伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

偽ブランド狂騒曲 なぜ消費者は嘘を買うのか

2006-12-22 01:22:46 | 実用書・ビジネス書
 ブランドと偽造・コピー商品をめぐるメーカー・デザイナー側と消費者側の論理や行動などをあれこれ論じた本。

 著者の姿勢は、読んでいて今ひとつよくわかりません。偽造商品の購入は犯罪者集団に資金提供することになるかのように論じてみたり、そうでもないように論じてみたり、偽ブランドは本当に悪いのかと問題提起してみたり、偽ブランドに手を出す人は(ファッションに関する限り)高いブランド品は買わないのだからブランドに被害を与えていないのではと論じてみたり。
 サブタイトルの「なぜ消費者は嘘を買うのか」にストレートに答えているようにも思えません(偽ブランドの品質もよくなってきているとか、とんでもなく高いブランド品より安くてそこそこもつ偽ブランドの方が魅力的とか、本で読まなくてもわかりきったことは時々出てきますが)。

 アメリカやヨーロッパの高級ブランド企業は極東(特に日本)でブランド・ロイヤルティを育むことに成功した、自国の市場では顧客のロイヤルティの多くを失ってきたという指摘(70~71頁)は、欧米の高級ブランドをいまだにありがたがっているのは日本人だけと読めます。
 また、1980年代のサッチャー主義がよくいえば「懸命に働いて自力で成功すれば欲しいものは何でも手に入る」悪くいえば「他社のアイディアを盗んでなぜ悪い、ぼろ儲けできるならいいじゃないか」となり、自分さえよければという風潮となって偽造マーケットを成長させたという指摘(147~151頁)は、へ~~っと思いました。私はもちろんサッチャー主義とかきらいですけど、そこまでは思ってませんでしたけどね。


原題:The Fake Factor : Why We Love Brands but Buy Fakes
サラ・マッカートニー 訳:浦谷計子
ダイヤモンド社 2006年10月26日発行 (原書は2005年)
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クリスマス・トレイン

2006-12-18 08:40:25 | 小説
 41歳の記者トム・ラングドンが、アメリカ国内の飛行機に搭乗禁止となったことをきっかけに紀行文を書くという口実でロスアンゼルスのガールフレンドのところまで大陸横断鉄道での旅に出たところ、10年あまり前に別れた恋人のエレノアもその列車に乗り合わせ、様々な事件が起こるうちに最初は頑なな態度だったエレノアも軟化し・・・というようなストーリーの中年男女の恋愛小説。
 軽いミステリー部分もつけられていて最後に謎解きがありますが、恋愛小説がメインなので、これはあってもなくても大して・・・という感じ。
 最後はクリスマス・プレゼントって感じですけどね。
 登場人物で一番の悪役が集団訴訟王の弁護士っていうのが、作者が元企業側弁護士だけに、弁護士時代の敵方をモデルにしてるんだろうなというのが透けて見えて、ちょっと浅ましい。


原題:THE CHRISTMAS TRAIN
デイヴィッド・バルダッチ 訳:武者圭子
小学館 2006年11月10日発行 (原書は2002年)
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逃げる

2006-12-17 18:46:28 | 小説
 主人公の「ぼく」が、恋人のマリーのビジネス上の知人の中国人チャン・シャンチーを尋ねて上海に行き、そこでチャン・シャンチーの恋人らしきリー・チーと3人で北京に行って、リー・チーとのアバンチュールに溺れながら麻薬取引らしきものに巻き込まれて逃走し、その間にマリーの父が死んだことを知らされて予定を切り上げて北京からパリ、マリーの父の葬儀が行われるエルバ島へと戻ってマリーと再会するまでを描いた、基本的には恋愛小説。

 テーマを、マリーの、近親の死に直面しつつ恋人も不在の不安定な心情とその理解におく限りは、巧みな展開と描写と感じられます。
 しかし、最初から3分の2までは、舞台は中国でマリーは携帯電話の向こう側、主要にはぼくのリー・チーとのアバンチュール、異国での言葉がわからない中での宙ぶらりんで苛立つ心情などが中心で、これは何だったのだろうという思いが残ります。中国でのできごとは決着もつけられず/示されずに放り投げられたままですし。
 そして、この小説で結局理解できないのはリー・チーの気持ち・考え。恋人のチャン・シャンチーと同行しながら、初対面のぼくとアバンチュールを楽しみ、その内心の描写もなく、チャン・シャンチーとの関係でどう位置づけているのかも全くわかりません。リー・チーはぼくにとって異国のエキゾチックな理解不能なアバンチュールの道具としてあるようで、東洋人がそういう道具として出てくることに、ヨーロッパの批評家たちは何とも思わないかも知れませんが(訳者あとがきによればすべての書評がこの作品を高く評価しているそうです)、私はどこか差別的/コロニアルな価値観を感じてしまい、ちょっと不愉快でした。
 後半のマリーとの関係での描写でも、主人公をぼくと表記し続けつつ(ぼくを名前のある存在にしたくなかったのでしょうけど)マリーの視点で書いているページがしばらく続くのは、文学的な技法かも知れませんが、ちょっと落ち着かない感じがします。


原題:FUIR
ジャン=フィリップ・トゥーサン 訳:野崎歓
集英社 2006年11月30日発行 (原書は2005年)
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水辺にて on the water/off the water

2006-12-16 07:28:22 | エッセイ
 イギリス(カナダもあるけど)と日本の湖沼・川や山・森を舞台に著者がカヤック(組み立て式の小舟)「ボイジャー」とともにあるいは歩いて旅しながらの情景と思いをつづったエッセイ。
 水辺や森の風景の描写が美しく、眺めの瑞々しさや靄や風なんかをふと感じ、心洗われる思いがします。できれば少しゆったりとした読書環境で読みたかったような・・・。湖沼や森の生物へのいとおしさ、旅と孤独への思い。さらにはそこに紛れ込ませた自然と人生への洞察も、うるさくなく染みてきます。
 全体が「水辺」をキーワードにしているので、連載の単行本化にありがちなバラバラ感もあまりなく仕上がっています。
 ただ、日本の地名になると唐突に「B湖」とか「S湖」とかの白々しい仮名表記がなされるのが、せっかくの美しい文章の中で目障りに思えました。


梨木香歩 筑摩書房 2006年11月20日発行
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Run!Run!Run

2006-12-15 07:53:32 | 小説
 エリート家庭で何不自由なく育った超高ビーな天才長距離ランナー岡崎優が、遺伝子操作疑惑に悩み、箱根駅伝を欠場して不器用な苦労人ランナー岩本君のサポートに回るハメになり、それを通じてその葛藤と成長を描いた小説。

 読んでいて主人公のジコチュウぶりとか、結局主人公の走る大きなレース本番がないとかいうあたり、ちょっと「バッテリー」(あさのあつこ)の陸上版かというイメージを持ちました。でも、嫌々ながらサポートしていた主人公が最後に成長を見せますので、読後の印象はだいぶ違います。
 当初の幸福そうな家庭が崩壊し、対照的にとげとげしかった大学のチームメイトが友情を見せる展開は、巧みではありますが、遺伝子操作の話もあわせちょっと作りすぎた感じで、不自然な感じが残るのが残念。岩本君や小松コーチ、保健師の水野あさ美といった脇役キャラがいい味を出して補っていますけどね。


桂望実 文藝春秋 2006年11月15日発行
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マグヌス

2006-12-14 08:55:09 | 小説
 第2次大戦末期5歳の戦災孤児だった「マグヌス」が、ナチスの戦犯の家庭の養子とされ、逃亡生活、養親の失踪と死亡、親族(ナチス批判勢力)家庭への引取、旅先で知り合った文化評論家の女性との同棲とその女性の死亡、かつての憧れの女性との同棲と戦犯の養親の発見と女性の死亡を経て隠遁生活に入るというストーリーを展開しながら、マグヌスの自分探しを追い描いた小説です。
 「マグヌス」は、実は本名もわからない主人公が持っていた、そしてその後の旅の同伴者のクマのぬいぐるみに書かれていた名前です。

 テーマは重く、やや観念的で、200頁ほどの比較的薄い本なのに読むのに時間がかかります。文章自体は美しく、観念的な表現の部分も重苦しくなくむしろ流れるようにつづられています。文体だけ見ればすぐに読み切れてしまいそうに見えるのに、なかなか読み飛ばせませんでした。
 どう表現してよいのか言葉に困るのですが、久しぶりに作品の質というか品というか、あるいは格というか、そういうものを感じる作品でした。
 おもしろいかと言えば、そうは言いがたいし、方向性について共感するということでもないので、人にお薦めという感じもしないのですが、テーマと文章の美しさは一読の価値ありと思います。
 章の代わりに「断片」としてナンバリングされ、その間を解説文と詩的な文章がつないでいます。「断片」が2から始まるのに最初とまどい、誤植かとも疑いますが、後で時を遡った断片1が登場します。最後の方で断片0が登場しますが、これは時を遡っておらず謎めいたナンバリング。

 この種の作品を読むとき、いつも自分が何者か(出身、ルーツ)がそれほどまでに重要なのかと考え込んでしまいます。ラストはそこからの解放かさらなるこだわりか、自由な読みを残すものと思います。私は前者と読みたいですが。


原題:MAGNUS
シルヴィー・ジェルマン 訳:辻由美
みすず書房 2006年11月10日発行 (原書は2005年)
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アメリカの民事訴訟 第2版

2006-12-11 08:08:34 | 人文・社会科学系
 アメリカ(サンフランシスコ)の弁護士事務所の東京オフィスが、日本の依頼者向けにアメリカの民事訴訟の手続について説明した本。
 手続中心の説明で技術的なこともあって企業の法務担当者や弁護士以外にはかなり取っつきにくい本ですし、法律用語の訳がちょっとしっくり来ないところがあるのが難点。また、主な読者をアメリカで訴訟リスクを抱えるあるいは訴訟を希望する日本企業の法務担当者(顧問弁護士も含む?)と想定しているので、説明に使われる事例が企業間の特許紛争のケース中心というのも、一般読者にはなじみにくいと思います。
 しかし、そこを乗り越えることができれば(けっこう高いハードルですが)、アメリカの訴訟手続に興味がある読者には有益な本だと思います。

 私のサイトで裁判手続について書いているページで時々アメリカとの比較を書いていますが、アメリカの裁判を支えているディスカバリーという証拠開示手続は弁護士にとっては(有能な弁護士にとっては、かも知れませんが)極めて魅力的です。証拠を隠す当事者(企業)に対して裁判官が関与して強い制裁の下に証拠提出を強制している事例は、日本の庶民側の弁護士にはうらやましい限り。この本で紹介されている事例では、訴訟に関連する電子データの保全を怠った企業に100万ドルの罰金が科されたとか、保全命令に違反して電子メールを破棄した企業に対して2750万ドルの罰金が科されたそうです(70頁)。読んでて、桁間違えてるんじゃないかと思うほどすごい額ですね。
 ただ同時に、ディスカバリーの最も重要な手続のデポジション(証人尋問)では裁判所の速記官の立ち会いの下で証人予定者を尋問できて、これがあるから弁護士は審理前に証人の証言内容を知ることができる上に証人にはデポジションと違うことを言えない(言ったら前には違う話だったでしょうと指摘できる)よう拘束をかけられるという尋問を行う弁護士には楽園のような条件が得られるのですが、この裁判所速記官の日当が1日1000ドル以上(82頁)、ビデオ録画者の日当や専門家証人の日当もあって、かなり費用がかかるのは、庶民側には辛そう。
 そういう費用の問題は感じますが、アメリカの訴訟手続は、手続上の公正さ・公平さということに関しては、かなり気を遣っていると思います。アメリカの法律は自由競争重視の弱肉強食的な部分が多々ありますが、同時にこと手続の公正・公平に関してはかなり徹底しています。
 昨今の日本の政治は、法律をアメリカ型の弱肉強食型にどんどん変えていますが、手続の方は見習っていません。こういうやり方ではアメリカ以上の弱肉強食社会になると思います。今のような法改正を進めるなら手続の方もアメリカ型にするべきだと私は思うのですが。そういうことを考えるのにも役に立つかも知れません(著者はそういう視点では書いていませんが)。


モリソン・フォースター外国法事務弁護士事務所
有斐閣 2006年11月10日発行 (初版は1995年)
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暮らしの中の面白科学

2006-12-10 12:29:41 | 自然科学・工学系
 鉛筆で字が書けるしくみとか、スタッドレスタイヤが滑らないしくみだとか、日常生活で使っているものの機能を科学的に説明した本。
 特に「へ~、驚いたなあ」というようなことは書かれておらず、比較的地味に解説されています。普通に知っていることに少し知識を追加するくらいの感じですね。詳しいきちんとした説明は、別の専門書を見る必要がありますが、軽い教養本としては手頃なところでしょう。


花形康正 ソフトバンクサイエンス・アイ新書 2006年10月24日発行
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股間

2006-12-09 23:04:08 | 小説
 劇団毛皮族を主宰する作者の、たぶん自伝的な、小説。
 最後にフィクションと断られてはいますが、主人公の名前が重信ジュリ(作者はジュンリーと呼ばれているそうです)、主人公の主宰する劇団が「毛布教」、スター女優の名前が港乃マリー(毛皮族の主演女優は町田マリーというそうです)という具合では、自伝的小説と読むしかないでしょうね。
 文体も、本職の作家でないせいでしょうか、小説というより手記っぽいし。
 それ以外の登場人物の名前のつけ方はかなり投げやり。どうでもいい男子・堂出本伊井也(18頁)とか、そういうネーミングを見ただけで作者の意欲とセンスを疑ってしまいます。

 お話は、主人公が劇団の女優ら身近な女性に次から次へと恋愛感情を持ち肉体関係(レズの)を持ち、その人間関係のこじれと劇団の盛衰・経済的逼迫が延々と語られています。
 それが今ひとつストーリーとしてまとまらないまま、エピソードとして積み重ねられ、なんとなく締まらないままに終わっています。
 そういう点からも、劇団と作者自体に興味のある読者がどこまでが事実だろうという好奇心で読むための読み物なのでしょう。純然たる小説として読むには相当辛いと、私は感じました。


江本純子 リトルモア 2006年8月10日発行
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世界は単純なものに違いない

2006-12-09 23:01:13 | エッセイ
 1963年生まれ、有吉佐和子の娘の著者がここ10年間にあちこちに書いたエッセイを集めたもの。
 過去に書いたものを編集して、第1章が子どもの頃の世間の風俗・事件の想い出、第2章が青春時代、第3章が自分と家族を中心としたもの、第4章が文化・芸術関係の評論という感じに仕分けしています。
 前半は著者と概ね同世代の私にはなつかしく思えるところが多くありました。さくらももこ(ちびまる子ちゃん)が出てきたときに似たノスタルジーというところでしょうか。
 最後の方の文明論というか環境問題的なものも含めて、そうだよねと思うところは結構ありますが、どうも寄せ集め編集のため、強い印象や強い共感は感じにくいですね。ごくゆるい読み物として読むのが適切でしょう。


有吉玉青 平凡社 2006年11月20日発行
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