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わたしのレコード棚―ブルース11、Robert Johnson

2011年05月21日 | わたしのレコード棚
 ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)は、1911年5月8日ミシシッピー州ヘーゼルハースト(Hazelhurst)に生まれ、1938年8月16日に同州グリーンウッド(Greenwood)で亡くなっている。
 この人については、あまり説明もいらないだろう。多くのロック・ミュージシャンから尊崇され、現代のポピュラー音楽に最も影響力のあるブルースマンと言ってもいいだろう。ギター・スタイルとしては、伝統的なデルタのスタイルに都会的な音使いを盛り込んだもので、後にまで影響を与える斬新なものだった。毒入りウィスキーを飲まされて死んだと言われており、その時27歳だったことになる。その短い生涯で、様々なブルーススタイルを吸収して独自のスタイルを創り出すことが出来たのか、それは驚きでもあり、また早世したことが残念でもある。長く生きていたなら、さらに幅広いテーマを取って、良い音楽が出来たに違いない。ただ、多くのすぐれたブルースマンがいる中でなぜこの人が特別視されるように称賛されるのか、ブルース好きとしてはその点を疑問に思わざるを得ない。録音は、1936年にテキサス州のサン・アントニオのホテルと、1937年に同じくテキサスのダラスで2度行われ、今は全録音がコンプリート盤として2枚組CDで聞くことが出来る。


 ソニーレコードのLP。これがVOL.1で20AP2191 、下がVOL.2で2192。このレコードも、都内の輸入レコードショップなどを回り、ずいぶん探したものだったが、やっと手に入ったのは1981年にCBS/ソニーが国内盤を出してからだった。その頃は、まだ写真が発見されておらず、ごらんのとおり顔のない絵がジャケットに描かれている。

 
 2枚の写真は、同じLPのジャケットの絵で、右が表で左が裏。ホテルでの録音している様子が描かれている。この時、絵のように隣室で原盤に直接カッティングしたといわれている。今回あらためて聴きなおしてみて、音質の良さに驚かされた。生ギターの音があますところなく録音されている。録音技師の技術の高さを思わせる。


Rj3
 これがコンプリート盤CD、41曲入り。現在は、後に見つかった 「Traveling Riverside Blues」の別テイクを加えて42曲入りで発売されている。どうでもいいことだが、2011年は生誕100年の節目に当たるので記念のCDが出ているようである。デジタル技術の進歩によりノイズがかなり除去されているらしい。


 ジョンソンはギターのセンスもさることながら言葉にも巧みな人で、吟遊詩人のように伝統的なフレーズを自分なりに消化して詞を紡ぎあげてゆく。41曲のなかで、ギターでブレイク(間奏)を取ったのは1コーラスしかなく、ときに小節数や拍を変え歌いあげてゆく。カントリー・ブルースとしては珍しいことではないのだが、それを自然にさらりとやっているように聞かせてしまう。心にくいばかりだ。この後の時代にはブルースもバンドでの演奏が主流になるので、小節数を固定しなければ演奏に支障をきたすようになり、言葉を優先させた演奏は影をひそめるようになってゆく。が、言葉を奔放に駆使した弾き語りは聴いていて引き込まれるような魅力があり、捨てがたい。

 さて、その歌詞について一点、注意喚起しておきたい。有名な「Sweet Home Chicago」の一節、
    Back to the land of California - to my sweet home Chicago.
レコードに付いている歌詞の対訳では、「シカゴはイリノイ州にあるのだけれども、ジョンソンはカリフォルニア州と混同している」と注に有る。わたしも長いことそれを信じていて、映画『ブルース・ブラザーズ』などではBack to the same old place -とマジック・サムの歌詞で歌われていたのは間違いを修正したのだと考えていた。 しかし、のちに中山義雄氏が―ジョンソンの生きていた時代にはすでに死語になっていたようだが、Californiaには「金貨」の意味があった―と指摘されているのを読み、目からウロコが落ちた。
Scott Ainslie著『Robert Johnson』(Hal・Leonard publishing,1992)P19にも
「During the middle to late 19th century , the term ‘California’ became synonymous with the gold rush,wealth,and money.」とある。一応、訳してみる、
「19世紀中頃から後半、‘カリフォルニア’という語にはゴールドラシュ・富・おカネなどと同じ意義があった」。
語源的にも、「カリフォルニア」はスペイン語起源で「黄金の国」を意味しているとも言われている。スタインベックの小説『怒りの葡萄』の主人公のように、貧しいものにとってはカリフォルニアは夢の国で、単なる地名を超えた言葉だったのだ。

 それにしても高い声の出る人だなあ。ボトルネックを使った曲などではオープンAにチューニングして、さらに2フレットあたりにカポをつけている。ためしにちょっとまねしてみたけど、カポをつけるまえに声が出なくて断念した。不思議なのは、写真で見るかぎりジョンソンの抱えているギブソンのギター(L-1?)は12フレットのジョイントなのでカポを使うとオクターブを出すときには14フレットまで指(ボトルネック)を差し込まなければならないのに狂いもなく弾いていることだ。時には、さらにハイポジションまで使っているので、ボディの下側から手を 差し込んで弾いた可能性が高い。いずれにしても、器用な人だったことは間違いない。

2022年6月加筆改訂。
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