菊池亜希子は「森崎書店の日々」で印象深い俳優である。雰囲気があり、何でも受け止めてしまう包容力さえ感じられる。そして彼女が宮沢賢治の世界を彩るこの作品、、。
映像も特にどうということもない、そして俳優陣も父娘以外はほとんど無知のいわゆる手作りの映画作品である。主人公は30前のごくどこにでもいる東京での孤独人。恋人がいるようでいなく、仕事でも人間関係に傷つくどこにでもいそうな人物である。
そんな彼女は、実は父親を亡くし母親が再婚したため唯一の肉親と断絶状態にあった。その彼女の孤独感というか、漂泊感は、人間関係にも仕事にも恋愛関係にも疲れた一般の人間にも共感出来る何かがある。
都会で一人で生きていくということは便利さを引き換えに人間的な何かをなくすることでもある。そういう人生的な喪失感がこの映画に基底に根付いている。これからどうしていくかそろそろ決めなければならない年齢に向き合う人にとってこの映画は身近なものであるはずだ。
彼女は意思を持ったわけではないが、偶然郷里の花巻に10年ぶりに帰ることによって自分を取り戻していく。からからに乾いていた心がじわじわ沁みて来るその暖かさ。母親との確執も理解し、自分の幼さを知ることとなる。
彼女は空に浮いていた自分を大地にしっかり戻すことにより一歩ずつ歩んでいくだろう。そんな人生への確かさを実感出来る佳作であった。一滴の水を渇いた喉に運んだ時のさわやかさとちょっとした達成感を感じるのである。
どうということもない小品なんだが、少々疲れた吾輩にはぐいと力をくれたいい作品です。何もないその全体を覆う茫洋さもいいです。
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