伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

イリアム

2006-09-02 23:53:50 | 物語・ファンタジー・SF
 これはひどい。駄作という意味ではありません。しかし・・・
 話は、未来の改造された火星にあるオリュンポス山、イリアム平原で繰り広げられるギリシャ勢のトロイア攻囲戦、火星探検に向かう木星の半生物機械(モラヴェック)、地球に残された人類を中心にそれぞれ進んで行き、壮大なスケールの世界が展開されます。
 それで、日本語版で2段組の本文747頁、400字詰め原稿用紙換算2100枚(訳者あとがき)を読破して待ち受けているのは、大半の謎解きはお預け。これは実質的には上巻で、下巻の「オリュンポス」(原書2005年6月発売)に請うご期待という話。
 オリュンポス・イリアム平原とモラヴェックは合流するけど、地球人サイドの話はまだつながらず、別進行のまま。
 イリアム平原は一体どこにあるか(最初は火星だと思ってましたが、終わり間際で地球のように匂わせていて、でもたぶん地球ではないはず)、オリュンポスの神々の正体、地球サイドの話ではプロスペローの正体と「リング」での不可解な行動の理由などの基本的な謎が解かれないまま放置されています。
 それはないでしょう。
 まじめなSFファンならまず間違いなく欲求不満になりますから、まだ読んでいない人は今読まずに「オリュンポス」の日本語版が出てから一気読みすることをお薦めします。

 お話の中では、ホメロスの「イリアス」、シェークスピア、プルースト(失われた時を求めて)が度々登場します。特に最初の方で話になれるまで、イリアスやギリシャ神話に全然興味がないと、ちょっと読み進むのが苦痛でしょう。知らなくても一応読めますが、読みながら、知ってたらよりおもしろいんだろうなと感じます。英語圏では普通の教養なんでしょうか。
 でも、量子テレポーテーション(QT)とか人間をファックスで瞬間移動させる(送信先に情報だけが送信されて別の原子で瞬時に同じ人間が作成されるようです)なんていうことが頻繁に出てきて、それを量子力学や「量子の絡み合い」(アインシュタインが量子力学に対する批判的命題として指摘した概念)で説明したり、結構読者にハイレベルの要求をしている感じがします。量子論の世界がマクロレベルで実現したりワームホールで時空がつながったりするあたりは説明がなくて、SFらしくなりますが。

 話はイリアム平原の学師ホッケンベリーとモラヴェックのマーンムートと地球のディーマンを中心に進みますが、終盤までディーマンのわがままぶりにはどうも感情移入しにくいです。終盤でディーマンが突然勇敢になるのは、きっかけの説明もなくてあれっと思いますが、まあ終盤ではそれぞれに入りやすくなってはいます。
 それだけに話が融合せずに謎解きもなく、続編待ちにされるのはやっぱり、そりゃないよと感じます。


原題:ILIUM
ダン・シモンズ 訳:酒井昭伸
早川書房 2006年7月31日発行 (原書は2003年)
コメント
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