ロシア非難決議への賛同国数が「激減」する…ここへきて「ウクライナ」の求心力が「急低下」している「3つのワケ」
<picture></picture>
PHOTO by Gettyimages
ロシア・ウクライナ戦争の戦況は膠着している。アメリカなどに提供された兵器をロシア領内の目標に対して私用することが「許可」されたといったニュースもあったが、劇的な変化をもたらす要素には見えない。ゼレンスキー大統領は、イタリアのG7会合やスイスで開催された「平和サミット」を続けてこなしたりして、外交を通じた支援の維持拡大に向けた努力にも余念がない。だが支援国と懐疑的な国の構成や様子に変化はなく、こちらも膠着状態だ。
【マンガ】バイデンよ、ただで済むと思うな…プーチン「最後の逆襲」が始まった
そもそも昨年夏前から「反転攻勢」を仕掛けたのは、アメリカの大統領選挙の選挙戦が本格化する前に、戦場で武器支援の結果を出しておきたかったからだろう。その成果は芳しくなく、責任を取る形でザルジニー総司令官が更迭された。ただしこれは政策の変化を意味せず、戒厳令を根拠にした大統領任期の無期限延長状態に入ったゼレンスキー大統領は、従来の姿勢を取り続けている。
果たしてこの状況は、いつまで続くのか。おそらく大きな転機は、アメリカの大統領選挙後に訪れるだろう。突発的事態がなければ、ウクライナ向け支援の停止を訴えているトランプ前大統領が、返り咲く。武器支援の中核を担うアメリカからの支援の停止は、戦況に影響を与えるだけでなく、アメリカの同盟諸国によって形成されているウクライナ支援の国際体制にも、大きな動揺をもたらすだろう。
ゼレンスキー大統領は、トランプ前大統領への批判的な感情を隠しておらず、トランプ大統領誕生に備えた保険を用意している様子がない。かつてはトランプ氏の弾劾裁判にまで展開したスキャンダルがあった。両者が良好な関係を築けそうな兆候がない。プーチン大統領は、そのことを計算に入れているだろう。そして他の諸国の指導者もそうだ。日本はどうだろうか。
数をめぐる「平和サミット」の国際政治
ウクライナ「平和サミット」が終了した。主催者によれば、92カ国が参加したという。ただし、会議を締めくくる「共同宣言」に賛同したのは、主催国スイスを含めて77カ国にとどまった(スイス政府公式ウェブサイトにおける賛同国の数)。
なおスイス政府は、四つの欧州地域機構のみならず、コンスタンティノープル総主教庁までも賛同国リストに含めて、参加国・機関の総数を多く見せることに、こだわりを持っていることをうかがわせている。実際のところ、「平和サミット」の目的の一つは、ウクライナの立場に対する賛同者をなるべく多く参集させることだったのだろう。参加国を増やすために、2022年11月のG20会議の際に披露した「平和の公式」10項目から、3項目だけを議題にするという措置をとった。ただ、160の招待先の約半数しか参加せず、共同宣言に調印してくれたのは、さらに少ない77カ国となった。
欧州全域で参加・署名が集まったのとは対照的に、アジア・中東では、東アジア・オセアニアのアメリカの同盟国以外には、政権交代後に中国との関係を悪化させたフィリピンなど数カ国だけで、アフリカでも9か国ほどであった。 上記の筆者作成の「平和サミット」共同声明賛同国の分布を見れば一目瞭然であるとおり、島嶼国と沿岸国に張られたアメリカの同盟国網が、「平和サミット」賛同国のネットワークである。このネットワークは、ユーラシア大陸やアフリカ大陸の内奥には、入り込めていない。
つまり「ランドパワー」の領域には、全く食い込めていない。これは地政学理論における「シーパワー」の領域と、「ランドパワー」の領域が対峙する、典型例の構図である。ロシア・ウクライナ戦争が、二つの領域がせめぎあう地点で発生していることも、よくわかるだろう。
このような明白な構図ができあがってしまっている以上、今後「平和サミット」に集った「シーパワー」の領域が急拡大していくことは、期待できないと言わざるを得ない。むしろアフリカでわずかにアメリカの影響が及ぶアフリカの角の2国、旧宗主国イギリスとフランスの影響がわずかに残存する西アフリカのギニア湾岸の数カ国を、「平和サミット」側で死守するのがやっとだろう。そしてこれらの諸国だけでは、国際社会の多数派を占めることはできない。