温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯西川温泉 水の郷

2012年06月17日 | 栃木県
 
2011年7月18日にオープンした「日光市湯西川『水の郷』観光センター」に立ち寄ってみました。この施設は湯西川ダム水源地域整備事業、要するにダム建設に伴い水没する地域の集団移転と補償を主目的とした事業の一環として整備されたもので、木造平屋建ての大きな施設内部には温泉浴場、物産コーナー、食堂、パン工房、そば打ち体験室、多目的ホールが設置され、さらに施設周辺には縄文式土器や古民具を展示する文化資料展示施設「湯西川くらし館」の他、足湯・野外広場などが整備されています。
合掌造りのようなきつい勾配の大きな屋根と、その下でゆっくり回転する大きな水車が印象的な建物は、正面向かって左側が物販ゾートや食堂、右側が温泉浴場となっています。


 
ちょうど昼飯時でおなかが空いていたので、食堂に入り「水の郷セット(1000円)」を注文してみました。これは施設内のそば打ち工房で手打ちされたそばと湯西川の郷土料理「汁ばんだい餅」がセットになったもので、おそばは手打ちらしい不揃いの田舎蕎麦で歯ごたえや喉越しがまぁまぁ良い感じ。一方、汁ばんだい餅はサバの水煮と豆腐を炒って大根おろしを加えた味噌仕立てのお汁にうるち米を搗いた丸餅を2つを入れたもので、粗野な盛り付けと食感がいかにも田舎料理らしいのですが、出汁がよく効いたおつゆに丸餅が非常にマッチしており、とてもおいしくいただきました。



さて腹を満たした後は温泉へ。新しい建物だけあってフローリングの館内は建材の匂いが残っており、受付は広く明るくて清潔感が横溢していました。そんな雰囲気に合わせてか、係員の方も明るく朗らかに対応してくれました。券売機で料金を支払って中へと進みます。


 
廊下の右側には休憩用の広いお座敷があり、左は浴室が並んでいます。天井が非常に高いため、浴室は館内の中に更に小屋が設けられたような感じでした。


 
二つの浴室は「滝倉の湯」と「藤花の湯」とそれぞれ命名されており、男女の暖簾が掛け替えられるようになっているので、もしかしたら男女が日替わりになっているのかもしれません(男女が固定だったらごめんなさい)。この日の男湯は「藤花の湯」でした。


 
脱衣所も広く明るくとっても綺麗。ロッカーは丁度良い高さに設定されており、室内空間を狭くさせることなく使い勝手の良さも生み出しています。洗面台もたくさん設置されており、綺麗さや使い勝手の良さなど、施設のレベルの高さはちょっとした旅館のようでもあります。



湯上りに一杯飲むためのウォーターサーバも用意されていました。小さな配慮が嬉しいです。


 
内湯は天井が非常に高く大きなガラス窓に面しているため、とても明るく開放的。側壁妻面の上部は木材、下部は煉瓦色のタイルを用いており、全体的に温もりが漂わせる暖色系でまとめられていますが、その中で浴槽だけが鮮やかなコバルトブルーとなっているため、強い印象を入浴客に与えてくれます。



洗い場にはシャワー付き混合栓が8基一列に並んでいます。



内湯の中で面白いのが、コマを刳りぬいたようなユニークな形状をした上がり湯でして、これは場所柄、木地師の工芸品をイメージしているのでしょうか(この上がり湯自体は石材造り)。浴槽への湯口はこの上がり湯の下に設けられており、湯船を満たしたお湯は窓下の排水溝へと溢れ出てゆきます。平時はこの排水溝だけで十分に排湯できているのですが、人が二人以上入ると排水が追い付かなくなり、その分は洗い場へとオーバーフローしてゆきました。

お湯は無色透明無味無臭で、湯中には薄い褐色の細かい膜のような湯の華がたくさん浮遊しています。フッ素イオンが22.1mgも含まれている点は、いかにも湯西川らしいところ。ツルツルスベスベ爽快な浴感で、肌への当たりが優しいお湯です。湯船の湯加減はややぬるめ(40℃ほど)だったので、じっくり長湯することができました。驚くべきはこちらの湯使いでして、この手の施設(しかも新設)ですと大抵は循環消毒されており、良くても消毒は免れませんが、こちらは加温加水どころか循環消毒も行われていない完全掛け流しを実現しているのです。もっともお湯のコンディションによっては温度調整くらいは行うでしょうけど、それでも完全掛け流しだとは驚くばかりです。個人的にはどのようにして保健所からの指導(塩素投入の指示)を回避したのか知りたいところですが・・・。



露天風呂は岩風呂で、少々深めに造られており、腰をしっかり底へ沈めると、口のあたりまでもぐってしまいました。また、頭上は頑丈な屋根の下にすっかり覆われており、太いピラーも視界の邪魔をしているため、開放的な環境や眺望を期待しているとちょっと裏切られてしまうかもしれません。尤も、冬の雪を考慮すると、屋根の設置は致し方ないのかもしれませんね。周囲は鬱蒼とした木々が生い茂るばかりですので、眺望の面でもあまり期待できる点はありませんが、静かな環境で清らかな山の空気に包まれながらの入浴はとっても爽快でした。


 
露天には内湯に負けないほど大量のお湯が注がれており、湯口とは反対側(下流側)の縁からは見惚れてしまうほどふんだんにお湯がオーバーフローして捨てられていました。お湯の投入量は多いのですが、岩風呂の表面積が大きくて外気の影響を受けやすく、冬のこの日は川下側ではかなりぬるくなっていました。でも、このことは、浴槽内に変な小細工をしていない証左でもあります(一般的に大きな露天風呂では、温度を均一にさせるため、湯口以外でも客にはわからない箇所から加熱したお湯を投入しているものですが、このお風呂ではそういった細工をしていないわけです)。



まるで杵のような上品な外観の壺湯。この日の露天風呂は湯口周り以外はぬるめでしたが、この壺湯だけはむしろやや熱めだったので、今回は岩風呂とこの壺湯を行ったり来たりして、じっくり湯あみを楽しみました。この露天エリアにクールダウン用の腰掛があればありがたいのですが・・・。

露天風呂にはまだまだ改善の余地がありそうですが、脱衣所や内湯は明るくきれいで使い勝手は良好、しかもツルスベで優しい当たりの良質なお湯は完全掛け流しという、新設された第三セクター運営の温泉浴場とは思えない湯使いであり、公営(または第三セクター)のお風呂は期待できない、という私の固定概念を見事に覆してくれました。
以前この地区には「下浴場」という共同浴場がありましたが(とっくに消滅しました)、当浴場で使われている源泉はその名も「下地区源泉」というものなので、「水の郷」のお風呂は廃止された「下浴場」の代替施設という側面もあるのかもしれません。


 
屋外(駐車場前)には足湯があり、無料で利用可能です。



湯西川ダム水源地域整備事業では上述のような「水の郷」に付帯して、このような観光目的の吊り橋も架けられました。


 
吊り橋は中央部分がグレーチングとなっており、足元から川面が見下ろせてしまうため、高所恐怖症の人にはスリル感があるかもしれません。なおこの橋はどこかにアクセスするためというより、水の郷一帯を周回するトレイルの一部として位置づけられているようであり、しかも訪問日にはまだ遊歩道が完成しておらず、橋を渡ったらその先は行き止まりで、単に対岸を往復することしかできませんでした。



「水の郷」周辺には、湯西川ダムの建設により水没する集落を集団移転したさせた新しい居住地区が軒を連ねていました。当然ながらどの民家も新しいのですが、あまりに画一的な外観がずらりと並んでいるため、(お住まいの方には失礼ですが)思わず共産国家を連想してしまいました。

東京新聞の特集記事(※)によれば「水の郷」整備に関する総事業費16億2千万円のうち2億8千万円は国のまちづくり交付金が充当され、残額の全てを川下(つまりダムの受益者となる)の千葉、茨城、栃木三県と宇都宮市が負っているんだそうですが、維持管理のための運営費については、財政難を理由にこれら下流県は拠出しないことになっているため、早くも運営に関して暗雲が垂れ込めているみたいです。ひもつき補助金でつくられた全国のハコモノは、どこも赤字体質である上に維持費が捻出できなくて困っているんですよね・・・。しかも「水の郷」の場合は、手前に同じようなコンセプトで温泉浴場もある道の駅が競合しています。千葉・茨城・栃木の各県民の方は、ご自身の税金が使われているのですから、もし運営が頓挫してしまったら下流県から拠出されたせっかくのお金が無駄になっちゃいますので、ぜひ足を運んで運営維持に協力してあげなきゃ損ですね。

当ブログ「湯西川温泉 公衆浴場」の記事では、湯西川へのアクセス道路がダム建設に伴う付け替えによって以前と比べて遥かに改善されたことを述べましたが、東京新聞の記事を抜粋すると「雪で閉ざされがちな温泉街に、ダム受け入れに伴う道路整備は魅力だった。国と県は九六年、ダムの両岸に温泉街まで通じる道路を造る協定を結び、温泉街は大喜びした。ところがその八年後、国の公共事業費抑制策に沿う形で、温泉街に通じる道路は右岸一本に削られた」とのこと。ええ! あんな立派な道を2本も造る予定だったの!? 道路を2本造ることにより、自然災害など万が一の時でも完全な孤立を避けようと画策したのでしょう。東京新聞では国や自治体から約束を反故にされた地元民に同情的ですが、今回供用された付け替え道路は雪害を受けにくいトンネル区間が多く、しかもカーブも少なくて非常に線形が良いので、新しい1本をしっかり維持管理すれば降雪期でも生活や観光に支障をきたすことはないのではないでしょうか。むしろ道路を両岸2本造ったとしても、道路の維持管理をどうしてゆくのか、地域の短期的発展に関心が向けられるばかりに、そのあたりの中長期的なビジョンが忘れられている(あるいは見て見ぬふりをしている)ような気がしてなりません。そしてマスコミが余計な感情を煽って、問題を感情化させている節も見逃せません。
その一方で、公共事業に伴い犠牲となる住民に対して、行政側が夢物語のような補償を提示して納得していただくのが通例ですが、結局は絵に描いた餅に終わり、事業も補償も中途半端に終わってしまうことが、戦後の日本では各地で繰り返されてきたわけで、対象地域の鼻先にニンジンをぶら下げてきた行政側の無責任な体質に問題があるのは最早周知のことです。
もう財政は真っ赤っかで、山村の過疎と高齢化はとどまるところを知らないわけですから、もういい加減に感情論を捨て、合理的な判断に基づいて、損切りすべきところはスパっと切って諦め、効率的な手法を積極的に採用していかなければならないのだろうと思うのですが…。

今回「水の郷」を利用して、ふとそんな戯言をつぶやいてみたくなりました。

(※)2009年12月9日「公共事業を問う 第一部 翻弄される人々(5) ダムありき 『自腹なら造らない』」


湯西川下地区源泉
アルカリ性単純温泉 55.5℃ pH9.5 521L/min(動力揚湯) 溶存物質0.245g/kg 成分総計0.245g/kg
Na+:64.7mg(88.64mval%), Ca++:6.7mg(10.41mval%),
F-:22.1mg(31.56mval%), Cl-:11.3mg(15.65mval%), HCO3-:36.6mg(15.92mval%), CO3--:30.0mg(26.53mval%),
H2SiO3:54.5mg,

栃木県日光市湯西川473-1
0288-98-0260

10:00~19:00
500円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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湯西川温泉 民宿やま久

2012年06月16日 | 栃木県

湯西川の集落から2km西へ奥まった場所にある民宿「やま久」で立ち寄り入浴をお願いしていきました。外観だけではここに温泉があるとは気づきにくいのですが、ホームページを拝見すると100%源泉掛け流しの温泉が入浴でき、日帰り入浴も受け付けている旨がアナウンスされています。
湯西川の温泉街を抜けてゆくと道は俄然細くなって周囲は鬱蒼とした山となり、こんなところに人家なんてあるのかと不安になりかけたころ、突然視界が開けて数軒の人家が建つ小さな集落へと行き当たります。小さな集落にもかかわらず民宿が2軒並んでおり、今回お邪魔した「やま久」は手前側(温泉街側)です。駐車場に車を停めると、黒いワンコが警戒してもの凄い勢いで吠えたててきました。



ワンコの咆吼から逃げるべく足早に玄関の戸をあけ、立ち寄り入浴をお願いすると、居間からご主人が現れて、快く受け入れてくださいました。玄関ホールのテーブル上には熊の毛皮が載せられており、タヌキと思しき獣の毛皮もありました。また「いろりの宿」と称するようにその右側の部屋には囲炉裏が据えられていました。



浴室は囲炉裏から左にすすんだ突き当りの右側。一室しかないので貸切での利用となります。



湯船がひとつあるだけの至ってシンプルな造りで、個人宅のお風呂をお借りしたような感覚です。けだしこちらのお宿のご家族もお使いなのではないでしょうか。洗い場にはシャワー付き混合栓が1基あるほか、浴槽加水用の水道蛇口が1つ設置されています。後述する湯口より源泉が加水されることなく注がれており、浴槽手前側の切り欠けからしっかりオーバーフローしています。完全掛け流しです。


 
浴槽は鉄平石貼りの2人サイズ。浴槽の隅には岩組みの湯口がそば立っていますが、実際には岩にお湯は落とされず、SUSのフレキ管から注がれています。管の口は真白い成分が析出していました。源泉のままですとかなり熱いのですが、懸命に湯揉み(攪拌)したところ、加水せずに入浴することができました。

お湯は無色透明ですが、かなり薄い茶色っぽい膜を細かく粉砕したような湯の華が沢山湯中で浮遊しています。口にすると微かなタマゴ臭と味を覚え、加えてアルカリ性泉でよくみられる微収斂も口腔内で感じられました。なお源泉はこのお宿より50メートル南方の川沿いに存在しているそうです。同じ湯西川でも、さすがに温泉街から2kmも離れていますから温泉街のお湯とは異なる質ですが、フッ素イオンの数値が高いことは共通しており、温泉街の集中管理源泉より倍近い20.2mgという数値が分析表に記載されていました。北に聳える帝釈山脈を越えた会津の旧舘岩村宮里には戦前に蛍石(フローライト・フッ化カルシウム)を産出したその名も「蛍鉱山」が存在していたので、素人推理ですが、もしかしたらそのの鉱脈が県境を跨いでこちらの方にも及んでいて、それが影響しているのかもしれませんね。

新鮮でキリリと冴えわたる熱めのお湯は実に気持ち良く、ツルツルスベスベとした浴感と相まって、非常に爽快な入浴が楽しめました。


高手観音の湯
アルカリ性単純温泉 63.1℃ pH9.0 174.5L/min(動力揚湯) 溶存物質0.344g/kg 成分総計0.344g/kg
Na+:89.7mg(94.89mval%),
F-:20.2mg(26.13mval%), HCO3-:153.9mg(61.91mval%),
H2SiO3:57.8mg,

栃木県日光市湯西川高手1616‐2  地図
0288-98-0902
ホームページ

立ち寄り入浴時間不明
500円
備品類なし(シャンプー類は一応あるが、宿泊者もしくは宿のご家族用ではないかと思われる)

私の好み:★★
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湯西川温泉 公衆浴場

2012年06月15日 | 栃木県
※残念ながら2019年3月末を以て閉鎖されました。

 
平家の落人伝説が残る湯西川温泉。古民家が川に沿って建ち並ぶ寓話の世界さながらの情緒が観光客を惹きつけており、この日も何かの撮影が行われていました。以前は平家の落人がひっそり身を隠すにふさわしいワインディングを辿らないと行けませんでしたが、湯西川ダム(2011年11月から試験湛水を開始)の建設に伴い周辺地域の道路が整備され、国道121号五十里バイパスから県道249号線へのアクセスルート非常に走りやすく快適な道へと生まれ変わり、かつて秘境だった湯西川は容易に到達できる観光地へと変貌しました。私も久しぶりに湯西川へと足を運んだのですが、あまりに呆気なく到達できてしまったので、ここが本当に湯西川かどうか疑わしく思えたほどでした。


 
さて、湯西川温泉で有名なもののひとつが、川沿いにある質素な公衆浴場です。湯前橋のたもとに建つこの小さな古い湯屋へ、数年振りに再訪してみることにしました。温泉街には特に公衆浴場を示す案内表示などは無いため、サイトによっては知る人ぞ知る温泉と表現なさっている方もいらっしゃいますが、集落自体小さいですし、観光の目玉である平家集落の川を挟んだ対岸に、いかにもといった雰囲気で佇んでいるため、特に事前に調べなくても辿りつけるでしょう。


 
源泉小屋と石灯篭に挟まれた奥まった入口は、自己主張を控えているかのような渋い佇まい。


 
湯屋に隣接する源泉小屋の傍には「栃木県登録源泉」の標石が。


  
脱衣所と浴室が一体化している古典的な共同浴場のつくり。男女の区別は無いため混浴での利用。栃木・福島県境(帝釈山脈)の北側にあたる、会津の只見川流域に点在する古い混浴の公衆浴場は、浴室は一緒であっても脱衣所は男女に分かれているケースが多いのですが、帝釈山脈の南側にあたる湯西川の当浴場では脱衣所ですら男女混用なんですね。



無人施設ですから正直に料金を支払いましょう。湯銭箱に100円玉を2枚投入します。


 
渓流の岩を穿ってつくられたような浴槽は2人サイズ。上述の源泉小屋から黒いホースで引湯しています。
川側の窓ガラスには、まるでラクガキされたかのように白いスプレーで乱雑に塗りつぶされていますが、別に素行の悪い輩に悪戯されたわけじゃなく、目隠しをすることが目的であろうと思われます。このお風呂って混浴なのに外から丸見えなんですよね。



お湯のホースから熱い源泉が注がれており、水のホースで加水しながら湯加減を調整。以前訪れた時は箆棒に熱いお湯が張られていましたが、今回はちょっと水を足すだけで丁度良い湯加減となりました。お湯は熱く、水はキリリと冷たく、双方が両極端なので、どちらか片方だけを入れっぱなしにしておくと、めちゃくちゃ熱くなるか、あついはただの水風呂になっちゃうかのいずれかに偏ってしまいます。このため、浴槽縁に立てかけられている小さなコンパネには「温泉のホース 水のホース 上げた人は必ず湯舟の中へもどして帰るようお願いします」と書かれていました。入浴中もお湯のホースと水のホースを適宜入れたり出したりしながら湯加減を塩梅しました。

お湯は無色澄明無味無臭ながら微かに木に焼きを入れたような香ばしい匂いが湯口から嗅ぎ取れました。成分量も少なく癖の無い、肌への当たりが優しいお湯です。一見癖の無い温泉のように思えますが、意外にもフッ素イオンが多く、1kg当たり10.2mgという量は、玉川や蔵王には及ばないものの、他の温泉に比べるとかなり多い方ではないでしょうか。無色透明でフッ素が多い温泉といえば、他には下呂(集中管理源泉のお湯で11.0mg)や道後(第1分湯場のお湯で11.8mg)などが挙げられるでしょうか。

余談ですが、2001年7月に施行された水質汚濁防止法では、WHOからの指摘に基づき、フッ素・ホウ素・硝酸性窒素が新たに排水基準の規制対象に加わり、フッ素(及びその化合物)の場合は排水1リットル当たり8mg以下に抑えなければならないと定められてしまいました。この基準に基づけば湯西川温泉でも温泉水をそのまま自然界に垂れ流してはいけないということになってしまいますね。
尤も、この法律をただちに適用すると日本全国の旅館が排水処理に莫大な費用を負わねばならず、規制されたものを排出したところで公害が発生するような事態も起こっていないため、あまりに理不尽なこの法律は施行後も何度も適用の先送りが行われていますが、さらに理不尽なのが、この法律が適用されるのは事業所に当てはまる旅館などであり、日帰り入浴施設は厚生労働省管轄下の公衆浴場法が適用されるために、水質汚濁防止法の適用外となることです。人的被害を懸念する観点から規制を行うなら、行政の縦割りを超えて包括的に規制を実施しなければいけないのに、矛盾を孕む実効性の無い法律を施行する行政や、そんな法案を成立させちゃう国会には憤りを覚えずにはいられません。

もし適用が実施されたら、湯西川温泉の場合は、規制対象となる旅館は、ただでさえ青色吐息だというのに排水処理機器を導入できず経営持続が困難となり、その一方で、今回の記事の公衆浴場や昨年新設された公営の入浴施設「水の郷」だけが生き残る、という事態になってしまうかもしれません。ちょっと極論かもしれませんが、フッ素という言葉を目にして、ふとそんなことを考えてしまいました。


 
対岸の川岸には露天風呂「薬研の湯」があります。更衣小屋も仕切りも何にも無く、ただ川岸の岩に穿たれた浴槽があるばかり、その名の通り薬研のような形状です。橋の上は無論のこと、周囲からも丸見えです。ここで入浴するには勇気あるいは開き直りが必要ですね。なおネット上では「無料で入れる」と書かれているサイトが散見されますが、こちらは「金井旅館」所有であり、無断利用は不可ですのでご注意あれ(上述の撮影スタッフは知ってか知らずか、無断入浴していましたけど)


集中管理源泉
アルカリ性単純温泉 51.6℃ pH9.3 470.9L/min(動力揚湯) 溶存物質0.198g/kg 成分総計0.198g/kg
Na+:45.4mg(83.74mval%), Ca++:7.3mg(15.48mval%),
F-:10.2mg(22.38mval%), Cl-:13.9mg(16.34mval%), SO4--:25.1mg(21.78mval%), HCO3-:40.1mg(27.32mval%),  
H2SiO3:46.5mg,

野岩鉄道・湯西川温泉駅より日光交通ダイヤルバス・湯西川温泉行(所要約30分)
駐車場は無いため、観光施設「平家の里」に隣接する市営駐車場を利用。
栃木県日光市湯西川
0288-97-1126(湯西川・川俣・奥鬼怒温泉観光協会)
湯西川・川俣・奥鬼怒温泉観光協会ホームページ

※残念ながら2019年3月末を以て閉鎖されました。
清掃時間5:00~8:00(清掃日:5月~10月は水・土、11月~4月は土曜)、それ以外は入浴可。
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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奥塩原新湯温泉 湯荘白樺

2012年06月14日 | 栃木県

数か月前の冬の某日、手近なところで白濁の硫黄湯に浸かりたくなり、奥塩原新湯の旅館「湯荘白樺」で1泊しました。駐車場に車を止めるとすぐにスタッフの方が荷物を受け取りに来て下さり、初めからとても好感がもてましたが、一方で噂には聞いていたものの、若旦那は朴訥なお人柄のようで、この日は偶々嫌なことでもあったのか、終始仏頂面を崩すことはありませんでした。帳場も旅館の窓口というより若旦那の私的空間の一部のような、あまりジロジロしちゃいけないような雰囲気が横溢していました。またチェックイン時にいきなり夕食時の飲み物を決めなきゃいけないのがちょっと面喰いました。



ロビーから客室へ上がる階段の上ではガラスケースの中に収められたシロクマくんがお出迎え。更にクネクネ曲がったり階段を上がったりして、方向音痴な人なら間違いなく迷子になりそうな廊下を進んで客室へ。



6畳のお部屋。窓の外には新湯爆裂噴火口が広がり、直下に中の湯を見下ろすお部屋でした。トイレや流し台は共用ですが、室内には空の冷蔵庫、ストーブ、電熱カーペット、いまだにアナログのTV(デジアナ変換で使用)などが備え付けられており、古いものの清掃はよく行き届いていたので、特に不自由はしませんでした。



(上画像クリックで拡大)
館内には明治期の新湯の様子を記した地図が展示されていました。かつては温泉神社の門前の参道に旅館が軒を並べていたんですね。現在もある3つの外湯は明治期にも同じ場所に存在していました。



花より団子、温泉より御膳。腹が減っては戦も湯あみもできません。食事は夕食・朝食共にお部屋出しでした。飲み物の注文をチェックイン時に聞いていたのは、入り組んだ廊下の先にある部屋へ食事を出すためだったのでしょう。夕食の献立は、豚の味噌陶板焼き、お刺身、鮎の塩焼き、野菜の煮物、天ぷらなど。鮎は香ばしく子持ちでとても美味でしたが、煮物や天ぷらは出来上がってから相当時間が経っていたらしく思いっきり冷めていました。


 
食事のお供に地ビール「温泉ビール」を注文。塩原・門前温泉の「光雲荘」源泉を使った非濾過の生ビールで、いかにも地ビールらしい個性的なお味でしたが、この時はビールよりも部屋に備え付けの栓抜きに目を奪われてしまいました。文鎮のような重厚感のあるこの栓抜きには、戦後の富士重工が製作販売していたラビットスクーターのエンブレムがレリーフになっているのです。この手の物を収集している方が目にしたら興奮するのでは。



さて食後はお風呂へ。まずは内湯。廊下や洗面台など共用部分はガムテープによる補修が目立っており、建物の全体的な老朽化に対して抗おうとする苦労の痕が窺えました。



内湯は硫化と酸性腐食に耐えるべく総木造で、新湯の共同浴場と似通った雰囲気ですが、さすがに旅館だけあって若干広く、湯船も立派で、その大きさは約2.5mの正方形。ガス中毒を未然に防ぐべく浴槽上の通風口や洗い場上に設けられたの換気扇が、いかにも硫化水素型の温泉浴室らしい設備ですね。洗い場はシャワー付き混合栓が2基設けられている他、カランは無いものの、洗い台と称すべきようなブースも3つありました。


 
湯口には二又の鹿の角のような形状をしたの木の枝を突っ込んで栓にしています。源泉温度が熱いので、加水のほか、湯量によっても湯船の温度を調整するわけですね。お湯は「中の湯」と同じ中の湯源泉(共同噴気泉)。乳白色に強く美しく濁っています。噴気孔的な刺激のある硫化水素臭の他、どことなくクレゾールに似たような匂いも微かに漂っていたように感じました。さほど強烈ではないものの程々に強く明瞭な酸味(レモン汁的)と粉っぽさを帯びた味で、酸性泉ですが草津や蔵王のように思いっきり頬っぺたが収斂するわけではないので、それほど抵抗なく飲めました。入りしなはツルスベの浴感ですが、長湯しているうちに引っかかり感を帯びてきました。



浴室内にはあちこちに砂時計が置かれていました。時間を決めて入浴するのに使うのでしょう。


 
湯口付近には湧出箇所で採取した湯泥が桶に詰められ置かれています。これで泥パックするんですね。


 
次は露天へ。七福神の顔抜き看板が置かれていました。なお露天風呂はひとつしかないため混浴となっており、18時から21時まで女性専用時間です。


 
ひょうたん型の浴槽の真ん中には仕切りが立てられており、これによって混浴時間帯でも男女の入浴エリアがセパレートできるようになっていました。浴槽の縁は御影石の板が敷かれています。


 
こちらの湯口も鹿の角みたいな木の枝で栓がなされており、この栓によってお湯の投入量を加減し、以て湯加減を調整する。この時は投入量を絞っていた上に外気で冷やされていたため、湯加減はややぬるめ、じっくりと長湯することができました。露天は周囲を宿の建物で囲まれているため眺望はまったく得られませんが、夜中に入って空を見上げると、満天の空に煌めく数多の星がとっても綺麗でした。


 
浴槽の脇に置かれた七福神の石碑。



朝食は7:30か8:00のいずれかを選択。献立としてはオーソドックスなものですが、ここの温泉でつくられた温泉卵は絶品でした。夕食同様にお部屋出しなのですが、お膳が用意される30分前には布団が片付けられてしまいます。私は早起きして露天や内湯を楽しんでいたので問題なかったのですが、ゆっくりとした朝を迎えたい方にはちょっと厳しいかもしれません。

建物は古く、全体的に哀愁が漂っていますが、お湯は聞きしに勝る素晴らしいものでしたので、ホスピタリティは二の次、とにかく温泉をじっくり楽しみたい、という方に向いているお宿かと思います。某宿泊予約サイトの口コミを読んでみても、そのあたりの事情は利用客側も十分に斟酌しているらしく、理解あるお客さんによって支持され続けている味わい深いお宿でした。


共同噴気泉
単純酸性硫黄温泉(硫化水素型) 79.2℃ pH2.6 120.6L/min 成分総計0.414g/kg
Ca:6.3mg, Al:8.8mg, SO4:211.7mg, 遊離H2S:55.4mg

栃木県那須塩原市湯本塩原14
0287-32-2565
ホームページ

日帰り入浴10:00~20:00
500円
シャンプー類あり、ドライヤーは宿泊客用共用洗面台にある。

私の好み:★★
コメント (4)
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奥塩原新湯温泉 中の湯

2012年06月13日 | 栃木県
 
「中の湯」は塩原新湯に3軒ある共同浴場の中で最も小さな湯小屋。背後は新湯爆裂噴火跡のガレが広がり、小さなお社を挟んで旅館「湯荘白樺」が隣接しています。また小屋の右側擁壁上には「名湯 中の湯」と篆刻された御影石が置かれています。


 
「湯荘白樺」との狭間に立っている小さな鳥居の下が中の湯の源泉。一応神聖な場所なのでしょうけど、パイプやコンクリの桝・蓋の類が散乱していて雑然としており、聖域であるから立ち入れないというよりも、ゴチャゴチャしているがために踏み込みにくい状態です。お社のお湯は名前の通り「中の湯」の他、隣の「湯荘白樺」の旅館にも配湯されています。



新湯の他の外湯と同様、無人の施設です。入口扉の脇に料金箱あり。
扉を開けてすぐに脱衣所です。かなり狭くこじんまりとした建物です。小さいながらも「寺の湯」のような混浴ではなく、ちゃんと男女が分かれているところは立派。鳥居や祠の下で湧くお湯らしく、脱衣棚に小さな御幣が立てかけられていました。


 
これまた他の新湯の外湯と同様、総木造の浴室で、洗い場のカランは無く、水道の蛇口があるのみです。たとえ質素で小規模な建物でも、総てが木造であるとそこはかとない風格が滲み出ますね。

浴槽は3人入ればいっぱいの大きさで、塩ビの湯口からお湯が真横に飛び出ています。乳白色に強く濁り、噴気孔から出る火山性ガスのように鼻孔を刺激する硫化水素臭が漂い、インパクトには欠けるものの程ほどに明瞭ではっきりとした酸味(レモン汁味)、そしてカルシウム的な粉っぽさが感じられます。酸味は「むじなの湯」「寺の湯」に比べて弱く、その他諸々の近くも薄いような気がします。また前2者と比べて薄いお湯であるためか、浴感はその分優しく、ツルスベ感はこちらの方が優れているかもしれません。


共同噴気泉
単純酸性硫黄温泉(硫化水素型) 79.2℃ pH2.6 蒸発残留物0.4401g/kg 成分総計0.414g/kg
Na+:4.8mg, Ca++:6.3mg, Al+++:8.8mg,
Cl-:10.7mg, HSO4-:17.9mg, SO4-:211.7mg,
遊離H2S:55.4mg

栃木県那須塩原市湯本塩原  地図

7:00~18:00 清掃日不定
300円(無人)
新湯の宿泊者は無料
備品類なし

私の好み:★★
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