伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

心理学論文の読み方 学問の世界を旅する

2022-05-15 22:19:02 | 人文・社会科学系
 心理学をこれから学ぶ大学生向けに心理学論文の探し方、読み方を説明した本。
 発達心理学を専門とする大学教授の著者が、「心理学のどの分野の論文でもスラスラと読めるわけではありません。領域が異なる研究分野だと、知らない心理学用語が出てきて、理解できないことがあります。研究の手続きがわからなくて、戸惑ってしまうこともあります。心理学の専門家だからといって、心理学のすべてがわかっているというわけではないのです」と言っている(6ページ)のは、「わかる」のレベルの問題はあると思います(専門家であればあるほど、本当にわかっているのでないと、自分はわかっていないと言うでしょう)が、なるほどと思います。
 さらに、「他の学問分野の論文を読むときには、その戸惑いはさらに大きくなります」として、「教育学や社会学の論文には、本文中に注が付けられていることが多々あります。心理学では、そのような注を用いることはほとんどありません」(6ページ)というのは、ちょっと驚き。学問分野/業界によって、作法が大きく違うということですね。
 日本語の論文で、結果を述べるのに「○○と考えられた」「○○が見いだされた」「○○と推測される」などと受動態で書かれているのが多いのは、論文では「私は」という主語を使わないからで、英語では私( I )を使わなくても、例えば This result suggests …とか、This Figure says …とか能動態で書けるが、日本語で私はを使わないと受動態になってしまう、その結果、主張が弱い/積極的でない印象となり、「日本語で受動態を用いて論文を書いていると、自分がその結果を見出したという意識が薄れていくような気さえする」と述べられています(166ページ、38ページ)。「と思われる」とかいうどこか自信なさげな文章が多いのは、日本人が謙虚だからではなく、日本語が、「私は」を主語にしないとそういう文章になってしまうという性質のためだったんですね。新発見です。
 心理学に限らず、勉強/学問の始め方という趣の優しげな文章で、読んでいて少し初心に帰る思いをしました。


都筑学 有斐閣アルマ 2022年2月25日発行


 
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