伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞

2013-11-25 23:17:57 | 小説
 京大医学部現役合格・水泳国体選手・女にもてまくりのできすぎた弟を持つ二流大学カタカナ学部・就活59社不採用内定ゼロ・フリーターと聞いた彼女に振られたばかりのダメ兄貴伊藤雷22歳が源氏物語の世界にタイムスリップし、陰陽師と称して手持ちの薬品や源氏物語の知識を用いて宮中で重用されるという設定で、主に弘徽殿の女御に取り立てられ、源氏物語を弘徽殿の女御サイドから眺めた形で展開させる小説。
 弘徽殿の女御を自立心の強い決断力・胆力のある女性政治家と位置づけ、積極的に評価するとともに、男に取り入って自己と子どもの安泰を確保しようとする女たちを批判的に捉え、源氏物語の中での人物評価と異なる見方を示しています。その点がこの作品の読みどころなのですが、現代の若い男の語りになっているのがちょっとしっくりこない感じがします。源氏物語の登場人物、特に女性たちへの評価の視点が、やっぱり中高年女性の視点からの評価だなぁと思います。それを女性から語らせると若い女性への僻みとか嫉妬、意地悪な見方と受け取られやすいので、若い男性を話者にしたんじゃないかと思えるのですが、読んでいて度々若い男がこういう評価するかなぁと違和感を持ってしまいました。もっとも、女性の視点からの評価、男性の視点からの評価という感覚自体がステレオタイプの異性観でもあり、もっと自由な発想をすべきだと読み手の自分が反省しなきゃとも思うのですが。
 語り手自身が、弘徽殿の女御の息子一宮(後の朱雀帝)と同様にできすぎた弟を持つという設定で、コンプレックスと弟への微妙な少しひねた愛情が常に意識され、他方で恵まれたように見える者もどこかにコンプレックスを持つということにも言及され、他者への視点とコンプレックスがもう一つのテーマになっています。
 異性間・同性間の人間関係の機微やコンプレックスについてあれこれ考えさせられる作品でした。


内館牧子 幻冬舎 2012年5月10日発行
コメント
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