伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ボーイズクラブの掟

2022-09-21 22:53:30 | 小説
 ハーバード大学、ハーバード・ロースクール出で世界最大規模の法律事務所に入った新人弁護士アレックス・ヴォーゲルが、恋人にはワークライフバランスを考えてM&A部門は避けると言っていたのに、競争率の高さ、エリート意識を見せつけられてM&A部門を目指してハードな長時間労働競争にのめり込み、さらには接待のために深酒や薬物摂取も常態化して…というワーカホリック小説。
 事務所・弁護士とクライアントの関係、幹部・パートナーとアソシエイトの関係、新人弁護士の意識等、企業側の大手法律事務所の内情がさまざまに描かれているのが、業界人としては参考になり興味深いところです。作者自身が、匿名(仮名)ではありますが、大手法律事務所勤務の弁護士ということですので、相当程度信憑性があると見ていいのでしょう。
 もっとも、構成としては、冒頭から主人公のアレックスが所属事務所の最大手のクライアントが被告の民事訴訟の訴訟前証言録取(ディスカヴァリー手続)を受けているという過程で、その証言内容なのか回想なのかという形でストーリーが進行し、それがどのような裁判なのか、その中でアレックスはどのような位置づけ・関係を持つのかに関心が向くという意味での「サスペンス」となっているのですが、そこに関しては、同業者として疑問を持ちます。ネタバレになってしまうかもしれませんが、まず、626ページで「無罪」という言葉に呆然とします。いや、これ民事裁判じゃなかったのか? そして、同じページで「わたしの証人尋問が決め手になると信じていた」って、何ですか。アレックスの証言はいわゆる「悪性格の立証」に過ぎず、そんな証言は本来裁判で重視されてはならず、裁判官も陪審員もそれに依拠しないよう心がける類いのものでしょう。弁護士が書いた作品で、主人公の弁護士がそんな素人みたいな判断をしてるというのでは、他のところがよくできていたとしても、そこでもうがっくりしてしまいます。


原題:The Boys' Club
エリカ・カッツ 訳:関麻衣子
ハヤカワ文庫 2022年6月15日発行(原書は2020年)
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