最近(と言ってももう四、五年になりますが)、巷でコーチングと呼ばれる人材育成手法が流行っています。簡単に言うと、あれこれ教え込むトレーニング(訓練)やインストラクション(指示)ではなく、「気づき」を与えて、相手が既に持っている能力を「引き出して」あげることです。Coachという言葉の語源は馬車のことで、人を目的地まで運ぶことが転じて、目的のことが出来るように導くという意味になったと言います。某有名ソフトメーカーのCMで「あなたの会社の従業員は既にアイデアを持っています」と言っていますが、これもコーチングの考え方を表したものです。
相手に「気づき」を与えて、相手の力を「引き出す」ために何が必要かというと、相手の話を聴き出し、適切な質問をして相手の考えを整理してあげる能力と言われています。メジャーリーグのコーチは、こうした方法に近く、すべて手取り足取り指導するわけではなく、選手が迷ったり、悩んだりしている時に適切なアドバイスをするようです。
日本では、小さなことから全てを教え込むような傾向がありましたが、最近、このコーチングの手法が有効だということで、スポーツの分野だけではなく、ビジネスの世界でも大流行しているわけですが、この考え方が全ての場面で有効かと言うと、管理人はNOだと思います。
相手が既に能力を持っているから、「気づき」を与え、能力を「引き出して」あげられるわけで、例えば、何の知識も、(仕事に必要な)能力もない新入社員に「これはどうしたらいいと思う?」とたずね、相手の話を聴いても何も出てきません。この場合には、必要なことを徹底して教え込むことが必要なのです。スポーツでも同じことです。
1~4年生くらいの技術が未熟な子どもたちに「どうしたらいいと思う?」と聞いても、聞かれていること自体が分からないのだから、まったく無意味です。この場合は、何が正しいプレーかを、実際にやって見せて、口で説明し、させて見るということを繰り返し、体に染み込ませていくことが必要なのです。山本五十六の言葉とされる「やって見せ、言って聞かせて、させて見て、褒めてやらねば、人は動かじ」は、組織のマネジメントを語った言葉ですが、コーチングの言葉としても極めて適切な言葉です。
今流行っているコーチングが少年野球でも使えるとしたら、6年生レベルか、レギュラーとして試合に出ている選手レベルでしょう。このレベルでは、それなりに力を持ち、それに基づいていいプレーや悪いプレーをしているからです。これをやりっ放しや指導者や親からの一方的な言いっ放しにせずに、自分自身の「気づき」を与えることは意味があります。
Q「今日のプレーをどう思う?」
A「エラーをしたのが良くなかった」
Q「何でエラーしたと思う?」
A「…」
Q「じゃあ、ボールが来る前の準備、捕る時、捕ったあとの処理の三つに分けてみたら、どう思う?」
A「準備はちゃんと出来ていたけど、捕る時に焦ってボールから目を離してしまった」
Q「何で焦って目を離したの?」
A「早くベースに入ってアウトにしなければと思ったから」
Q「本当はどうすれば良かった?」
A「まず一つのプレーをきちんとして、次のプレーに移れば良かった」。
と、こんな風にに自分自身のプレーを自分で振り返ることが出来ると、次に生きてくると思いますが、こうしたことが出来るのはせいぜい5~6年生からで、しっかり教え込むこととの使い分けが必要でしょうね。では、中学生から上はすべてこの手法が使えるかというと、必要になる能力ものレベルもどんどん上がりますから、やはり使い分けが必要になると思います。プロ野球でも二軍では、プロレベルの基本を徹底して叩き込むことが必要でしょうし、イチロー・松井レベルには、本人に任せて、その能力を引き出してあげることを心がけるべきでしょう。世の中には、いろいろ流行りものがありますが、自分自身で判断して使いたいものですね。