伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

文豪の悪態 皮肉・怒り・嘆きのスゴイ語彙力

2020-07-17 21:09:14 | 人文・社会科学系
 明治時代から戦前にかけて活躍した文豪たちが他の作家等に向けて書いた悪評等を紹介する本。
 扱われている言葉には、タイトル通りの悪口、憎まれ口が多いのですが、必ずしもそういうものでないものも紹介され、さらには本文では、紹介されている言葉が発せられた経緯や背景事情の説明ももちろん書かれていますが、印象としてはそれ以上に当時の世情やさらには登場人物の紹介に紙幅が割かれている感じで、全体としては、著者が紹介したい文豪に関するそれほどは知られていない話を書きたくて書いた本かなと思います。
 「はじめに」で最近は世の中に、特に大学に「変な人」がいなくなったという嘆き、昔は大学の先生にはいろいろな変人がいて面白かったのにという嘆きが冒頭に書かれていて、そっちの方が本文よりも私の胸にストンと入りました。それが何故なのだろうと「はじめに」で著者は問うているのですが、もちろん、本文ではそれは解き明かされません。
 本文の方は、関係者の紹介等が多くて少し冗長に思えますが、田山花袋が「蒲団」で蒲団と夜具に残る若い女の匂いを書いたそのモデルの実在の人物岡田美知代の主張とか、太宰治と中原中也の取っ組み合いのけんかとか、菊池寛が実在のカフェの女給杉田キクエを口説く様を小説に書かれて中央公論社の編集者を殴りつけるが作者の広津和郎は友達だからといって抗議せず困った広津和郎が中央公論社の社長に告訴をやめないと連載を打ち切るといって仲裁したなどの話は興味深く読めました。


山口謠司 朝日新聞出版 2020年5月30日発行
コメント
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