伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ジャックを殺せ、

2013-11-07 22:06:11 | 小説
 「ジャックを殺せ」という「組織」の命を受けた狙撃手で後にファンド経営者の「ミス・レイディ」と呼ばれる「私」が次々と現れる「組織」の刺客や従業員、群衆と戦い、彼我と生死を超えて行き来しながら「私」とは何?「ジャック」とは何?と問いかけ、アイデンティティを抽象化・相対化する志向を試行した実験的小説。
 ある意味で哲学的実験小説といえるでしょうけど、私には観念を弄ぶ衒学趣味的自己満足的作品という印象が強く残りました。冒頭から、主人公の「私」の思考が独善的で錯乱気味なので、主人公の心情に入れず、読んでいて居心地が悪い思いをしました。「組織」に追われることになった「私」が「組織」から派遣されていると思われるイヴリンの元に帰りいちゃついて昼間は仕事を探して街を歩き回るとか、そりゃないでしょと思いますし。ところどころで主人公と主人公が同棲しているイヴリンのレズビアンな濡れ場が挟まれ、そこは妙に生々しく、ちょっと電車の中で読むのは、横の人に覗かれたら恥ずかしいなと決まり悪く思えました。中盤からは、「バイオハザード」のアリスの意識が敵や周囲の人に乗り移って拡散するバージョンの趣で、突然現れたり追いすがるゾンビを殺しまくるスプラッターを基本として、ときどき主人公の魂というか意識が攻撃・加害側と防御・被害側を入れ替わって行きつ戻りつするというハチャメチャなシーンが続きます。ラストで主人公が叫ぶように「何がどうだなんてことは……金輪際どうだっていい!あなたたちの好きにしなさい!」(170ページ)という印象を、この作品に対して持ちます。
 タイトルの「ジャックを殺せ、」。「モーニング娘。」が出て来たときに「。」が話題になりましたが、それにあやかってでしょうか、最後の「、」は。ところが、この作品、本文中には読点(、)が1つも出て来ません。読点の代わりに「-」が頻繁に使用されていますが、そういう点でも実験小説の感があります。二重否定を多用しているところも、わざと読みにくくしてるのかと思えます。そして37ページ16行目(最後の1行)から39ページ12行目まで29行1054字(挟まれた1文字分の空白を除き、2文字分の-を1文字にカウントして)にわたる超長文の1文が登場します。ギネス級かもしれませんが、でも読んでいてなんかどうでもいいやって感じになる、ただ長くすることを自己目的化したような文。作者としてはいろいろに実験しているのでしょうけど、読者としての私はパスしたい。


今村友紀 河出書房新社 2013年9月30日発行
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