アメリカ中西部ネブラスカ州人口約30万人の州都リンカーン署の刑事フランク・デッカーが、行方不明の少女を職を辞してまで思いやりを内に秘め、かつての保安官のように荒っぽい手段に訴えながら捜し求める。
行方不明の少女、ヘイリー・ハンセン5歳、アフリカ系アメリカ人。髪は黒、瞳は緑。ヘイリーの母親シェリルに写真を見せてもらったら、その可愛さに心を奪われるダッカーなのだ。目の色は母親似で、意志の強いまなざしをしている。残念なのが夫だった黒人の男。ヘイリーを懐妊したと思ったら、すぐに居なくなった。無責任極まりない。
事件発生から1時間経過。誘拐殺人事件に遇う子供の半数が、1時間以内に殺される。3時間以内に殺される子供は、70%に上る。3時間を過ぎると絶望的になる。警察犬チームやボランティアの動員でもヘイリーを発見できない。
そんな焦燥感が漂う中、別の事件が発生する。治安のいい地区に住む保険会社の役員をしている家庭の、白人の女の子ブリタニー・モーガン8歳。金髪で青い瞳が行方不明。そしてヘイリー・ハンセンの事件は、3週間が過ぎていた。
デッカーが家に帰ると、妻のローラの気遣う言葉「あなた大丈夫?」に「大丈夫」と答える。しかし妻は弁護士、子供のいない家庭で夫は捜査に情熱を注ぐ。川の流れの淀みのように、二人の愛が方向を定まるでもなくクルクルと回る。つまり二人の望みが違いすぎる。ローラはデッカーが警部に昇進するのを望んでいるが、デッカー自身は望んでいない。ローラが市長を目指すが、デッカーは市長の夫にはなりたくない。
そんな時、ブリタニー・モーガンの遺体が発見されたと伝わる。デッカーは辞表を提出する。ヘイリー・ハンセンの母親シェリルとの約束「必ず探し出す」を実行するために。デッカーの父の形見の車シボレー・コルベット・スティングレーを州間高速道路80号線で東に向ける。
ケンタッキー州レキシントンあたりで、デッカーの誕生日が来た。35歳になった。自分から言うのもなんだけどと断わりながら、見栄えは悪くない、身長188センチの男だ。元海兵隊員。細かい不発の情報を拾いながら、たどり着いたのがニューヨーク・シティ。ここで展開される西部劇もどきのアクションは、映画やテレビドラマを観るように楽しめた。
人身売買の闇の世界にたどり着き身の危険もあったり、ニューヨーク市警の児童性犯罪担当女性刑事、きちんと化粧をしていて、上は緑色のキレイな絹のブラウス、下はスカート。吸い込まれるような魅力とデッカーが思うトレイシー・バーンズから「好きよ。付き合いましょう」と言われるが、律義に「妻とはまだ離婚していないのでね」と言ったりして、意外性をはらみながらヘイリー・ハンセンを取り戻した。
ハッピーエンドに終わリ自宅に戻ってキッチンでローラとお茶を飲んだ。ここからは本の記述をそのままに、急にローラが少し照れ臭そうに「これからどうするの?」
「さあな」考え込むような沈黙のあと、ローラが聞く。
「戻ってくる気、ある?」
「リンカーン市に、か」
「夫婦生活に、よ」
しかし二人とも、心のどこかでそれを願いながら、同時に、それは叶わないだろうとわかっていた。お互い、どこか深い部分で傷つけあってしまった。本当に近い関係ゆえに、傷は二度と癒えることはない。行方不明になったその種の愛は、もう誰も見つけ出せはしない。行方不明だった女の子の戻ってきた愛とデッカーとローラの行方不明の愛、人生は複雑だ。
ドン・ウィンズロウの略歴をウィキペディアから、「幼少期には、海軍下士官であった父親に伴い一家で各地の駐屯地を転々とする。自らシナリオを書いたり演じたりする演劇少年であったという。ネブラスカ大学では、より広い世界を見たいとジャーナリズムを専攻する。37歳で本格的作家としてデビューする以前はさまざまな職業を渡り歩いた。アフリカ史の学士号と軍事史の修士号を持ち、これらの研究に関わる政府関係の調査員にも従事していた。
調査員として活動中に大怪我をし、入院中の時間潰しと現実逃避のため自己の体験から構想した探偵ニール・ケアリーの物語が、1991年度アメリカ探偵作家クラブ(MWA)処女長編賞候補作に挙げられ、突如ミステリ界に現れた鬼才としての評価を呼び、以降シリーズ化され作家としてのキャリアを歩む。
1999年以降しばらく筆が途絶えていたが、2005年に久々の大作 "The Power of the Dog"が出版され(日本語訳『犬の力』は2009年発刊)、これまで日本でも全ての作品が翻訳出版されてきたが、これを機に新たなファン層を増やすこととなった。
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