弁護士資格を有しない企業の法務担当者と将来企業の法務部門に配置されることのある法学部学生向けに、企業法務で想定される業務内容と企業法務に従事するにあたっての姿勢・考え方について説明した本。
私は企業法務には関与していませんので、企業法務として十分かどうかは判断できませんが、企業が日常業務で取り扱うであろう契約やリスク検討などについて、わかりやすく概説されている質のよい読み物のように思われます。
私の専門分野の労働法に関しては、「労働法務」と題する第8章で、パタゴニア・インターナショナル・インク事件の東京地裁判決に基づいて説明しています。このケースでは、労働者が「本件雇用契約におけるリーガルカウンセルの業務内容には法的アドバイス、分析を提供することのみならず、被告日本支社のビジネスゴール達成をサポートするビジネスパートナーとしての役割を果たすことも含まれていたのであるから、本件雇用契約上、原告には法的助言等を必要とする他の部門に対して法的リスクを述べるのみならず、同部門のニーズを汲み取った上で上記リスクを踏まえた解決策の提案等をすることが求められていたものであり、かつ、原告はこのことを認識してしかるべきであったというべきである」という、高い能力の、しかも法的アドバイスをするだけでなくビジネスパートナーとしての役割が労働契約の内容となっていたということが前提とされているために解雇有効とされたものですから、この基準で通常の労働者なり企業内弁護士・法務担当者の解雇の有効性が判断されるというものではないと、労働者側の弁護士としては考えます。著者としては、法務担当者もビジネスの「パートナー機能」を果たすべきことを強調している(15~16ページ等)のですから、法務担当者が行うべき業務と姿勢についてこの判決に学べということかなと思います。その意味で、この第8章は、労働法務よりも法務担当者の業務と姿勢について説明したものというべきでしょう。
企業の顧問弁護士の対応について、「例えば、筆者の事務所(東京)が顧問をしている会社が京都の簡易裁判所で10万円を払えと訴えられたとする。筆者が事件を引き受けて3回出廷するために3往復すれば、新幹線代(指定)だけで9万円くらいかかる。とすれば『分かりました、10万円払います』と認める(認諾する)方が安くあがる」(76ページ)と書かれていますが、それ以前に、東京簡裁であったとしても、請求額10万円の訴訟を10万円以下の費用(弁護士報酬)で引き受ける弁護士が実際にいるでしょうか。そっちの方に違和感を持ちました。
なお、75ページ下から5行目の「事例1」は「事例2」の誤りと思います。
松尾剛行 有斐閣 2022年9月20日発行
私は企業法務には関与していませんので、企業法務として十分かどうかは判断できませんが、企業が日常業務で取り扱うであろう契約やリスク検討などについて、わかりやすく概説されている質のよい読み物のように思われます。
私の専門分野の労働法に関しては、「労働法務」と題する第8章で、パタゴニア・インターナショナル・インク事件の東京地裁判決に基づいて説明しています。このケースでは、労働者が「本件雇用契約におけるリーガルカウンセルの業務内容には法的アドバイス、分析を提供することのみならず、被告日本支社のビジネスゴール達成をサポートするビジネスパートナーとしての役割を果たすことも含まれていたのであるから、本件雇用契約上、原告には法的助言等を必要とする他の部門に対して法的リスクを述べるのみならず、同部門のニーズを汲み取った上で上記リスクを踏まえた解決策の提案等をすることが求められていたものであり、かつ、原告はこのことを認識してしかるべきであったというべきである」という、高い能力の、しかも法的アドバイスをするだけでなくビジネスパートナーとしての役割が労働契約の内容となっていたということが前提とされているために解雇有効とされたものですから、この基準で通常の労働者なり企業内弁護士・法務担当者の解雇の有効性が判断されるというものではないと、労働者側の弁護士としては考えます。著者としては、法務担当者もビジネスの「パートナー機能」を果たすべきことを強調している(15~16ページ等)のですから、法務担当者が行うべき業務と姿勢についてこの判決に学べということかなと思います。その意味で、この第8章は、労働法務よりも法務担当者の業務と姿勢について説明したものというべきでしょう。
企業の顧問弁護士の対応について、「例えば、筆者の事務所(東京)が顧問をしている会社が京都の簡易裁判所で10万円を払えと訴えられたとする。筆者が事件を引き受けて3回出廷するために3往復すれば、新幹線代(指定)だけで9万円くらいかかる。とすれば『分かりました、10万円払います』と認める(認諾する)方が安くあがる」(76ページ)と書かれていますが、それ以前に、東京簡裁であったとしても、請求額10万円の訴訟を10万円以下の費用(弁護士報酬)で引き受ける弁護士が実際にいるでしょうか。そっちの方に違和感を持ちました。
なお、75ページ下から5行目の「事例1」は「事例2」の誤りと思います。
松尾剛行 有斐閣 2022年9月20日発行