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ヒア アフター (2010/米)(クリント・イーストウッド) 80点

2011-02-23 15:19:13 | 映画遍歴
映像表現がうまい。バカンス中のけだるい明るい朝。太陽がいっぱいに入りこもうとしているベッドの表情の柔らかさ。そっと女はベッドから降り、朝市に土産ものを買いに出かける。本当に自然だ。すーと映像に入ることができる。

しかし、その後の大津波の本格映像。どでかい迫力と生映像と見違うぐらいのリアルさあ。どうやってこんな映像が作れたんだろうと、その激流のすさまじさに驚く。イーストウッドって、こんなCGの分野まで一流だったのか、と。そして水に飲まれた女の臨死体験が描かれる。それはこの映画のテーマである「死を乗り越える」の前触れでもある。

双生児の兄と弟と一心同体の関係。それがもろくも不慮の事故で崩れ去る。弟は兄を求め町をさまよい歩く。閉じてしまった心は死者の声だけを聞こうとしている。その切なさがたまらない。

霊能力者だという特殊能力に、それを業とすることにかえって疲れてしまった男。今は工場労働者でなんとかその日をしのいでいる。彼は人の手を取ることにより死者の声を聞くことができる。それは死者の声を求めている人の無意識の声なのであろうが、死者の世界を見ているわけではない。

【イーストウッド】はちょっとしたシーンにもすごく丁寧だ。例えば主人公たちがいる場面のセリフのない、いわば風景状態の俳優たちの演技が実に自然でいい。映画を見る時、よく主人公以外の所作に違和感を感じることも多いが、彼の映画の場合はそれが全くない。恐らく全シーン念入りに演技付けを行っているのだろう、とにかく映画としてのシーンを感じないほどだ。

話は戻るが、住むところの違う3人がロンドンでシンクロするラストはなかなかいい。3人が求めているのは心であり、要するにそれは愛なのである。男の子は兄の声を聞くことができ、母親に安心して会えた。そして霊能力者の男と臨死体験が気になる女は、二人が根本的に求めているものが同じであることをすぐ察知し、心を導き合う。すなわちそれが愛なのであろう。

この映画、オカルト的な死者の世界を描いたものではない。霊能力者も死者の世界は分からないと言っている。それは当然で、彼は生きている人の求める心が見えるだけなのだから、、。この映画は生きている人にだけ存在する求める心をじっくりと見つめたものなのだ。そういう意味では愛を描いた映画といえるでしょうか、、。

すべてのシーンがナチュラルで美しく、【イーストウッド】の求めるものもいよいよ極まってきたと感じる。あらゆるシーンに彼の気持ちが入り、安心して見られる映画でした。音楽も相変わらず美しく、本当に才能を感じます。

見る前に思っていた、イーストウッドもそろそろこういう死の世界を意識し始めた、なんていうのは間違いでした。生きている人たち、そう、普通の僕たちのための映画です。

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