30代前半と思われるインド系アメリカ人男性の一研究者の著者が、インド・ネパール、イタリア、モルドヴァ、アルバニア、タイ、アメリカ(ロサンジェルス)など世界各地の売春施設等を訪れてその中で未成年の性的奴隷とみられる者を探して話を聞きシェルターの情報を渡そうと試み、現地の性的奴隷制と闘いその解放と保護の活動をしている団体の紹介で保護されている女性の話を聞くなどの経験をレポートするとともに、性的奴隷制による業者の利益率を試算して性的人身取引撲滅のためにその利益を減少させる(性的人身売買等の罰金を上げ、検挙率・有罪率を上げる。捕らわれている女性の探索・解放のための人員・予算を増大させて性的奴隷としての拘束期間を短くする)対策が必要でありまた最も有効であると提言する本。
著者自身が各地の売春施設に単身乗り込んで危険を冒し、売春料を払いながら、当然のこととしてまったく性的サービスを受けずに、業者に気づかれるリスクに注意しながら話を聞くという試みを重ねていることから、その報告部分が貴重な情報ではあるのですが、そこについては、業者に気付かれないようにしかも初めて会った相手の警戒心を解きながら短時間で聞く話という制約のため、内容はごく断片的なものにならざるを得ません。体験者の話としては、具体的なものは現地の保護団体のシェルターに暮らす既に解放された人の話です。そうすると、読者のニーズに応えるという観点では、保護団体自身がレポートした方がより詳細なものができるということになってしまいます。
誘拐されたり職業あっせんや結婚と騙されて拘束されたエピソードが多数紹介され、現代でもそのようなことが行われていることに衝撃を受けます。しかし、この本の記述でより衝撃的なのは、保護団体の努力や警察の摘発で解放された女性が、故郷に帰ろうとすると親から一族の恥だ、帰ってくるなと言われ、生きてゆく手段がなくまた性的奴隷に戻ったり街娼となるとか、親が娘が性的奴隷となることがわかっていて売っている事例、さらには娘の方もそれがわかっていながら「親孝行」のために我慢しているとかそれを誇りに思っていると語る者がいるとか、もともとの生活で家族やその他の男から日常的に暴力をふるわれ続けている生活だったためにとにかくそこから逃げたくて怪しいとわかっていても斡旋業者の誘いに乗ったとかいう話です。私たちが生きる現代社会が不正義と悲しみに満ちていることが、性的人身取引を生き延びさせているということになります。
著者の主張では、1990年代初頭にIMF(国際通貨基金)が旧ソ連諸国や東南アジア諸国に融資の条件として緊縮財政(社会保障の切り下げ)や国営企業の民営化、金利の引き上げ等を強く求めたことで(外国資本の利益と債務の返済のために)インフレ(現地通貨の下落)と失業の増加で庶民の生活が圧迫された上社会保障(セイフティネット)が削減されたことで性奴隷が増加したとされており、国際機関の行動についても、いろいろと考えてみないといけないなと思いました。
原題:SEX TRAFFICKING
シドハース・カーラ 訳:山岡万理子
明石書店(世界人権問題叢書) 2022年2月20日発行(原書は2009年)
著者自身が各地の売春施設に単身乗り込んで危険を冒し、売春料を払いながら、当然のこととしてまったく性的サービスを受けずに、業者に気づかれるリスクに注意しながら話を聞くという試みを重ねていることから、その報告部分が貴重な情報ではあるのですが、そこについては、業者に気付かれないようにしかも初めて会った相手の警戒心を解きながら短時間で聞く話という制約のため、内容はごく断片的なものにならざるを得ません。体験者の話としては、具体的なものは現地の保護団体のシェルターに暮らす既に解放された人の話です。そうすると、読者のニーズに応えるという観点では、保護団体自身がレポートした方がより詳細なものができるということになってしまいます。
誘拐されたり職業あっせんや結婚と騙されて拘束されたエピソードが多数紹介され、現代でもそのようなことが行われていることに衝撃を受けます。しかし、この本の記述でより衝撃的なのは、保護団体の努力や警察の摘発で解放された女性が、故郷に帰ろうとすると親から一族の恥だ、帰ってくるなと言われ、生きてゆく手段がなくまた性的奴隷に戻ったり街娼となるとか、親が娘が性的奴隷となることがわかっていて売っている事例、さらには娘の方もそれがわかっていながら「親孝行」のために我慢しているとかそれを誇りに思っていると語る者がいるとか、もともとの生活で家族やその他の男から日常的に暴力をふるわれ続けている生活だったためにとにかくそこから逃げたくて怪しいとわかっていても斡旋業者の誘いに乗ったとかいう話です。私たちが生きる現代社会が不正義と悲しみに満ちていることが、性的人身取引を生き延びさせているということになります。
著者の主張では、1990年代初頭にIMF(国際通貨基金)が旧ソ連諸国や東南アジア諸国に融資の条件として緊縮財政(社会保障の切り下げ)や国営企業の民営化、金利の引き上げ等を強く求めたことで(外国資本の利益と債務の返済のために)インフレ(現地通貨の下落)と失業の増加で庶民の生活が圧迫された上社会保障(セイフティネット)が削減されたことで性奴隷が増加したとされており、国際機関の行動についても、いろいろと考えてみないといけないなと思いました。
原題:SEX TRAFFICKING
シドハース・カーラ 訳:山岡万理子
明石書店(世界人権問題叢書) 2022年2月20日発行(原書は2009年)