伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

3.11後の社会運動 8万人のデータから分かったこと

2020-07-26 10:02:57 | 人文・社会科学系
 2017年に「楽天リサーチ」(現楽天インサイト)モニターに登録している東京・埼玉・千葉・神奈川在住者に対して行ったインターネットアンケート(回収数8万3732:有効回答7万7084。うち3.11後に反原発デモか反安保法制デモに1度でも参加したという回答1412)を分析して、過去(60年代、70年代)のデモ参加経験者と未経験の新規参加者、年齢、性別、支持政党、思想傾向等により参加の度合い、参加の動機・経緯、参加による本人の変化等を論じた本。
 デモ参加経験が次の新たなデモへの参加のハールを下げ、また参加者自身のデモや社会・政治問題への意識を変えていくこと、現在3.11後のデモは沈静化し風化したように見えるがデモ参加経験が情勢の変化が生じたときにはまた新たな運動の基盤となり得ることが、ある意味で当たり前のこととも言えますが、読み取れました。
 より支持者の多い反原発デモの高揚後、参加者の相当部分が退出したが、反安保法制デモではその退出分に相当する新規参加者が加わってピーク時にほぼ同規模となったことについて、より支持者が少ない反安保法制運動では運動支持者中のデモ参加者の割合が多かったことの理由がこの本の中ではうまく説明されていないように思えます。私には、反安保法制デモのときはSEALD'sなどの学生/若年層が注目され報道が多くなされまた好意的なニュアンスの報道が相当数あったことが未経験者の参加を誘った(好奇心を持たせた、参加しやすい印象を与えた)ものと、ごく単純に見えるのですが。
 デモ参加者の社会意識(ナショナリズム、経済的自由主義、権威主義、文化的自由主義の4指標)の関係を論じているところ(60~63ページ)のグラフ(図2-5)で、凡例の記載が間違っていると思います。本文の記述に照らすと、凡例で「反権威主義」とされている細い実線が正しくは「反経済的自由主義」、凡例で「反経済的自由主義」とされている点線が正しくは「反権威主義」であるはずです。図が正しい前提で読むと、このデータでこういう分析をするのはあまりにも強引な解釈と感じてしまいます(最初そう感じて繰り返して見直して、図が間違っているのだと認識しました)。アンケート結果の分析、数値の評価が肝の本で、こういうミスは痛いと思います。


樋口直人、松谷満編著 筑摩選書 2020年6月15日発行
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