雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

みめ麗しき女官

2020-05-28 08:13:19 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語

             みめ麗しき女官



殿司(トノモツカサ・清掃や灯火などを担当する部署)に仕える女官は素敵ですねぇ。
身分の高い女房が仕えるところではありませんが、良家の姫にもぜひ経験させたいようなお勤めです。
若くて、しかもみめ麗しい女官が、きちんとした服装で勤めている姿は、とても好もしいものです。
そして、経験を積んで少し歳を重ねますと、何事に対しても気後れすることはなく、てきぱきと物事をこなしている姿も、さらに素晴らしいものです。

願わくば私も、殿司に仕えているような、特別みめ麗しく、気立てがとても良い若い女官を一人召し抱えて、季節ごとに流行の先端を行っているような艶やかな着物を着せて、宮中を闊歩させてみたいものですわねぇ、ホホホ・・・。


                        (第四十四段 殿司こそ・・、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝帰りの心得

2020-05-16 08:12:31 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語

             朝帰りの心得


想い人のもとから朝帰りをする男性には、それなりの心得があるはずですよ。

まだ明けきれぬうちから起き出して、そそくさと身支度をするなどは最低です。
いくら時間が気になるからといっても、寝床から離れるそぶりなど微塵も見せないで、
「もう、朝ですよ」
と、女性に言わせることが大切なのですよ。
さらに、そう言われながらも、なおぐずぐすと寝床から離れようとしないで、昨夜からの甘い会話の続きを楽しみながら、女性に急かされて仕方がない様子で着替えすることが大切なのです。
衣服も少々だらしなく、首元も緩んでいるような状態で、女性の肩を抱き、次の逢瀬までの切なさなどをささやきながら出口に向かい、女性が同じように切ない気持になっているうちに、滑り出すように外へ出るのです。

想い人のもとから朝帰りするからには、この程度の心得が必要なのは、当然のことでございましょう?


                         (第六十段 暁に帰らむ人は・・、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

昔話もほどほどに

2020-05-04 08:16:03 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語

              昔話もほどほどに

秋の草花の中で、すすきに勝るものはございませんでしょう。
蘇芳色(スオウイロ・黒味を帯びた赤色)に、それもとても色濃く輝き、特に、朝露に濡れてうちたなびいている姿は、秋の象徴ともいえるほどのすばらしさです。
しかし、秋も終りの頃ともなりますと、まったく目も当てられない様子になってしまうのです。

秋の盛りには、たくさんの花々が色鮮やかに競い合っていましたが、それらはみんなそれぞれの役目を果たして散ってゆき、跡形さえもなくなっていますのに、すすきだけは冬の末までも、頭が真っ白になり、しかもざんばら髪に乱れているのにも気づかず、いかにも昔の栄華を懐かしがっているように風に吹かれている姿は、何とも哀れなものでございます。
その姿は人の姿にも似ていて、思い当たる節もありますゆえに、いっそう不憫に感じてしまうのです。

昔の栄華を語るのも、ほどほどにしたいものでございます。


         (第六十四段 草の花は・・、より)




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カラスって面白い

2020-04-22 08:13:50 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語

               カラスって面白い

カラスって、とても賢い鳥だってご存知ですか。
でもね、おもしろいところもあるのですよ。

夜になると、それぞれの塒(ネグラ)に帰るのですが、夜中になっても寝場所が定まらないのがいるらしく、互いに場所を取り合って騒ぎだすの。
そのうちに枝を踏み外して落ちそうになるのやら、枝伝いに動きながら寝ぼけたような声で鳴くのやら、昼間に見るのとはまるで違って、間抜けで愛敬たっぷりなんですよ。

ところがね、夏の夜は短くて、それでなくとも忍ぶ逢瀬の時間はあまりにも短いものでしょう?
それなのに、空がほんの少しでも白みかけてくると、まだ後朝(キヌギヌ)の別れには切ないと思っていますのに、部屋の真上のあたりから、明けガラスが声高く鳴いて飛び立っていくのですよ。
何だか、昨夜からの逢瀬を見透かされているような気がして、可笑しくなってしまいますわ。ほんとに、いやですよねぇ・・・。

 

(第六十八段 たとしへなきもの ・ 第六十九段 忍びたるところ、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

品格が顕れます

2020-04-10 08:12:17 | 麗しの枕草子物語

        麗しの枕草子物語

            品格が顕れます


郎等や従者の姿振る舞いを見ますと、主人の品格が想像できるものです。

主人がつまらない用事で長居しているような時こそ、お供の郎等や従者の振る舞いが、多くのことを教えてくれます。
待たされる時間が長くなり、夜も次第に更けてきますと、「斧の柄も腐ってしまいそうだ」などと大あくびをしている従者を見ますと、その従者はその程度の者なのだと思うだけですが、日頃優れた人物だとうわさされている主人さえも、何だかつまらない人物に見えてきます。

身分高く、教養もあるとされているお方のお供の者は、さすがにしっかりされているものですよ。
人を使う身になれば、召し連れる者にそれなりの教養を付けさせるべきです。


(第七十段 懸想人にて・・、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

内裏の暮らし

2020-03-29 08:10:03 | 麗しの枕草子物語

     麗しの枕草子物語 
          内裏の暮らし


私が経験した宮中での生活の中では、登花殿の西廂の細殿での暮らしが、とても印象深く、情緒がありました。
少し狭いので、里から人が訪ねてきた時など不便なこともありますが、通りに面しているものですから、いつも人目を気にしますので、その緊張が張りのある生活を演出してくれるのでしょうね。

特に夜は、いつ訪れる人があるかと、まあ、華やいだ気持ちで過ごすことが多くなります。
警備の衛府官などの足音が、夜中じゅう絶えることがありませんが、その足音が一つ離れて細殿に近付いてきますと、少しでも心当たりのある女房は胸をとどろかせ、じっと耳を澄まします。
「とん、とん、とん」
その忍びやかな音は、どれも同じようではありますが、細殿に住む女房たちは、しっかりと聞き分けることが出来るのです。
忍びやかな音が、残念ながら、となりの局を訪ねるものであれば、そっと滑り寄って、その会話を聞くこともあったりしましてねぇ。

宮中の生活では、貴公子や上達部などの艶やかなお姿や、秀でた詩歌などに接することも多く、さらに、畏れ多くも、帝や中宮様にさえ親しく接する誉れもありますが、このように、宮仕えする女房たちのささやかな喜びも、それはそれで、まことに麗しいものでございます。


(第七十二段 内裏の局・・、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雅やかな細殿

2020-03-17 08:12:44 | 麗しの枕草子物語

     麗しの枕草子物語 
           雅やかな細殿


登花殿の細殿のお話を続けましょう。

たくさんある局のなかでも、登花殿の細殿は、人々の訪れも多く、華やかな宮中の風情が数多く見られる所です。
多勢の人々が、詩を吟じ歌など詠いながらやってきますと、私も戸を開けて歓迎いたしますが、まさかお入りにならないと思っている方々までも足を止められるものですから、狭い私の局ではとても座ることも出来ません。
多くの人は、立ったままで夜を明かし、話をし、歌など詠うのですが、それはそれは、何とも情緒があるものですよ。

若々しい公達は、立派なお召物なのですが、何分お盛んに動き回るものですから、背中のあたりが少しほころびていて、それを気にされているお姿の何と瑞々しいことでしょう。
六位の蔵人は、位は低いのですが青色の制服姿が凛々しくて、その所作も好ましい人が多いのです。この賑やかな場にあっても、青色の衣を着ている限りは、姿勢を正して立っているのですよ。
また、世慣れた殿方たちは濃い色の指貫に、直衣は色鮮やかなものを着て、袖口から下襲や単衣をのぞかせているのもいかにもおしゃれで、鬢など直しているお姿はとても風情があるものです。

それにも増して、賀茂の臨時祭の調楽などは、主殿寮の官人の持つ長い松明に照らされて、笛など吹きながらゆく貴公子たちのお姿は、それはそれは雅やかで、すばらしいものでございます。


(第七十二段 内裏の局、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

華やかな日々

2020-03-05 08:13:36 | 麗しの枕草子物語

     麗しの枕草子物語
          華やかな日々

中宮さまが、職の御曹司におはします頃、それはそれはすばらしい日々でございました。

建物全体は古色を帯びていて、なかなか趣深いものでした。
ただ、鬼が棲んでいるとのことなので母屋は締め切り、南側に建て増しをして中宮さまの御座所とし、その廂に私たち女房の局も頂戴しておりました。

陽明門から左衛門の陣へと、上級貴族である上達部(カンダチメ)や殿上人たちが次々と中宮職の前を通って参内されるのです。
上達部がお通りになる時は、先駆けの「オーシ」という声は高く長く、殿上人の場合は先駆けの声は、低く短くなります。
私たち女房は、いつもその声を聞いているものですから、その声を聞き分けて、あれは誰々だ、いや違うなどと話し合い、時には確認に行ったりして楽しんだものです。

有明の月の頃、霧が立ち込めている庭に私たちが降りて歩き回るのを中宮さまもお耳にされて、お姿をお見せになる。そばにお仕えされている女房たちも縁先に座り、賑やかに遊んでいるうちに霧も薄れ空も白んできます。
「左衛門の陣へ行ってみましょう」
と私たち数人が出掛けると、私も私もと人数が増えていきました。
すると、私たちが向かう方向から、
「・・・一声の秋・・・」などと吟じながら殿上人が多勢やってくるので、私たちは大慌てで逃げて帰りました。

夜と言わず昼と言わず、職の御曹司に殿上人の姿が絶えることがありません。上達部の方々も、参内の途中に必ずこちらにお寄りになられます。
いつも人声は絶えることはなく、まことに華やかな毎日でございました。


(第七十三段 職の御曹司に・・、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

私って大泥棒?

2020-02-22 08:13:59 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語
               私って大泥棒?

頭(トウ)の中将殿がなさる、私に関するいい加減な噂話を本当にされたのでしょうね、殿上の間などで、それはそれはひどい言葉で私のことをけなしておられました。
そのことを伝えて下さる人も居られましたが、それを聞くだけでも恥かしい思いでいっぱいでしたが、全く誤解されていることですから、そのうちに本当のことを知っていただけるだろうと思って、そのままにしておりました。

しかし、その後も頭の中将殿の気持ちは変わらないようで、私の近くを通る時は袖で顔を隠し、私の声が聞こえるような時は耳を塞ぐなど、私への憎しみは薄れることはないご様子でした。
そのような状態がしばらく続いたあとの、ある夜のことでございます。
私が同僚の女房たちとお話などしていますと、使いの者がやってきて、頭の中将殿からの伝言だと言うのです。
さらに「ご返事を早く」と急かすのです。

あれほど私のことを憎んでおられたのに、何の用事なのかと思いましたが、急いで見る必要も感じませんので、
「すぐにご返事しますから、さあ、お帰りなさい」と使いを返しました。
ところが、その使いはすぐ引き返して来て、
「頭の中将様は大変ご立腹です。さあ、早くご返事を書いて下さい」と、必死に言うのです。
急かされるままに、私はお手紙を開きました。
中を見てみますと、考えていたような苦情のお言葉ではなく、青い薄様の美しい紙に、みごとな文字が書かれていました。
「華やかな中央官庁の錦の帳の下で、あなた方は楽しいことでしょう」といった内容の白楽天の詩が書かれていて、「下の句は、いかにいかに」と書いてありました。

これは大変有名な詩でございますから、もちろん下の句は承知しておりますが、この程度の詩を知っているからといって、自慢げに、しかも漢詩を書いて送るのもどうかと思い、少々困りましたが、使いの者はしきりに急がせますし、仕方なく、頭の中将殿からのお手紙の末尾に、炭櫃の消し炭を使って、『草の庵を誰か訪ねむ』と書いて、使いに持って帰らせました。
この言葉は、藤原公任卿の句から拝借したものですが、その後、頭の中将殿からは、何のご返事もありませんでした。

さて、このあとのことは、源中将殿や橘則光殿から聞いたことでございます。
実はあの時、蔵人の頭の宿直所には、大勢の人たちが集まっていましたが、その席で頭の中将殿は、
「あの清少納言という女と縁切れになっているが、どうも何かと不都合で仕方がない。あちらから詫び言でもあるかと思っていたが知らん顔をしている。今宵は、どういう結果になろうとも決着をつけたい」
と、集まっている殿上人たちと相談し、あの手紙を送って来られたのです。
一度手ぶらで帰ってきた使いの者には、「相手の腕を掴んででも返事を書かせよ。それでも書かなければ、こちらからの手紙を取り返して来い」と、厳しく命じられたそうです。
二度目に帰ってきた時には、差し出した手紙を持って帰ってきたものですから、「返してきたのだな」と、たいそう不機嫌なご様子でしたが、突然大きな声を出されました。

「何と、この大泥棒めが。当代随一の歌人の句を盗むとは。なるほど、彼女はただ者ではないな」
頭の中将殿の大きな声にまわりの人たちも手紙を覗き込みました。
「今度は、こちらがこの句に『上の句』を付けてやろう。源の中将、付けよ」
ということで、全員で遅くまで相談し合いましたが結論が出ず、
「これほどの返事に、いい加減なものを返したのでは、恥の上塗りになってしまう」
ということになり、返事はしないままになってしまったようです。

則光殿によりますと、私の返事次第では「宮中から追い出してやろう」というほどのことになっていたらしく、たとえ冗談にしろ、うっかりした返事をしなくてよかったと、胸がつぶれるような思いがしました。
この返事のことは殿上人たちの間で大変な話題になり、『草の庵を誰か訪ねむ』という句を扇に書いている人もたくさんいるそうです。
さらにこの噂は、中宮様や、主上にまで伝わり、面目を果たしたともいえますが、それにしても、あの時、誰が私にあの句を思いださせてくれたのでしょうか。
このことがあって後、頭の中将殿はご機嫌を直して下さったようです。


(第七十七段 頭の中将の・・、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

清少納言で十分

2020-02-10 08:40:36 | 麗しの枕草子物語

     麗しの枕草子物語 
               清少納言で十分

頭の中将殿が、ちょっとした誤解から私のことをひどくお憎しみになられていたことにつきしては、すでにお話させていただきました。
そのことに関連して、頭の中将殿からのお手紙に、公任殿の御歌を拝借しまして『草の庵を誰か訪ねむ』とお返しいたしましたことが大変な評判になってしまったことも、すでにお話し申し上げました。

さて、あの騒動で、私としましては一応の面目を果たしたのですが、その陰でこのような噂もございましたのですよ。
ご返事申し上げました翌日、源の中将殿が私を訪ねて来ました時、
「『草の庵』やある」
などと声高に呼ばれますものですから、
「そのような粗末な者などいませんよ。せめて『玉の台(タマノウテナ)』とでも呼んで下さいまし」
と申し上げますと、昨夜のご返事が大変な評判となり、今後は『草の庵の君』とでもお呼びしようと考えているのですよ、と申されるのです。
とんでもないことです。
そのような情けない名前が後世にまで伝えられたりしたら、身を隠してしまいたいほどの気が致します、と強く抗議いたしましたので、幸い私の望みどおり、このとんでもない名前は消えてしまいました。

さらに、このようなお話もあるのです。
公任殿がお酔いになっている席でのことですが、なにがし式部という女房を、「我が紫やさぶらふ」と大声でお探しになったそうでございます。
そして、このことから、自分は「紫式部」と呼ばれるようになったと、かの女房の日記に書き残されているそうでございますよ。

『紫』というのはあでやかゆえに残り、『草の庵』は粗末なゆえに消えていったと噂されるむきもあるようですが、いえいえ、私めは、『清少納言』という名前で十分でございますわ。


(第七十七段 頭の中将の・・、より)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする