フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

2月22日(日) 晴れ

2009-02-23 03:17:14 | Weblog
  9時半、起床。妻も今日は朝寝坊をしている。娘は芝居の稽古で早くに家を出ている。息子が起きてきて、朝食の支度ができていないので、妻に起きてほしいような素振りをしている。私は息子に「朝食くらい自分でささっと作って食べれば」と蒲団の中から言ってやる。その私は、今日は朝食抜きで11時半まで我慢して、「鈴文」にとんかつを食べに出た。すでに満席状態だったが、奥のテーブルで男女のカップルと、初老の男性の一人客と、相席になる。カップルの男の方がケータイの着信音の設定をあれこれ試しているのだろうか、耳障りだったので、咳払いをひとつしたら、女の方が男に「うるさいから」と注意した。世話女房のタイプらしい。私はそのとき黒革のハーフコートを着ていたのだが、黙然としていると、他人からはしばしばその筋の人間に見られる。話をすれば温和なインテリであることはすぐに理解してもらえるのだが、他人同士というのは普通は話をしないものであるから、どうしても「人は見かけが9割」(8割でしたっけ?)ということで判断されてしまうのである。カップルも初老の男性もとんかつ全体にソースをかけて食べていた。彼らより遅れて食べ始めた私は、いつものように塩→醤油→ソースという私にとっては定番の順序(正しい作法)で食べた。3人は、映画『おくりびと』の納棺師の立ち居振る舞いを見守る者たちのような目で(しかし正視はせず)、私の流儀を見ていた。私はもはや単純にその筋の人間ではなく、もうすこし複雑なバックグラウンドをもった人間として再認識されたようである。
  食後の珈琲は「ルノアール」で。「テラス・ドルチェ」はアーケードのある商店街の中にあり、「シャノアール」は地下にある。だから外光は入らない。今日はいいお天気なので、大きな窓のある「ルノアール」を選んだ。幸い明るい窓際の席が空いていたので、そこで1時間ほど読書をした。となりの席の若い男が『広辞苑』ほどの分厚い本を読んでいる。例の『百年小説』だろうかと思ったが、そうではなく、何かの専門書らしい。私も必要に迫られて分厚い本を電車の中で読むことはあるが、普通は持ち運ぶのが大変だから家で読む。車中や喫茶店での読書はありふれた行為だが、それが『広辞苑』ほどの分厚い本ということになると、話は違ってくる。たんなる「本を読んでいる人」ではなく「あんなに分厚い本を読んでいる人」として認識されるからだ。そしてそのことは本人自身が意識していて、「こんなに分厚い本を読んでいる私」という自己呈示を意図している場合が多いように思われる。清水幾太郎『倫理学ノート』の文庫版(講談社学術文庫)の「解説」で川本隆史が書いているエピソードを思い出す。

  「著者の清水幾太郎を一度だけ目撃したことがある。それは大学院に進んで彼の著作に馴染み始めた一九七〇年代の後半、東京の地下鉄(丸ノ内線)の車内だった。目の前の老紳士が猛烈なスピードで洋書のページを繰っているのに気づいた私は、即座に「清水幾太郎だ!」と直感したものの、声をかけて確認する余裕もなく次の駅で下車した。」(459頁)

  そのとき清水が読んでいた本の厚さはわからないが、「洋書」という点と「猛烈なスピードでベージを繰っている」という2点がポイントである。これはかなり強烈な自己呈示である。私がもしそれをやれば「インテリのヤクザ」として認識してもらえることは間違いないだろう。
  有隣堂で文庫本9冊を購入。硬軟とりまぜた(というよりもほとんど軟)チョイスとなった。レジで「カバーはどういたしましょうか」と訊かれたので、「どの本がどの色という指定はしませんが、それぞれ別の色で」とお願いした(有隣堂は10色の文庫本用カバーを取り揃えている)。店員は「全部違う色でですか」とあっけにとられたような顔をしていたが、全部が同じ色のカバーだったら、区別がつかないではないか。実に合理的なリクエストだと思うのだが、そうではないのだろうか。

  岡崎浩之『使える!悪用禁止の心理学テクニック』(宝島社文庫)*ブラック
  小泉今日子『小泉今日子の半径100メートル』(宝島社文庫)*グレー
  YUO『YUOのこれからこれから』(宝島社文庫) *ベージュ
  岡道祥之『北斗の拳100の謎』(宝島社文庫)*グリーン
  別冊宝島編集部編『図解この仕事の儲かる仕組み』(宝島社文庫)*イエロー
  別冊宝島編集部編『脳力200%活用「究極の勉強法』(宝島文庫)*ダークブルー
  別冊宝島専修部編『仕事がアップする!!「訊く」技術「話す」技術』(宝島文庫)*ライトブルー
  高田渡『バーボン・ストリート・ブルース』(ちくま文庫)*オレンジ
  内田樹・鈴木晶『大人って愉しい』(ちくま文庫)*ワインレッド
  
         
               それぞれの内容についちはいずれそのうち。