トーマス・ジェファーソンの所有していたモンティチェロ・プランテーション(ヴァージニア州)、鎮圧された奴隷反乱後のさらし首を再現するなど当時の奴隷小屋と奴隷の生活を展示するホイットニー・プランテーション(ルイジアナ州)、「奴隷解放」後陪審員の全員一致でなくとも有罪判決を言い渡せる仕組みの下で大量の黒人囚人を収監し労働力として貸し出していたアンゴラ刑務所(ルイジアナ州)、奴隷制度を守るために戦った南軍の兵士を埋葬するブランドフォード墓地(ヴァージニア州)、北軍将軍ゴードン・グレンジャーが奴隷解放宣言を読み上げたと言われているガルヴェストン島(テキサス州)、南北戦争で自由州を名乗りながらその実奴隷制度により発展しウォール街が南部の奴隷制度を支えていたニューヨーク、奴隷貿易の拠点だったゴレ島(セネガル)を著者が訪ね、現地での歴史を語るツアーに参加するなどして、奴隷制度を語るガイドの様子やガイド等との問答を描写しながら奴隷制度の過去と現在を報じた本。
現地でガイドをする人たちの姿勢、葛藤、逡巡、反発等を描くことで、奴隷制度の過去と現在をめぐる実在の生身の人々の思いを浮かび上がらせ、最後には著者自身が祖母たちと語り合う中で歴史や知識だった奴隷制・人種差別が自分の家族の物語だったことに気づくエピローグを配することで、問題意識を身近に感じさせる巧みな構成が取られています。
他方、一般に反奴隷制の立場の偉人と扱われるトーマス・ジェファーソンやリンカーンにせよ、南軍の英雄ロバート・E・リー将軍にせよ、ツアーのガイドにせよ、著者が気に入らないというか苛立つ様子が目につきます。それは立場上仕方ないこととも思えますが、トーマス・ジェファーソンが妻の死後再婚しないという誓いを16歳くらいだった女性奴隷に6人の子を産ませることで守ったことや奴隷所有者として多数の奴隷を売り払って家族を離散させた、黒人を差別し劣った存在と論じていた、リンカーンも黒人と白人の社会的・政治的平等には反対していたということを採り上げて非難する書きぶりには、私は違和感を持ちます。そういうことを知っておくことは有益だと思いますが、それはむしろガイドの人たちが指摘するように、複雑な一面と捉える方が大人の感性ではないでしょうか。もしトーマス・ジェファーソンやリンカーンが、著者が好むような平等主義者でそれを表明し貫いていたとしたら、そもそもその時代に大統領になることも、政治家として力を持つこともできず、彼らが成し遂げたこと自体が実現できなかったのではないでしょうか。
そのあたりのせめぎ合いが読みどころにもなっているような、読んでいて息苦しく感じる点でもあるような気がしました。
原題:HOW THE WORD IS PASSED : A Reckoning with the History of Slavery Across America
クリント・スミス 訳:風早さとみ
原書房 2022年3月1日発行(原書は2021年)
現地でガイドをする人たちの姿勢、葛藤、逡巡、反発等を描くことで、奴隷制度の過去と現在をめぐる実在の生身の人々の思いを浮かび上がらせ、最後には著者自身が祖母たちと語り合う中で歴史や知識だった奴隷制・人種差別が自分の家族の物語だったことに気づくエピローグを配することで、問題意識を身近に感じさせる巧みな構成が取られています。
他方、一般に反奴隷制の立場の偉人と扱われるトーマス・ジェファーソンやリンカーンにせよ、南軍の英雄ロバート・E・リー将軍にせよ、ツアーのガイドにせよ、著者が気に入らないというか苛立つ様子が目につきます。それは立場上仕方ないこととも思えますが、トーマス・ジェファーソンが妻の死後再婚しないという誓いを16歳くらいだった女性奴隷に6人の子を産ませることで守ったことや奴隷所有者として多数の奴隷を売り払って家族を離散させた、黒人を差別し劣った存在と論じていた、リンカーンも黒人と白人の社会的・政治的平等には反対していたということを採り上げて非難する書きぶりには、私は違和感を持ちます。そういうことを知っておくことは有益だと思いますが、それはむしろガイドの人たちが指摘するように、複雑な一面と捉える方が大人の感性ではないでしょうか。もしトーマス・ジェファーソンやリンカーンが、著者が好むような平等主義者でそれを表明し貫いていたとしたら、そもそもその時代に大統領になることも、政治家として力を持つこともできず、彼らが成し遂げたこと自体が実現できなかったのではないでしょうか。
そのあたりのせめぎ合いが読みどころにもなっているような、読んでいて息苦しく感じる点でもあるような気がしました。
原題:HOW THE WORD IS PASSED : A Reckoning with the History of Slavery Across America
クリント・スミス 訳:風早さとみ
原書房 2022年3月1日発行(原書は2021年)