伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

憂鬱なハスビーン

2006-09-15 19:29:01 | 小説
 大商社の取締役の息子の弁護士と結婚して結婚退職し広いマンションの部屋でリッチな暮らしをしながら、失業手当を権利としてもらうためにハローワークに通う30歳近いの女性のお話。

 はっきり言って、この主人公が、まわりの善意の人達に、内心で突っかかり毒づき続ける姿に、私はずっと違和感・不快感を持ち続けました。
 自分も家事を手抜きしているのに、実母の、それも歯科衛生士として働き続けて働かない父親も含めてめんどうを見続けて来た実母への見下しぶり。すごく性格がよくてかなりのわがままにも怒らずほぼ言いなりになっている夫(そういう弁護士って、仕事柄、結構目に浮かびます)への言いたい放題。年末風邪を引いて帰ってきてソファーに倒れ込んだ夫に「明日からずっと寝込まれてしまっては、せっかくの休暇が台無しだ。なんて間が悪いんだろうと思った。」(102~103頁)とか。

 この女性、小学校から進学塾に入りトップを走り続けて東大に入りそのゼミの同窓生と結婚したわけですが、後半で就職後対人的な能力の不足で仕事がうまくいかず次第に干されて行ったことが明らかにされます。
 題名の「ハスビーン」はHas been。「かつては何者かだったヤツ。そして、もう終わってしまったヤツ」(42頁)からだそうです。まあ「なれの果て」ってやつですね。
 最後にその受験予備校の崩壊から主人公は何か吹っ切れて未来を見つめる予感で終わっています。
 でも、後半でそういう展開になっても、受験秀才でまわりのこと考えられない人間がコミュニケーション不足で落後していくというだけでこの主人公に同情する気にはなれませんでした。私には、どうもこの主人公には素直に幸せを願う気になれない。ただ最後までいやなヤツだなあと思うだけで、爽快感が得られませんでした。

 純文学系の受賞作(私は群像新人賞というと中沢けいの「海を感じるとき」を思い出す世代なんですが・・・)だし、タイトルでも「憂鬱な」と予告してるんだし、娯楽と期待して読むのが間違った態度だったんでしょうけど。


朝比奈あすか 講談社 2006年8月28日発行
コメント
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