店仕舞いをしている最中に携帯電話の呼び出し音がなった。
次男からだ。家の留守番電話に、住之江警察やいうておばあちゃんの名前を言っていると伝えてきた。
そりゃおかしいで、警察の名前を語るカタリとちゃうか。
こっちはまだ仕事があるんで、おかんに電話して確かめといてやと伝えた。
といいつつも何か胸騒ぎ。
警察から電話がかかってくるとドキッとする。
長男も次男もかかってきたことがある。
それは盗難や駐車違反に関してだった。
ひょっとしたら事故にでも遭遇したのだろうか。
それやったら病院からやしな。
それともひき逃げか。
そんなことはあってほしくないおかんは84歳。
実家に電話したら誰もでない。
携帯に電話しても同じでおかんの所在をつかめない。
こりゃもしかしたら本物の警察か。
次男に電話してその留守電の内容を携帯で聞き取ったら、住之江警察の者だと名乗る男性、おかんの名を言って。
その件ですが、南加賀屋交番に電話してくださいと登録された音声がしゃべる。
何事かは判らない。
おそるおそる警察に電話して交番に繋げてもらったら刑事さんが出てきた。
何事でしょうかと尋ねれば「ひったくり」にあったという。
鞄ごと盗られてしまったので家の鍵がないという。
そこで我が家に予備鍵を持っているかどうかだった。
話し中、おかんの大声が受話器を通して聞こえてきた。
その分では大丈夫だ。
確か予備鍵を家に保管していたはずだ。
その場所を知っているのはかーさんだけ。
そのかーさん、今夜は知人らと一緒に遊びに出かけている。
ところがだ、携帯コールしてもまったく反応がない、ない。勤務を終えて自宅に戻って心当たりを探してみた。
やはり、ない。
再度、コールしたが反応がない。
交番の方では合い鍵がないやろかと探していた。
だが、鍵も鞄と一緒に盗まれた。
署の方からはシリンダー錠を早急に付け替えねばということで鍵屋さんに手配をしていた。
見積もりでは1万6千円。
夜間対応なので相当高い料金だ。
予備鍵さえ見つかればいいのだが、時間切れだ。
おかんを家に引き取ろうと決断したことを刑事さんに伝えて、車で大阪に向かった。
交番の場所は判らないと伝えると調書も終わるので本署に来てくださいという。
住之江駅のちかくでしょうかと言えば、競艇の西側のゴルフ場の向かい側だった。
場所は判りますかと言われたが、生まれ住之江。
30年間育ったところなのでよく存知していると言えば受話器の向こうで笑った。
到着するには一時間余り。
その間もかーさんからは連絡がない。
煌々と街の明かりがやけに眩しい住之江の街。
夜11時だというのに車はいっぱい。
歩道には自転車で闊歩する若者の数が多いこと。
街の明かりに誘われて集まってきているのだろうか。
奈良では見られない光景だ。
自転車にあった鞄を盗った盗人はあっという間に自転車で走り去ったという刑事。
こんなところに住んでいたのかと思うと故郷がやけに興ざめした。
本署の前のそうであった。
自転車に乗る通行人がやたらに多い。
若い者ばかりが目につく。
交番での調書に時間がかかり30分後に刑事とともにおかんがやってきた。
歳が歳だけにあたり前なんだが、事件のショックでさらに窶れた顔に見えた。
大阪はひったくりが多い。
住之江でも同じ傾向にあり、今夜も数人を検挙したという。
今夜はここに入泊しているそうだ。
事件発生後も直ちに検挙に走り回ったが見つかっていない。
発生場所はなんと団地内だった。
自宅へ戻ろうと自転車から離れようとした矢先にひったくられた。
頭の上を何かが飛んでいったようだったというおかん。
気がついたら私の鞄や、泥棒と声をだそうとしたが声にならなかった。
自転車に跨って後を追いかけたが見失った。
途方に暮れて郵便局辺りに来たが商店街の店は閉まっている。
一軒だけ明かりがあった。電気屋さんだ。
そこには三人の男性がいた。
ひったくりにあったことを声にならない声で伝えたそうだ。
店のご主人は警察に連絡してくださった。
直ぐに署員が飛んできて、現場検証したそうだ。
気がかりだったキャッシュカードの取り消しはすでに終えていた。
対応が早いことに感謝する。
メモを握りしめていた手の指には自転車の鍵があった。
これだけは離さまいと輪っかを通していた。
のどが渇いてペットボトルの水をグビグビ飲み干して二本目。
ちょっとは落ち着いてきやはりましたと刑事さん。
鍵屋さんの手配など上階に住む方にお礼の電話をした。
なんでも携帯に事件通報が発信されたそうだ。
八十いくつの老婆がひったくりにあったというメール配信だ。
それがうちのおかんだったと驚かれたそうだ。
なにもかもお世話になって、ありがとうございましたと頭を下げて署をあとにして奈良に戻ったらシンデレラタイムになっていた。
翌日、予備鍵を持って大阪に行った。
(H21. 9.25 SB912SH撮影)