎわにドゥホンの名前を口にしたことから、
組長はドゥホンを後継者として指名するつもりだったのだと誰もが推察する。

そんなことになっているとはつゆ知らず、
ドゥホンは何を思ったかいそいそと料理教室に通い出す。
いずれ自分がシェフとなって、店を出すのが夢らしい。

料理教室に新しく入ってきた若い女性セビン。
可愛くも無愛想な彼女だが、料理の腕は抜群。
ドゥホンは彼女のことが気になって、時折ちょっかいを出す。

実は彼女は元射撃選手で、ライフル使いの達人。
不運な事故に遭って重傷を負ったうえに借金まで。
競技生活をあきらめざるを得ず、裏社会の便利屋を引き受けている。
彼女はドゥホンの動向を探るために闇組織に雇われていた。

自宅と料理教室の行き来以外、怪しい動きはまったくないオジサン。
セビンはドゥホンのことをそう報告するが、
ドゥホンに生きていられては困る者がいるようだ。
ドゥホンを殺せとの命令をセビンは受けるのだが……。

むさ苦しいオジサンと若くてカワイイ女性。
またしてもオッサンの妄想が入りそうなストーリーですが、
そんな下心はまったくなしに見えるドゥホンがめっちゃイイ。
下心なしなのに、ドゥホンの弟分で寡黙なところがやたらかっこいいエックが、
なぜか兄貴が若い女性を気に懸けていることを知り、
マジメに「援助交際はいけません」と言うところが笑えます。

涙まで消してしまいそうな塩味強めが好きだと言いつつも、
セビンがドゥホンにつくるのは、塩を上手く効かせた優しい味の料理。
彼女が立ち去ったあと、食卓に残された鍋をつつくエックに向かって、
料理には人柄が出ると言うドゥホン。
「こんな料理をつくる子に、俺を殺せると思うか」。

ハードボイルドで絶望的な展開のあとに待っているのは、
これ以上にないハッピーエンド。
ないやろ~という気はしますが、幸せに終わるに越したことはないですから。

こんなんもありなのか?と笑ったのは、海辺の食堂。
「セ~ルフ!」と言っておばちゃんから渡される鍋。
棚に並べられた食材から勝手に好きなものを選び、「サザエが少ないよ」とセビン。
おばちゃんは「サザエだけだね?」と海女姿で夜の海へいきなりドボン。
衝撃的でワロた。

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『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』

2012年09月16日 | 映画(た行)
『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』(原題:The Dictator)
監督:ラリー・チャールズ
出演:サシャ・バロン・コーエン,アンナ・ファリス,ベン・キングズレー他

『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』を観たあと、
同じくTOHOシネマズ梅田にて。

5年前、何の予備知識もなく観て度肝を抜かれた、
『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006)。
その主演で、製作にも名前を連ねるサシャ・バロン・コーエンは、
日本では知名度イマイチかと思いますが、
1週間ほど前の2011年5月から2012年5月までの稼いだ人ランキングで、
堂々の6位と発表されていました。ちなみに1位はトム・クルーズ。

『ボラット』のご紹介もついでにしておくと、
サシャ・バロン・コーエン扮する主人公のボラットは、
カザフスタン国営TVの人気レポーターという設定。
祖国カザフスタン発展のために他国の文化を学ぼうとアメリカへ。
アメリカ国民に突撃取材をおこなうわけですが、これが一種の大がかりなドッキリ。
真面目な取材だと思っている相手に対し、過激な人種差別ネタと下ネタ炸裂。
あちこちで警備員に捕まえられたり通報されたり、唖然呆然。
もちろんサシャ・バロン・コーエンはカザフスタン人ではありません。

さて、この『ディクテーター』はそんなモキュメンタリーもどきではなく、
ちゃんとフィクション然とした作品です。が、過激なネタは相変わらず。

ワディヤ共和国の独裁者アラジーン将軍。
亡き父からは石油だけは売るなと言われ、それだけは守りつづけてきた。
しかし、側近で叔父のタミールは、石油を売って金を儲けたい。

ある日、核開発疑惑に対する反論を国連でおこなうことになり、
アラジーンはタミールとともにニューヨークへ向かう。
そこでアラジーンを抹殺しようと企てるタミールは男を雇う。

ところが、凄腕のはずのその男は、拉致したアラジーンに逆に殺されてしまう。
なんとか逃げ出したアラジーンだったが、トレードマークのヒゲは切り落とされ、
誰もアラジーン本人だと信じてくれない。

タミールが用意したアラジーンの影武者は思考能力ゼロ。
このままではワディヤは民主主義国家となり、石油も売らなければならない。
どうしてもそれは阻止したいが、今の見た目は浮浪者同然のアラジーン。
そんな彼に手を差し伸べたのは博愛主義者のゾーイで……。

やりすぎやろ!というお下劣なネタ満載ですが、
実はサシャ・バロン・コーエンはユダヤ人、敬虔なクリスチャンでお母様はイスラエル出身。
これを知ると、すごいやっちゃなぁと感服してしまいます。
体を張ってマジメにつくった風刺劇に見えてくる不思議。

ゾーイを演じるのは 『キューティ・バニー』(2008)のアンナ・ファリス。
あっちではお色気ムンムンのギャルを演じていた彼女が、
こっちではアラジーンものけぞる脇毛ボーボー女。

逆に殺られるオッサンにジョン・C・ライリー、
中国人からとんでもないことをやらされる俳優にはエドワード・ノートンが本人役で。
これ、ふたりともノークレジットでの出演です。
また、字幕には入れてもらえなかったけれど、ハーヴェイ・カイテルの名前も登場。
アラジーンが絡んだ相手として部屋に飾る写真にはハル・ベリーの姿も見えます。

同じく「稼いだ人ランキング」の上位にいるアダム・サンドラーのように、
ドン引きされるような下ネタ好きでも、
こうしてカメオ出演も厭わない顔ぶれを見ていると、
ホントはいい人で、人脈に長けているんだろうなぁと思ったのでした。

万人にはお薦めしません。物好きな人はどうぞ。
私は嫌いじゃありません(笑)。

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『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』

2012年09月14日 | 映画(あ行)
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』
監督:本広克行
出演:織田裕二,柳葉敏郎,深津絵里,ユースケ・サンタマリア,伊藤淳史,
   内田有紀,小泉孝太郎,佐戸井けん太,小栗旬,香取慎吾他

はい、大好きです。“踊る大捜査線”シリーズ。
早く観に行きたくてうずうず、封切り日翌日に行ってまいりました。

オープニングタイトルには1997年から開始されたドラマの1ショットが
次々と映し出され、これだけでもう嬉しい。
本当に終わってしまうのかと、すでにこの時点で寂しかったりもします。

湾岸署管内で国際環境エネルギーサミット開催中。
別件で張り込み捜査を終えた青島(織田裕二)とすみれ(深津絵里)が湾岸署に戻るも、
強行犯係の署員までサミットの警備に借り出されてほとんどいない。

そんななか、サミットの会場付近から男性が連れ去られる事件が発生。
数時間後にその男性は射殺体で発見される。
湾岸署に捜査本部が設置され、指揮は鳥飼管理官(小栗旬)が執ることに。

ところが、当然判明しているはずの情報が青島らにはちっとも回ってこない。
拳銃の出どころについてすら警察庁のお偉方が隠そうとしている様子。
どうやらその拳銃は6年前の少女誘拐事件で警察が押収したもので、
証拠品の保管庫から盗まれたばかりだったことがわかる。
しかも、今回射殺された被害者は、その誘拐事件の容疑者だった。

おそらく警察内部に協力者がいる。
スキャンダルを避けたい警察庁は、濡れ衣を着せられそうな人物を探すとともに、
警視監の室井(柳葉敏郎)と所轄の青島に捜査の責任を押しつけようとする。
そこへ、湾岸署長に就任した真下(ユースケ・サンタマリア)の息子が誘拐されたとの知らせが入り……。

劇場で観てよかったです。
上映前、TOHOシネマズ梅田へ上がる階段で、前を歩く初老の夫婦。
『あなたへ』でも観に行くのかなと思っていたら、こっちでした(笑)。

コミカルなシーンはさほど多くはありませんでしたが、
ほぼ満席の客は登場人物のキャラをよく知っているのか、ちょっとしたことでもクスッ。
それが劇場内に伝播して、みんながシリーズ最後を楽しんでいる感じ。

音楽もそのまんま。
泣きの場面でよく用いられていた曲が流れると、それだけで涙が出かけたのに、
和久くん(伊藤淳史)ズッコケで爆笑。
いかりや長介や本作公開前に亡くなってしまった小林すすむの姿にもしんみり。

驚いたのは、エンドロールが回り始めても、誰も席を立たなかったこと。
誰もと言うと嘘ですね(笑)、750名ほどが入る劇場で、
私は中央後ろ寄りに座っていましたが、そこから見渡すかぎりでは、
エンドロール途中で席を立った人は4名だけでした。
こんな光景を見たことはちょっと記憶にありません。感激。

いつまでも見ていたい、そんなシリーズでした。
駄作もあったけれど、それもひっくるめて全部好き。
最後にふさわしい作品だったと思います。
このシリーズをまったく見たことがないという人にも楽しめそうだと思うのはひいき目?
リピートする映画なんて『アベンジャーズ』だけのつもりでしたけれど、
これももう一回観に行きたいかも。

15年間、本当にお疲れさまでした。
織田裕二と柳葉敏郎、これを超える適役にはもう会えないだろうなぁ。
彼らの老後だけが心配です。(^^;

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最近読んだ、ロックな青春の本

2012年09月12日 | 映画(番外編:映画と読み物)
夏の暑い盛りにはやはり夏の話が読みたい。
なんぼ夏より冬が好きな私でも。
積み上げた本の中から次に読む本を選ぶとき、
タイトルに夏を感じさせる語が入っていたり、
装丁が夏っぽかったりするものを手に取ってきました。

越谷オサムの『階段途中のビッグ・ノイズ』のカバーイラストは、
夏雲が浮かぶ青空のもと、シャツの袖をまくりあげた男子高校生が、
エレキギター片手に校舎の前で飛び上がる後ろ姿。
おぉぉぉぉ、青春だ、夏だ、ということでこれにしたのですけれど。

開いてみれば4月で、春の気持ちになれない私はガクッ。
ところが話はそのまま先へ進み、最高潮を迎えるのは9月から10月にかけて。
ドンピシャリのうえに、1970~80年代にデビューして今も活躍中のバンド満載。
『最強のふたり』のアース・ウィンド・アンド・ファイアーに続いて狂喜です。

神山啓人(かみやまけいと)は県立大宮本田高校の2年生になったばかり。
急に校長室に呼び出され、所属する軽音楽部の廃部を言い渡される。
軽音楽部の部員は啓人を含めて実質たったの3名。
そのうちの2名である3年生、つまり啓人の先輩が、
屋上でマリファナを吸って捕まったと言うのだ。
保護者への申し訳として、軽音楽部は廃部にすると言う。

理不尽だと言い返そうにも、あまりに突然すぎて何も言えない。
なかば放心状態でいたところ、九十九伸太郎(つくもしんたろう)から声をかけられる。
2年で同じクラスになった彼は、入学時に軽音楽部へ入ったものの、
その後すぐに来なくなってしまったヤツだ。
軽音楽部とは名ばかり、楽器も弾けない先輩だけの場所は嫌だったらしい。
それでも伸太郎はずっと、たった一人で黙々とギターを練習する啓人のことを気に懸けていたのだ。

いきなり廃部だと聞いた伸太郎は啓人に代わって激怒、校長室へ向かう。
のほほんとした校長は、伸太郎の話に一理ありと認め、
いくつかの条件付きで軽音楽部存続を許可する。

その条件とは、自分たちで顧問の教師を見つけること、
練習には必ず顧問同席、半年以内に何らかの成果を挙げること。
これらのうちひとつでも守れなければ即廃部。

楽勝と思いきや、不祥事を起こした部の面倒をみようという教師はなかなかいない。
それに、活動しようにも部員は啓人と伸太郎だけで……。

啓人の兄は軽音楽部全盛期の同校卒業生。
彼のアドバイスにより、冴えない国語教師、加藤(通称カトセン)に顧問を依頼します。
ほとんどしゃべらない、何を考えているかもわからないカトセンが実に良くて、
中盤に一度泣かされてしまいます。

また、新たに部員に加わるのはギターの達人で中性的美男子の嶋本勇作。
吹奏楽部の打楽器奏者のエースでありながら、スパルタに呆れて辞めてきた岡崎徹。
部員じゃないけど彼らを応援するのが水泳部の可愛い顔して大食漢、大野亜紀。
水泳部の顧問で不祥事を起こした生徒の担任だった森女史と、
個性豊かな面々がぐいぐい話をひっぱって行ってくれます。

文化祭「田高マニア」の模様には胸が熱くなります。
キッスにグリーン・デイ、ラモーンズ、オフスプリング。
野球部が「曲名がわからんけど」とリクエストするのは「どんどんぱんの曲」、
これ、クイーンの“We Will Rock You”です。(^^;
最後まで声を聴かせてもらえなかった『BECK』(2010)よりも、
こっちのほうが声まで聴こえてきそう。

マンガにはなっているようなんですけれど、映画化はしないんですか、これ。
文化祭シーズンにピッタシです。

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