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ヤコブへの手紙 (2009/フィンランド)(クラウス・ハロ) 85点

2011-02-18 14:59:30 | 映画遍歴
上映時間も短く、出演者もほぼ3人で固定、しかもテーマは明確。無駄なセリフは徹底的に排除。こころの映画の、エキスのような映画が出現した。その、わが心を掘り下げてくれるスクリューの刃は鋭い。

終身刑に服す女。大女だがその瞳は死んでいる。人生への輝きは無きに等しい。何をしでかしたかは分からないが絶望とともにただ生きている感じだ。その女が恩赦で出獄する。いやいや居ついたところは盲目の牧師の荒れ果てた家だ。

仕事は牧師の下に送られて来る手紙を読むことと返事を代筆することだ。自分自身の罪をまず許せない女にとって、その手紙群は世俗性の詰まったものであり、その手紙を唯一の生きがい(頼られがい)にしている牧師は彼女の意識に入り込む存在ではない。

しかし、彼女が来てから急に手紙が届かなくなる。それからがこの映画、本当に面白くなる。人間が生きる意味は何なのか。という使い古されたかのような究極のテーマにこの映画は挑んでいくことになる。

二人とも実は孤独である(ひょっとして郵便配達人も含めて3人とも)。信者からの手紙を拠りどころにして生きていた牧師は、手紙が途絶えた途端生きがいを失い病に服す。牧師という神の使いともいえる存在である彼も、一人の迷い人であり、誰かに生かされていたことを知る。

人を殺めたのであろう女も自分のことを心配してくれる人がいたことを知り、生かされて生きていたことを知る。人間として心が解ける瞬間の見事な描写、演技。

短い話だけれど分からないのは突然手紙が止まることだろう。郵便配達人が関係しているのか、そうでないのかはっきりしない描き方だが、僕は敢えて神がそうさせたのだろうと思いたい。牧師はそれに気付き最後の仕事を彼女に施すことになる。

結構甘いラストだが、こういう作品は聖書に基づいているので寓話になることが多いのだが、最後までドラマとして立脚し、崩れていないのが立派であった。

最近、上映時間の長時間化が進んでいるような風潮で逆手をいくシンプルさは斬新でさえある。映画もシンプルイズベストなのである。決して短いのがベストだとは思えないが、テーマはシンプルでも深遠な映画作りは出来るのだ。そのお手本のような映画だと思う。

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