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ホームレス中学生 (2008/日)(古厩智之) 75点

2008-10-30 15:15:23 | 映画遍歴
さすが「まぶだち」「ロボコン」の古厩智之、原作以上の素晴らしい心の映画を作ってくれました。予告編では想像出来ないすばらしい出来に驚きもし、また思いがけずじわじわと感動し泣き崩れてしまった。

現代人において食べるということは飽食という意味でもあったと思っている人も多いはず。しかし、現代においては飽食は逆に死語であり、寝食猶予ならずが実際の本音なのであります。都会においても寝床自体が不安定な経済社会に飲まれてしまい毎夜捜さざるを得ない人も多いと聞く。まさに負け組(嫌な言葉だが、、)残酷物語なのであります。

実際お金がなかったら、親戚友人を頼ることが出来なかったら、だれでもホームレスになり得る時代なのです。まさに、父親の言う「はい、解散」で、路頭に迷うことになる。そんな、原点から人間を見据えると今まで見えなかったいろんなものがくっきりと確かに見え始めてくる。

まず、人間は生きていると食わねばならない。腹が減ってくる。水をがぶ飲みしても収まらない。小池徹平はつり銭を狙っていたが、よくぞ犯罪に手を染めなかったと感心する。食べるためには犯罪も然り、なのである。死から逃れるためには食うために人間は何でもしてしまうのである。

そして、人間は動物でないから、風呂に入らないと匂いで嫌がられる。小池徹平の数週間ぶりの風呂場での垢が湯に流れる色の不思議な驚き。僕らは何の滞りもなく社会生活を自然に送っているつもりでも、実はその背景にはたゆまない努力と築かれた実績があるということなのだ。

そんな当たり前のことをこの映画は教えてくれる。普通だと思っていた人間が急に社会の脱落者の烙印を押され、それでも無力なままでも兄弟で生きていかなくてはならなかった。数年前に見た「誰も知らない」の子供たちはこの兄弟たちより10年ほど年が若かったが、そのため社会の犠牲になり悲惨な状況になったが、、。

地面から草を見、空を眺め、そして家族を想う時、強烈な孤独が小池徹平を襲ったはずだ。人間って動物だから、水を飲み、食物を喰い、そして排泄する。一個の家屋が取っ払われると、人間から排除されまるで捨て犬のように公園を徘徊しなければならなくなる。これが現実なのだ、と、、。

でも、この兄弟たちはたまたま友人たち、知り合いの大人たちの暖かい愛情でどうにか最低限の生活だけは確保してもらえる。ありがたいことだが、それは彼らが犯罪を起さなかった所以によることは明らかだ。犯罪という線引きでこちら側とあちら側に分かれるわけである。彼らは貧しても心だけは売らなかった。

3人の兄弟の原点での新しい生活でほっとしたのもつかの間、逆に小池徹平自身が兄弟たちのこと、死んだ母親のこと、どこかで生きている父親のこと、そもそも生きるってどういうことなのか、中学生のいたいけな心で悩み始める。解散以降にホームレスになったのではない。母親という家族の核が崩れたその日から実はホームレス状態だったということに彼は気づくのだ。

でも、あまりに若く、ピュアな彼らはホームレスを乗り越えていく。ホームは家屋という実態があるから存在するのではなく、家族の気持ちのつながりそのものがホームなのだと気づくのである。

爽やかないい涙を流させてもらった。ほとんど期待していなかった映画ということもあるが、この映画からものすごい勇気をもらった気がします。古厩智之ありがとう。「ブーリン家の姉妹」という空虚な映画を見た後だったので、砂漠のような心がとてもみずみずしくなった気がしました。

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