文化逍遥。

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2016年イギリス・ベルギー映画『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』

2017年08月05日 | 映画
 8/2(水)、神保町岩波ホールにて。原題は「A Quiet Passion」。





 19世紀アメリカ文学を代表する詩人の一人と言われるエミリ・ディキンスンの半生を描いた伝記的作品。撮影は、実際に詩人が人生の大半を過ごしたといわれるマサチューセッツ州アマストの生家でなされたということで、ほとんどその家の中と周辺の映像しか出てこない。その意味では、演劇を観る様な映像に仕上がっていて、セリフも多くの詩を挿入した作品になっている。
 監督はイギリスのテレンス・デイヴィス。成人後のエミリー役はシンシア・ニクソン。歴史的にはアメリカの南北戦争前後の時代で、当然その頃の英語に近い発音で、セリフ回しを聞いているとイギリス英語に近い様に聞こえた。制作国はイギリス・ベルギーだが、やはり、現代のアメリカではこのような映画は作れないかもしれない、とも思った。生前は、10篇ほどの作品しか公表されなかったと言われるが、死後に1800篇の詩が見つかり長い時間をかけて評価が高まったという。女性が、社会の表舞台に登場できない時代。正当な評価を受けられず、揶揄され、引きこもり、完璧主義で、ますますプライドが傷つき苦しみの中に落ち込んでゆく詩人。その姿を描いた完成度の高い作品になっている。
 リズミックに韻を踏んだ詩の朗読も見事だった。わたしは、半分も意味が取れなかったが、それでもその良さを感じ取ることが出来た。漢詩もそうだが、詩は「吟詠」つまりは「うたう」ことが基本。比して日本語は、七五調のリズムが基本で、「詩」と言っても別の表現形態になる。

 歴史に残る作品というのは、作者の死後、不死鳥のようによみがえり広まっていくことが多い。日本では、明治期の金子みすず、知里幸恵など。さらに、樋口一葉などは一応の評価は受けたものの、極貧の中、結核で24歳で死んだ。まさか後世5000円札に自分の顔が刷り込まれるとは思ってもみなかったろう。すこし時代は下がるが宮沢賢治などもそうだった。あまり知られていないが、宮沢賢治の作品は生前ほとんど認められず、著作による収入は殆ど無かったのだった。評価というものは、それをすることも又されることも、難しいものなのだなあ、とあらためて感じされられた作品だった。

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