伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

マスメディアとは何か 「影響力」の正体

2022-12-02 19:53:23 | 人文・社会科学系
 マスメディアの影響力(報道の効果)について、これまでの研究を分析整理して論じた本。
 マスメディアが人の行動に多大な影響を与える、マスメディアが人を操れるというのは幻想だということが最初に語られています。そのような見方の原因の1つとなっているナチスのプロパガンダの効果について、ナチスが大規模な宣伝活動を行えるようになったのは政権獲得後であり、プロパガンダの効果で政権が獲得できたわけではないし、政権獲得後のヒトラーの演説に国民は飽きていった、しかしナチスのプロパガンダが強力であったというイメージはナチスにも、そして敗北した社会民主党にも、国民にも都合がよかったためにそのようなイメージが生き残ったという可能性が指摘されています(7~11ページ)。
 その上で、さまざまな実験・研究の結果として、マスメディアは人びとの考えを変える力はほとんどなく、他方で人が持つ意見を強化する影響、重要項目と意識させる影響などがあることを指摘し、人びとがメディアに対して実際以上に大きな影響力を感じるのは自分はメディアに影響されないが他人は影響されると見るバイアス(第三者効果)によるものと論じています。
 人が自分が好むもの、自分に近い意見ばかりを見るという傾向は、もともとあったけれども、それがインターネットの普及で、「エコーチェンバー」「フィルターバブル」といわれる状態になりそれが加速しています。著者は、ポータルサイト(ヤフー・ニュース)の存在によって、利用者個人のネット上の選好に関係ないニュースの見出しが目にとまることでその傾向が緩和されている(222~227ページ)としていますが、日本でも Yahoo! Japan をブラウザを開けたときに最初に表示されるホームページにしている人はすでにかなり少数派だと思います。フィルターバブルから人びとが抜け出るためには、何かもっと他の作戦・きっかけが必要でしょう。


稲増一憲 中公新書 2022年7月25日発行
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