ハリウッドの脈々と過去から紡がれる技術と能力を充分引き出している秀作です。もう最初からカット割りなど、フムフムうまいわいと安心して画面を見ることができるのです。だからこそ、細かいシーンの積み重ねが充分生きてくる。
そう、この映画では驚くなかれ、無駄なシーンが何一つない。これはすごいことだと思います。それほどすべてのカットがきっちりと計算されているのかもしれません。このハリウッドの伝統を現代に受け継ぐかのような見事なタッチが光ります。
さて、本篇に行きましょう。題材は最近やたら多い、人種差別ものであります。トニーもイタリー系なので、一応白人ではあるが、アングロサクソンではなく、実際は差別もあるはずだ。
しかし、彼は大の黒人嫌い。偏見も強い人間と設定されている。この精神的対立感を秘めながら二人のロードムービーは続く。
その彼が黒人の雇われドライバーになる。見た目は逆である。ここから、既にこの映画のテーマが動き始める。
数々のエピソードは日本人たる僕には驚きを禁じ得ないものが多いが、アメリカ人の間では日常茶飯事なのであろう。しかし、彼のコンサートには来て、スタンディングオベーションをする上流階級でも、黒人蔑視の底流を変えることはできないのだ。この心理には僕もやられたと思う。人間の薄汚さが露骨に表現されている。
トニーとドク。そのドクにも人に言えぬ複雑な性癖があった。彼の孤独を強烈に感じる瞬間である。人間って、ホント複雑で不思議な生き物なんだね。この作品の膨らみの大きいところでもある。
最後のエピソードも泣かせるいいシーンだけれど、人間って、ガチンコで生身になって向き合わないとお互いが理解できないんですね。あんなに偏見を持っていたトニーが人間の真実を知ってゆく過程は、まさに人間同志のぶつかり合いの結果でもあります。感動します。
この作品、アカデミー賞作品賞という触れ込みから逆に少々期待しないで見たこともあるが、ハリウッドとしては現状の持っている目いっぱいのものを発揮出来得た映画ではないかと思います。名作の分類に入るのかもしれません。
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