伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

あなたにだけわかること

2013-11-02 11:01:19 | 小説
 5歳の頃に、駿の母と夏の父が不倫関係を続け、平日の昼間に夏の家の2階で性行為にふける親たちを1階で2人で遊びながら待つことが多かった秀才の桐生駿と不良少女の野田夏が、別々の道を歩みながらときおり思い出し人生の曲がり角でときおり交差する幼なじみほのかに回想小説。
 俊の語りと夏の語りを切替ながら、雑誌連載の区切りで年代が飛び、最初は1年2年くらいだったのが次第に一気に十数年飛んだりしています。それぞれの人生を追って読む読み手には、心情の部分で埋めにくく、単行本で読むにはちょっとぶつ切り感を持ちました。
 子どもの頃気になった人を節目節目、というか停滞期や落ち込んだとき、気が弱くなったときに思い出し、どうしてるかなぁと少し甘酸っぱい気持ちを持つことは、誰しもあることと思います。父母の不倫というきっかけで、それがわかる年頃には抵抗感を持ち反発する関係になり、そこから心理的な距離を埋めていくというのはやや特殊なシチュエーションだとしても、読者には入りやすいテーマだと思います。
 夏の父と駿の母は、入口からかなり酷いと思いますが、「ぼくの肺に影が見つかり、それなら離婚したいと妻は言った」(191ページ)という駿の妻にも驚かされます。この一文を読んだとき、私は凍り付いてしまいましたが、こういう人は現実の世界ではわりといるのでしょうか。そういうときこそ慰め励まし合うのが夫婦じゃないのか、というのは中高年男の独りよがりなんでしょうか(-_-;)
 駿の母の後に夏の父の「ガールフレンド」になった温子さん。私にとっては、この小説の中で一番魅力的なキャラで、夏の父にはもったいないと思うのですが、夏の父の恋人でなくなり疎遠になって既に別の男と結婚した温子さんが、夏の父が認知症状態になると介護に通い、それなのに、夏の父は「早苗」(駿の母)と呼びかけます。人生ってこんなものでしょうか。
 そういう不条理をやり過ごしながら、時々涼風が吹くようにちょっとなごむ、その人心地の大切さが、ふと感じられるという作品でした。


井上荒野 講談社 2013年5月30日発行
「小説現代」2011年3月号~2012年5月号
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