地球温暖化に伴い海水温が上昇し海の熱波(以上高温域)の発生頻度が高くなってサンゴ等の生態系に影響し、海面上昇によって高潮・台風被害が深刻化する、二酸化炭素濃度の上昇により海水に溶け込む二酸化炭素が増えて海水が酸性化して生態系に影響が生じる、プラスチックゴミが海洋や海岸を汚染し、マイクロプラスチックが多くの魚介類に取り込まれて海産物を汚染し最終的には人体に取り込まれる、生活排水や農業廃水による富栄養化で大量発生するプランクトンの死骸の分解過程で酸素が大量消費されて低酸素水塊が増えてこれが海水表面の温度上昇により表層と深部の海水が混ざりにくくなる成層化が相まって低酸素領域が増えて生態系に影響し、さらに乱獲により漁業資源が枯渇するなどの問題点を指摘しつつ、洋上風力発電や潮力発電による再生可能エネルギー活用、藻場やマングローブ林、湿地などの保全拡大による二酸化炭素吸収量の増加、養殖の拡大と肉食から魚食への移行など「ブルーエコノミー」を推進すべきことを論じた本。
様々な点で絶望的な状況が語られ、私の感傷で言えば慶良間ブルーで知られる座間味島(42年前に行ったきりですが…)の海岸で採取した貝類からも大量のマイクロプラスチックが発見された(72ページ)など、悲しくなる話が多いのですが、最終段階での著者の提言は、危機感を煽るよりは、より建設的なというかある意味で楽観的なもので、ちょっと救われます。
ただ著者自身は記者で科学者ではないこともあり、書かれていることがどの程度の検証を経たものかには注意を要するかも知れません。私が気になったところでは、クマノミのふ化直後の稚魚を二酸化炭素濃度が高い環境下で4日間飼育した後に捕食者のいる通常環境下に戻したときの生存率を調べた実験に基づいて、二酸化炭素濃度が高くなると敵を警戒したり避ける能力に影響するという研究チームの見解を紹介しています(45~46ページ)。元になった研究を私は見ていませんけど、クマノミの稚魚だけを突然二酸化炭素濃度が倍前後の環境に入れてその後また戻しているという環境の激変がクマノミを弱らせている可能性があり(二酸化炭素濃度以外のものでも環境が激変すれば同様の影響が生じる可能性は検討検証されたのか?)、ここで紹介されている限りでは、二酸化炭素濃度が低い環境に置いた場合の比較がなく、また捕食者も同様に二酸化炭素濃度が高い環境に入れたらどうなるのかの比較もなく、さらには二酸化炭素濃度を長期間かけて徐々に高くした場合の比較もありません。私には、ここで触れられている実験だけで二酸化炭素濃度の悪影響を言い、このままのペースで二酸化炭素濃度が上昇すれば(海洋の酸性化が進めば)ニモ(カクレクマノミ)がいなくなるかも知れないなんて言ってしまうのは、科学的な態度とは思えません。

井田徹治 岩波科学ライブラリー 2020年4月9日発行
様々な点で絶望的な状況が語られ、私の感傷で言えば慶良間ブルーで知られる座間味島(42年前に行ったきりですが…)の海岸で採取した貝類からも大量のマイクロプラスチックが発見された(72ページ)など、悲しくなる話が多いのですが、最終段階での著者の提言は、危機感を煽るよりは、より建設的なというかある意味で楽観的なもので、ちょっと救われます。
ただ著者自身は記者で科学者ではないこともあり、書かれていることがどの程度の検証を経たものかには注意を要するかも知れません。私が気になったところでは、クマノミのふ化直後の稚魚を二酸化炭素濃度が高い環境下で4日間飼育した後に捕食者のいる通常環境下に戻したときの生存率を調べた実験に基づいて、二酸化炭素濃度が高くなると敵を警戒したり避ける能力に影響するという研究チームの見解を紹介しています(45~46ページ)。元になった研究を私は見ていませんけど、クマノミの稚魚だけを突然二酸化炭素濃度が倍前後の環境に入れてその後また戻しているという環境の激変がクマノミを弱らせている可能性があり(二酸化炭素濃度以外のものでも環境が激変すれば同様の影響が生じる可能性は検討検証されたのか?)、ここで紹介されている限りでは、二酸化炭素濃度が低い環境に置いた場合の比較がなく、また捕食者も同様に二酸化炭素濃度が高い環境に入れたらどうなるのかの比較もなく、さらには二酸化炭素濃度を長期間かけて徐々に高くした場合の比較もありません。私には、ここで触れられている実験だけで二酸化炭素濃度の悪影響を言い、このままのペースで二酸化炭素濃度が上昇すれば(海洋の酸性化が進めば)ニモ(カクレクマノミ)がいなくなるかも知れないなんて言ってしまうのは、科学的な態度とは思えません。

井田徹治 岩波科学ライブラリー 2020年4月9日発行