伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

リスクの正体 不安の時代を生き抜くために

2020-07-18 00:11:53 | エッセイ
 2014年秋から「朝日新聞」に連載されたコラム「月刊安心新聞」を整理して出版したもの。
 新技術をめぐる方針の決定に関して、専門家の判断と民主主義の調整、「専門知を備えた第三者」の存在の重要性が繰り返し語られています。例えば、ドローンの功罪を巡り、「新しい技術が現れた時、それがどのような経緯で誕生し、功罪含め、いかなる社会的影響を及ぼしうるかについて、調査し評価することが求められるはずだ。当然、それは中立的であることが望ましい。また専門的な観点と、市民社会的な眼差しの両方から、丁寧に検討される必要がある。だが、そんな役割を果たすことができる者は、どこにいるのだろう。科学技術に関する理系的な知識と、法や倫理に関する文系的な素養の両方を、バランスよく兼ね備えている人物。そして何よりも、検討すべき対象と直接の利害関係がなく、公益を基準にフェアな判断ができる人物。結局、そういう人材や職業を育てることを、この社会が怠ってきたことが、種々の問題の本当の原因ではないか」と論じています(77ページ)。もんじゅと豊洲市場の安全性(91~93ページ)、AI利用(85ページ)、量子コンピュータ(117ページ)でも同趣旨の記述があり、それはなるほどねと思います。コンピュータ好きで工学部に進学したが文転して科学史を専攻した著者(244~245ページ)のような人物がそういう人材だと主張しているのではないでしょうけれども。
 高齢ドライバーの事故に関して、統計上むしろ高齢の歩行者が圧倒的に交通事故の被害者であり、加害者としては10万人あたりの死亡事故率は全世代が4.4件に対し65歳以上は5.8件と平均より高いが、一番高いのは16歳から24歳の7.6件ということを示して冷静な議論を求めている(157~159ページ)あたり、好感が持てます。


神里達博 岩波新書 2020年6月19日発行
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