文化逍遥。

良質な文化の紹介。

2019年カナダ映画『やすらぎの森』

2021年05月27日 | 映画
 5/25(火)千葉劇場にて。会話はフランス語だが、映画の中で歌われる歌は英語。カナダは、植民された歴史の影響で公用語は英語とフランス語になっている。特に、この映画の舞台となっているケベック州は、独自の文化を持ちフランス語が主要な言語となっている。一方で、支配的な立場にあるのは英語を話す人口の2割ほどを占めるイギリス系入植者といわれ、常に緊張状態にあるらしい。この作品の背景には、そんな社会的緊張もあると感じた。

 監督・脚本は、ルイージ・アルシャンボー。原作はジェスリーヌ・ソシエの小説『Il Pleuvait des Oiseaux』で、映画の原題も同じ。英題は『And the Birds Rained Down』で、直訳すると「そして、鳥たちは雨のように落ちてきた」といったところ。これは、昔の大規模な山火事の際に、逃げ切れなかった鳥達が焼かれて大量に落ちてきた様子を表した言葉。森に囲まれたケベック地方に、森林火災の恐ろしさを言い伝えるもの。





 都市の生活に疲れ、森の中で隠れて暮らす3人の老人達。その中の一人は死期を迎えようとしており、そこから物語は始まる・・。

 予想していたよりリアルな作品だった。「世捨て人」達は、原始的な生活を送っているわけではなく、密かに大麻草を栽培し、それをある若者を通じて密売するルートを確保し、生活していたのだった。時には、生活必需品だけでなく酒・タバコなどの嗜好品、あるいは絵の道具なども手に入れていた。人のしたたかさ、弱さ、そして、失われていたものの中にある本当の価値。見えないものや聞こえないものの奥にある大切なもの。しかし、それらは観ようとしない者には見えず、聴こうとしない者には聞こえない。映像の背後に悲しみの漂うような作品だが、観る価値のある作品と感じた。

 余談だが、映画の中で年老いた元歌手が歌うトム・ウェイツの「タイム(Time)」は、『Rain Dogs』というアルバムに入っている曲。我が家にもあるが、改めて聴くとリフレインがきれいで、とても印象的だった。トム・ウェイツは、ぼそぼそと歌うようなところがあり、せっかくの歌詞の美しさが聞き取りにくいところがある。まあ、わたしの聞き取り能力が低いということだが、異なる歌い手に出会うことによって曲の良さを再認識することもある。

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