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遠くの空(2010/日)(井上春生) 75点

2010-10-21 11:19:31 | 映画遍歴
静かな映画だ。映像も清らかなちょっとくすんだ白色のイメージが全編を貫き、この映画のテーマをよく表している。

ファザコン気味の女性と若い時に韓国で何かつらいことがあったらしい母親との確執。そして5歳の時に無理に日本に連れられてきた祖母。ボーイフレンドもいる女性だが、何となく想いがつながらない。

そんな満たされないそれでも続いていく日常の描写が醒めたカメラで描写される。そんな女性に韓国から上司が転勤してくる。冴えない中年の男性だが、不思議と惹きつけられるものがあるのか、女性は関心を持つようになる。

人に関心があるのは恋なのかどうか、、女性は悩む。僕たちも悩む。え、そうだったっけ?

昼夜かまわず彼らは散歩する。話をする。現代の若者にはない行動だ。お互いの心を知ろうとする。お互いの国の文化を知ろうとする。お互いの心の苦悩を知ろうとする。女性はボーイフレンドに興味がなくなってくる。不思議だと思いながらも、何となく同調してくる僕。

そして男性が光州事件で人生上の挫折をしていることに気づく。また恋愛でも中ぶらりんの状態で終わってしまっていることも。

太宰の文庫本を家で見つけることから女性は血というものの不思議な巡り合わせに懊悩する。けれど、真実は彼女をまた別の世界に誘導してくれるものであった。

きれいな話である。きれいすぎて、光州事件も、過去の一つの遠い社会的事件に過ぎないような映像である。しかしこの映画は光州事件を掘り下げる映画でもない。生まれたときからもやもやしてきた何か相容れないものが歳月を通じてやっと分かり、そしてそれらが強固なものになりこれから生きていく束を形成するのだ。

感情もかなり抑えている映像なので、映画はさらりと終わるが、これもまた一つの人生なのだ。好きな映画である。

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