伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

写真の撮影・利用をめぐる紛争と法理

2020-07-27 21:05:36 | 実用書・ビジネス書
 写真の撮影と公表等の利用に関して、肖像権、プライバシー、名誉毀損、著作権(複製権、翻案権等)・著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、公表権)、パブリシティ等との関係で判断を示した裁判例を整理紹介する本。
 私の業務的な関心(プライバシー関係は一応私も詳しい弁護士と評価されていますし)から裁判例の知識のアップデート目的で読みました。知らなかった裁判例もいくつかありましたし、まとめて読むと新たな発見もあり、勉強になりましたが、最近の裁判例の紹介はちょっと手薄に思えました。
 分野分けはされているのですが、特に肖像権(第Ⅰ章)とプライバシー(第Ⅱ章)と名誉毀損(第Ⅲ章)と写真の撮影等をめぐる裁判例(第Ⅵ章1)は、多くの裁判例が重複していて、判旨(判決文抜粋)は省略されて、それでも「事案の概要」と「実務上の意義」(判示事項の整理抜粋と著者のコメント)はほとんど同じ内容のもの(分野に合わせて省略されたり加筆されている文もないではないですが、たいていはその分野以外の点もそのまま繰り返されています)が繰り返し掲載されています。分野分けするのであれば、判決文のその分野に関する判示を抜き出してメリハリを付けた紹介をしていただいた方が読みやすいですし、それがなされていないためにいたずらに分厚い本になっているように思えます。
 判決文の引用紹介(判旨)の範囲が精選されておらず、「事案の概要」や「実務上の意義」で取り上げられている事項に関する部分が出ていないことも少なくなくて、読んでいて気になりました。例えば告別式で盗み撮りした遺影を写真週刊誌に掲載したことの違法性が争われた事件の判決(33~35ページ)で、肖像権等の人格権は死亡により消滅したが遺族の死者に対する敬愛追慕の情が著しく侵害されたとして損害賠償請求が認容されたことを紹介していながら、判決文は死者の人格権を認めることはできないという判示で終わっているとか、警察による監視カメラ設置の違法性が争われた事件の判決(55~57ページ)で監視カメラのうち1台はプライバシー侵害とされて撤去請求が認容されたことを紹介しておきながら(その判決の紹介が「警察が街頭にカメラを設置し、運用したことが肖像権の侵害にあたらないとされた事例」とされているのも不思議な気がしますが)判決文は原告らの容貌等を録画していると認めるに足りる証拠はないというところで終わっていて監視カメラのうち1台の違法性に関する判示はまったく引用されていないとか、読んでいる側には欲求不満が募ります。逆に、撮影した写真を勝手にアダルトサイトの広告に使用したことの違法性が争われた事件の判決(127~129ページ)では被告の1人である広告制作会社社長が写真入手時には社長ではなかったことから責任を負わないと判示した部分を紹介していますが、それは肖像権侵害の有無には特段の意味もなく著者も「実務上の意義」でまったく触れておらず、紹介している理由がわかりません。
 判決文を紹介する際、判例雑誌からそのまま抜き出しているのでしょうけれども、2006年前後までの判決文では関係者の固有名詞がそのまま紹介されています。出版済の紙媒体は直しようがないのでしかたがないと思いますが、この時期に出版する本で、かつて出版された判例雑誌に実名が掲載されているということで、現在の感覚では仮名(記号)化されるのがふつうになっている関係者の実名をそのまま記載していいのか、プライバシーもテーマとなっているこの本でそれでいいのかという疑問が残ります。
 なお、ロックバンド黒夢の写真集出版に関する判決の紹介で、ロックバンド名を「悪夢」としている(96ページ、427ページ)とか、ごく単純なミス・誤植も目に付きます。
 テーマは興味深く、多数の判決が掲載されていることはありがたいのですが、様々な点で雑さが目に付くのが残念です。


升田純 民事法研究会 2020年3月26日発行
コメント
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