伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

レックス 戦場をかける犬

2013-11-12 00:38:12 | ノンフィクション
 アメリカ軍海兵隊の軍犬兵であった著者が、軍用犬レックスとともにイラク戦争中の2004年3月から9月にかけてファルージャ近辺でパトロールと爆弾・武器探索の任務に当たった様子を紹介した本。
 灼熱の砂漠地帯で爆弾や砲撃にさらされながら、地下に埋められた爆弾部品や武器、爆薬を探索する軍用犬と、犬との間で強い信頼関係を持ち続ける軍犬兵の苦労と忍耐と勇気の物語は、迫力があり一定の感動を呼び起こします。
 イラクでの任務の記述の合間に著者の入隊前や入隊後イラクに派遣されるまでのエピソードが切れ切れに挟まれる構成は、飽きさせないという狙いでしょうけど、展開が中途半端な感じがして、どうせならどこかにまとめて欲しいと、私は思いました。
 アメリカ人には抵抗がないのでしょうけれども、米軍はイラクの市民の命も守っているとか、イラクの子どもたちがレックスを見て好感を持っていたとか、イラクの子どもたちに米軍がサービスしているとか、イラクの女性も米軍に解放されて喜んでいるとか、イラクのテロリストは卑怯だとか、イラク人通訳がイラクのテロリストに殺されたとか書き連ねているのは、私にとっては興ざめです。米軍に好感を持つイラク人もいるかもしれませんし、米軍が爆弾からイラク市民の命を救った場面もあるかもしれません。しかし、米軍がスパイやテロリストだと主張したり誤認して殺害した民間人はどれだけの数に上るのか、テロリストが民間人の陰に逃げ込むのが卑怯という前にテロリストが民間人の陰に逃げ込める(「人民の海」がある)のは米軍のいう「テロリスト」がイラク市民の支持を受けているからではないかとは考えないのか、と思ってしまいます。
 「1対1で向かい合って、かかってこいというのに比べて、戦争で簡易爆弾を使うのは卑怯で姑息だ。」(27ページ)という一節に、著者の感性がよく表れています。現場で爆弾に相対する一兵士の素直な感想でしょう。その場面だけを切り取れば、それは正しいともいえるでしょう。しかし、それなら米軍が地上部隊派兵前に必ず行う空爆は、ミサイル攻撃はどれくらい卑怯で姑息なのか、1対1で向かい合えって、完全武装の米兵に対してほとんどぼろ切れをまとうだけのイラク人が手に石かなんか持って相対して闘うのが公正(フェア)なのか、丸腰の民間人を銃で脅しつけて行う「捜索」は卑怯で姑息ではないのか、そういう問いかけは一行たりともありません。
 著者とレックスは関わっていないのだろうとは思いますが、米軍が「テロリスト」と主張してグアンタナモ基地に長期拘束した人々に対する拷問には軍用犬も用いられたと報じられています。
 そういった暗い面・米軍に不都合な事実にはまったく触れないまま、イラク戦争に従軍した軍用犬と軍犬兵の英雄物語とヒューマンなストーリーを書き連ねた本です。イラク戦争での米軍の行動を積極的に支持する人には楽しい読み物だと思いますが、私には、米軍の恥部を覆い隠すイチジクの葉かと思えました。


原題:SERGEANT REX
マイク・ダウリング 訳:加藤喬
並木書房 2013年10月5日発行 (原書は2011年)
コメント
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