南北戦争(1861~65)当時は子供だったポール・クラバスは、26歳でニューヨークの法律事務所のパートナーの地位にある。このポールが主人公の物語。
1888年アメリカでは電柱に架けた電線で、街を照らし部屋を明るくし始めていた。その陰で特許戦争ともいうべき熾烈な戦いが展開されていた。それは電流の直流か交流かの戦いでもあった。そしてポールの周辺を彩る五人の実在した人たち。電燈を発明したと言われるトーマス・エジソン、電気製品を製造するジョージ・ウエスティングハウス、風変わりな発明家ニコラ・テスラ、オペラ歌手アグネス・ハンティントン、投資家J・P・モルガン。
ポールとアグネスのロマンスをはさみながら、海千山千の男たちを相手に奮闘するポール。これらは実際に起きた法廷闘争だが、ウェスティングハウスの倒産の危機を救ったポールが身に沁みて感じたのが、油断すると寝首を搔かれるということだ。たとえ信頼しているジョージ・ウェスティンハウスでも。
徹底した一人称の作品で、私生活はポール意外全くない。例えばアグネスはポールと結婚するまで、資産家の息子ハリー・ラ・バ・ジェインと婚約をしていたが、この二人が同時に登場する場面はない。
ポールはJ・P・モルガンの協力を得て。密かにエジソン・ゼネラル・エレクトリック社内部にクーデターを仕掛け、エジソンを退陣させてチャールズ・コフィンという男を社長の座に据える。それからニコラ・テスラを説得し、ウェスティングハウスの交流電流システム特許使用料を放棄させる。エジソンは自分の作った会社から追い出される。これによって電流戦争にウェスティングハウスが勝利を収める。
著者によると、この結末は実際に起こったことだという。しかも著者は、最後の場面にナイヤガラ瀑布にトーマス・エジソン、ジヨージ・ウェスティグハウス、ニコラ・テスラそれにポール・クラバスを集めて友好的な雰囲気を創造している。実際は会合はあったらしいが、エジソンは出席していないとか。これは時代を変えたエジソン、ウェスティングハウス、テスラという偉大な人物への敬意に他ならない。
トーマス・エジソンが創立したエジソン・ゼネラル・エレクトリック社は、エジソンを取り除いたゼネラル・エレクトリック社としてアメリカ最大の総合電機メーカーでコングロマリット企業として現在も存続している。
ウェスティングハウスは、ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーという名前で、原子力関連企業として存続している。
ニコラ・テスラは、イーロン・マスクの押しかけ創業者となったテスラモーターズがテスラを敬意をもって命名した。
著者グレアム・ムーア|GRAHAM MOOREは、米シカゴ生まれ。2003年にコロンビア大学で宗教史を専攻し文学士号を取得。10年に、アーサー・コナン・ドイルの生涯を描いたミステリー小説『The Sherlockian』がニューヨークタイムズのベストセラーリスト入りを果たす。今後の待機作には、マイケル・マン監督やマーク・フォースター監督によるテレビ作品の他、レオナルド・ディカプリオ主演予定のベストセラー小説「The Devil In The White City」の映画化などがある。
天才数学者アラン・チューニングを描いた映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でアカデミー賞脚色賞を受賞。授賞式の感動のスピーチが有名。
「アラン・チューリングは、このような舞台で皆さんの前に立つことができませんでした。 でも、わたしは立っています。これは不公平です。16歳の時、わたしは自殺未遂をしました。
自分は変わった人間だと、周りに馴染めないと感じたからです。でも、いまここに立っています。
この映画を、そういう子どもたちに捧げたい。自分は変わっている、どこにも馴染めないと思っている人たちへ。君には居場所があります。変わったままで良いのです。そして、いつか君がここに立つときが来ます。だからあなたがここに立ったときには、君が次の世代に、このメッセージを伝えてください。ありがとう」