夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『東京家族』

2013年02月11日 | 映画(た行)
『東京家族』
監督:山田洋次
出演:橋爪功,吉行和子,西村雅彦,夏川結衣,中嶋朋子,林家正蔵,
   妻夫木聡,蒼井優,小林稔侍,風吹ジュン他

先月の公開前、JCOMでTV試写会があったのですが、抽選に見事はずれ。
画面上でクジを引いて、その場でわかる当選落選結果の素っ気ないこと。
ちょっと笑うぐらいでした。
で、タダで観るのはあきらめて、ワーナー・マイカル・シネマズのレディースデー、月曜日に。

山田洋次監督といえば「寅さん」。
しかし私は『007 スカイフォール』(2012)を観るまでは“007”シリーズ未見ならば、
“男はつらいよ”シリーズも1本も観たことがありません。
“男はつらいよ”は“007”の倍以上の数が撮られているのですよね。
これだけは観ておけというものがあればぜひ教えてください。

小津安二郎監督の『東京物語』(1953)のリメイクとのことですが、
主人公夫婦が暮らす町は、広島の尾道から芸予諸島の大崎上島町へと移されています。
時ももちろん20世紀半ばから現代へ。

2012年5月、大崎上島町に住む平山周吉と妻のとみこは、
子どもたちに会うために東京へとやって来る。
郊外で開業医を営む長男の幸一の家では、嫁の文子がもてなしの準備に追われる。
その息子たちで、孫に当たる実と勇は文子の気も知らずに好き勝手。

そこへ顔を出したのは幸一の妹で周吉夫婦の長女、滋子。
品川駅へ着くはずの両親の迎えを弟で次男の昌次にまかせたが、
いつもボケボケの昌次は、誤って東京駅に迎えに行ったらしい。
いらちの周吉は昌次が来るのを待っていられないと、タクシーで幸一宅へ。
初めて見るカーナビに目を丸くするとみこ。

ようやく到着した昌次をまじえて、久々に家族全員が揃って団欒。
和やかなひとときが流れるが、翌日からが大変。

東京見物に両親を連れて行こうとするが、幸一には急患の連絡が入る。
美容院を経営する滋子とその夫の庫造は、商店会などの催し物への参加もあって多忙。
頼みの綱は昌次だが、フリーターの彼に周吉の目は冷たく、ろくに話そうともしない。
庫造にしても、義母のとみこだけならいいが、義父の周吉は苦手だと言う。

いつ帰るとも知れない両親の相手に手を焼いた子どもたちは、
高級ホテルに連泊させようと目論むが上手く行かず。
どうしても相手できないと言われた日、周吉ととみこは別行動を取り、
周吉は旧友のもとへ、とみこは昌次のアパートを訪れることに。
とみこはそこで思いがけず昌次から恋人の紀子を紹介されて喜ぶのだが……。

今が舞台にもかかわらず、家のつくりも景色も何もかもが懐かしい。
何よりも役者たちの話す日本語がとても綺麗で、はっきり聞こえます。
映画であってもモソモソ話すことが多いため、
何年か前から邦画も字幕付きで観るのがマイブームでしたが、
これはそんなものはまったく不要。もちろん「ら抜き」も出てきません。
そういう意味では時代に合わない不自然な作品なのかもしれませんが、
なんでしょう、この優しく落ち着ける雰囲気。

震災の影響で公開が延期になった作品といえば『のぼうの城』(2011)がありましたが、
本作も同じく1年以上公開が延期になった作品です。
それゆえ配役にも変更が生じ、菅原文太と市原悦子から、橋爪功と吉行和子になったそうな。
この吉行和子演じるとみこ、「母さん」が愛らしくてたまらない。
とみこの死後にやっと昌次のいいところに気づく周吉が、
それでも本人には面と向かって伝えられず、紀子に話すところは涙腺ぼろぼろ。
10本観たら7本は泣いている私なのですけれど。(^^;

日本語っていいな~とあらためて思わせてくれた作品でした。
ただ、予告編にも組み込まれていたシーンで、
周吉が「母さん、死んだぞ」と昌次にあらためて言う箇所について、
昌次がウッと泣くまでの時間があと数秒長いほうがよかったなぁと思うのは私だけ?

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『アウトロー』

2013年02月09日 | 映画(あ行)
『アウトロー』(原題:Jack Reacher)
監督:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ,ロザムンド・パイク,リチャード・ジェンキンス,
   デヴィッド・オイェロウォ,ロバート・デュヴァル他

「映画の日」に前述の『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』とハシゴ。
貸切状態だったそれに対し、こちらは遅い時間帯だというのに相当な入り。
劇場ロビーも大混雑していて、近くにいた若い女の子ふたりなんて、
「うわぁ、めっちゃ混んでる~。市民全員来てるんちゃう?」と話していました。
そんなこたぁないやろ。(^^;

世の中の背の低い男性たちに希望を与えつづける存在、トム・クルーズ。
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)ほどではありませんが、
本作でも「こんな50歳、アリ?」と思わせる活躍ぶり。
監督は、そのヒネリに度肝を抜かれた『ユージュアル・サスペクツ』(1995)の脚本家で、
面白くないわけがなかろうというところ。
観ようと決めてから私の頭の中はずっと甲斐バンドの『漂流者(アウトロー)』が流れていましたが、
原題は主人公の名前を単刀直入に、“Jack Reacher”です。

ある日、ピッツバーグ近郊の川沿いで、6発の銃声が鳴り響く。
対岸のビルから発砲されたとおぼしき銃弾は、5人の男女に命中。
現場に残された証拠から、元米軍の狙撃兵ジェームズ・バーがあっけなく逮捕される。

ところが、警察の尋問に黙秘を続けるジェームズは、
「ジャック・リーチャーを呼べ」とだけメモ書き。
その後、護送中に車内で暴行を受け、瀕死状態で病院へ運ばれる。

担当刑事のエマーソンとベテラン検事のロディンがジャック・リーチャーについて調べたところ、
元エリート軍人の流れ者で、その存在はまるでゴースト。所在も何もかもわからない。
どうやって呼べばいいんだと困り果てていると、突然ジャック本人が現れる。
どうやらジャックとジェームズは友人関係にあるわけではなく、
ジェームズはジャックならば真相を解明できると考えたらしい。

ロディンの娘で、ジェームズの弁護士を務めることになったヘレンは、
「ジェームズはろくでなし、犯人にまちがいない」と言うジャックに協力を仰ぐのだが……。

イマっぽいアクション映画というよりは、どこか古めかしい匂いがします。
目にも留まらぬ速さの動きが行き交うこともありませんから、
ハラハラドキドキしながらもわりと落ち着いて観ていられます。
ジャックがめちゃくちゃ強くて凄い打撃を受けないところにも安心感。(^o^)

御年82歳のロバート・デュヴァルが、射撃場のオーナーとして登場。
嬉々としてジャックを援護する爺さんを好演しています。
だけどこの人、4度も結婚歴があり、今の奥様は41歳下なんですと。
やるなぁ、爺さん。ずっと元気でいてほしいものです。

ヘレン役のロザムンド・パイクも○。
美人で知的なのに、可愛らしい一面をいつも見せてくれます。
記憶に新しいのは、『ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して』(2010)で、
オーウェン・ウィルソンに振り回される奥様役でした。
私は笑えなかった『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』(2011)も、
心理学者役だった彼女だけはよかったです。

犯人にも犠牲者にも先入観を持たずに事件を見直せというジャックの言葉に唸りました。
先入観は必ず持ってしまうもの。
それを払拭できれば、ちがう物の見方ができるんだなぁ。

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『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』

2013年02月07日 | 映画(た行)
『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』
監督:行定勲
出演:阿部寛,小泉今日子,野波麻帆,風吹ジュン,真木よう子,
   忽那汐里,大竹しのぶ,羽場裕一,荻野目慶子,岸谷五朗他

仕事帰りに近所のシネコンへ急いだら、なんと客は私ひとり。
久々の貸切状態に、途中から座席の上で体操座り、
さらには前席へ脚を投げ出して映画鑑賞した私を許してください。
この日は1日、「映画の日」だというのに大丈夫なんでしょか。

原作は未読ですが、直木賞作家である井上荒野の同名小説。
本の購入代も節約しようと思い、最近は積み上げてある本から読んでいますが、
じきに我慢できなくなって、またあれこれ買ってしまいそうな予感。
そのときにはこれも読んでみたいです。

大島に暮らす松尾春二には、病床ですでに意識のない妻、艶(つや)がいる。
彼女に人生を懸け、彼女のせいで人生を狂わされた春二は、
包丁を片手に病室を訪れるが、どうしても彼女を刺すことができない。

春二は艶を見知っているはずの男たちに連絡を取ろうと、電話をかけ始める。
艶の処女を力づくで奪った従兄の小説家、
艶の元夫でほぼひきこもりの生活をする資産家、
艶の不倫相手や、艶がストーカーしていた若い男などなど。
艶危篤の報せは、こうした男たちを取り巻く女たちにざわざわとした感情を呼び起こし……。

従兄の妻、元夫の愛人、不倫相手の妻、ストーカー相手の恋人、
そして艶のせいで父親から捨てられた娘。
これ以上はネタをバラさないほうがおもしろいだろうと思うのですが、
観終わってから公式サイトを見たらそのまんま書いてあるじゃないですか。
大竹しのぶ演じる女が誰かってこと。(^^;

138分とわりと長めですが、オムニバス風なので、そう退屈でもありません。
ただ、オムニバスならば最後に登場人物が繋がるというオチが私は好きなもので、
本作に関してはそんなこともなく、ちょっと物足りない感。

ま、ヤジウマ的に観るのが楽しいんじゃないかと思います。
キョンキョンと荻野目慶子の取っ組み合いの喧嘩とかまさにそう。

大竹しのぶ演じる早千子がひとり艶の病室に入り、
意識のない艶の胸元をそっと広げるシーンは印象に残りました。
艶に会えば、どんな男も骨抜きにされてしまう。
そんな女の体はさぞなまめかしかろうと想像されるのに、
広げた胸元にいくつもの傷が見えたとき、早千子の頬を涙が伝うのです。

関わった男どころか、誰も弔問客がいない艶の通夜。
そこへひょっこり顔を出す悪ガキとその母親。
3人で棺桶を覗き込むラストシーンはとても好きでした。

結局何が言いたかったんだろうと考えると、
クレイジーケンバンドが演奏するエンディングテーマ曲の歌詞に尽きるのではないかと。
「ま、いいや。愛し抜くことができたから」。

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『みなさん、さようなら』

2013年02月05日 | 映画(ま行)
『みなさん、さようなら』
監督:中村義洋
出演:濱田岳,倉科カナ,永山絢斗,波瑠,安藤玉恵,志保,
   ナオミ・オルテガ,田中圭,ベンガル,大塚寧々他

シネ・リーブル梅田で作った「TCGメンバーズカード」を片手にテアトル梅田へ。
はい、もう一度申し込んだりはしていません。(^o^)

近頃、団地の話がブームなのでしょうか。
本作、それから5月に公開予定のクドカン監督、草彅くん主演の『中学生円山』。
先日DVDで観てめっぽう面白かった『アタック・ザ・ブロック』(2011)は、
異星人に団地(=ブロック)が襲撃される話でした。
手元には原武史・重松清共著の『団地の時代』という本もあります。

同名の原作を3分の1ほど読んでから観ました。
全部読んでから観たかったのですが、
結果的には読めずに観たせいかおかげか衝撃度がグンと上向きに。
単に団地の中だけで生きていくと決めた少年の話かと思いきや、
そこには隠された悲しい理由がありました。

1981年の春、芙六小学校を卒業した107人は、全員団地暮らし。
そのうちの一人、度会悟は突然、「一生、団地の中だけで生きてゆく」と決める。
中学で担任となった横田先生がなんとか登校させようとやってくるが、
読み書き計算、生きていくのに必要な力はすべて家で身につけられる、
中学にかようなんて時間の無駄だと悟は断言。
そんな悟の意見を尊重し、生き方を悟にまかせる母親の日奈。

団地にこもって規則正しい生活を続ける悟。
朝の乾布摩擦にはじまり、体力づくりに読書にと徹底したスケジュールをこなす。
芙六小学校の同期卒業生全員の安否確認をしなければ気が済まず、
チェックシートを携えての毎晩定刻の団地内パトロールも欠かさない。
しかし、卒業生は毎年少しずつ団地から出て行って……。

途中まではバカバカしい話だと笑える雰囲気で、明るく進みます。
予告編で惹かれた横田先生役の安藤玉恵は、
「団地団地って」と言うだけのチョイ役ながら存在感ばっちり。
団地内だけで本当に生きてゆけるのかという懸念など物ともせず、
団地内のケーキ屋“タイジロンヌ”で就職まで決めてしまう悟。
団地にはないものが欲しいときだって、買い物を人に頼めばいいわけで。

悲しい話が裏にあるとは予想だにしていなかったため、青天の霹靂でした。
出たいのに出られない。でも出るときってこんなもの。
何があっても守りたい人がいれば、守らなければならない約束があれば、
その一歩は踏み出せるものなのかなぁ。

カナダ/フランス作品に同タイトルの『みなさん、さようなら』(2003)がありました。
観る前は同じタイトルでも全然ちがう中身だと思っていたのに、
観終わってみたら、全然ちがうにもかかわらず、同様の感慨が。

原作では“タイジロンヌ”の師匠はかなりお洒落な男前、
その師匠に「わりとイケてる」と言われる悟も当然男前。
両者とも(師匠役は映画ではベンガル)、イメージ的にはずいぶん違和感がありますが、
12歳から30歳までをノーメークで演じられる役者なんて
濱田岳くんぐらいでしょうから致し方なし!?

ケーキが売れ残らないようにつくる営業努力については
原作も映画も非常に興味深かったです。
原作のほうがより詳細で思わず唸りましたので、ぜひご一読を。

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『塀の中のジュリアス・シーザー』

2013年02月03日 | 映画(は行)
『塀の中のジュリアス・シーザー』(原題:Cesare Deve Morire)
監督:パオロ・タヴィアーニ,ヴィットリオ・タヴィアーニ
出演:コジーモ・レーガ,サルヴァトーレ・ストリアーノ,ジョヴァンニ・アルクーリ,
   アントニオ・フラスカ,フアン・ダリオ・ボネッティ,ヴィンチェンツォ・ガッロ,
   ロザリオ・マイオラナ,ファビオ・カヴァッリ他

先月最後の土曜日、封切り日にシネ・リーブル梅田にて。

昨年末日で「シネ・リーブル シネマポイントカード」が終了したので、
「TCGメンバーズカード」を新しく作ることにしました。
年会費1,000円で、1,000円あるいは1,300円(曜日による)で観ることができ、
入会時には当日から使える無料鑑賞券がもらえます。
懸賞フリークかつ各種会員制度のお得度をチェックするのが好きな友人に
このメンバーズカードの話をしたら、「毎回カードを作ってもいいね」。

目からウロコでした。そんなこと、考えたこともなかった~。
そうか、もしも1,300円の日に行った場合は、
また年会費1,000円を払って無料鑑賞券をもらえばいいのか。
と思いつつ、小心者ゆえ何度も申し込みはできそうにありません。(^^;
それに、無料鑑賞券をもらえるキャンペーンは一応2月末までとのことですし。

しかし、同日に他の映画館でもメンバーズカードを作り、
そちらでは氏名や住所等の記入をしなければなりませんでしたが、
ここでは何の記入もしなかったような気が。
だったらホントにこんな申し込み方をする人、いません?

また前置きが長くなりました。
本作はイタリアの巨匠タヴィアーニ兄弟の作品です。
本物の囚人が多数出演していることもあり、まるでドキュメンタリーのよう。
76分の中編作品ながら重厚感たっぷり。

ローマ近郊のレビッビア刑務所の重警備棟では演劇実習がある。
新年度の演目はウィリアム・シェイクスピアの“ジュリアス・シーザー”。
出演を希望する囚人はオーディションを受けることに。
選出された囚人らは、演出家ファビオ・ガヴァッリの指導のもと、
6カ月後の一般人を観客とする舞台に向けて練習を開始する。

冒頭はその6カ月後の舞台、クライマックスシーンから。
遡ってオーディションのシーンへと移ります。

このオーディション風景はかなりおもしろい。
氏名、誕生日、出生地、父親の名前を言わされるのですが、
二通りの言い方で言うようにと注文があります。
一つ目は、国境で妻との別れを泣いて惜しみながら。
二つ目は、強制的に言わされて怒りを感じながら。

キャストが決まると、熱の入った稽古風景が見られます。
役者になりきって、自室でも台詞をくり返す囚人。
演劇実習に興味のない囚人たちからは蔑まれたりもしますが、
そんな雑音はまったく聞こえていないかのよう。
ときには台詞に自らの人生を重ね合わせ、辛そうな姿も。

正直言って、しばし寝てしまいそうになったシーンもありましたが、
試みだけでじゅうぶんにおもしろいかと。
囚人の顔ぶれがとにかく凄くて、殺人とか麻薬売買とか最低でも刑期14年。
差別的な見方でしょうが、ようこんな人たちが芝居に没頭できたなぁと感心。
出所してから俳優になった人もいて、それには客席から「マジかよ!?」的な笑いも起きていました。
そこまで演技に取り憑かれるなんてと思うものの、
舞台を終えて独房に戻る彼らを見れば、生き甲斐になっていたんだとわかります。

人は自分自身を演じている。
そんな『アルバート氏の人生』の台詞も思い出しました。

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