この話はもっと吟味を重ねて書きたかったのだが、そのまま機会を逸してしまいそうな気がしたため備忘的に感じたことを記録しておく。
今BBCで取り上げられているジャニー喜多川という人物にまつわる問題やジャニーズの構造、それらに対する日本のマスメディアの報道姿勢はもちろん、その報道に対する反応を見ていて一つ思ったのは、「そこではどれだけ普遍主義的な思考がなされているのだろうか?」ということだ。
例えば今回の問題は極めて日本的な現象として報道されているようだが、私は映画「スポットライト」などでも取り上げられたカトリック神父による性的虐待と教会による隠蔽のことを思う時、その「偏り」がどこに現れるかは異なるものの、類似の事は諸外国でも起こっていると見ており、「特殊日本」的な解釈はミスリーディングだと考える(なお、カトリック教会に限っても歴史的に見ればローマ教皇に私生児がいることが公然の秘密であったこともしばしばで、こういった欺瞞は現代に始まった話では全くない。また日本のマスメディアにクロスオーナーシップや記者クラブ制度のような閉鎖的仕組みが存在し、そこに横並び的、もっと言えば官僚主義的なメンタリティが見られることを等閑視すべきではない)。
なお、同性愛(ソドムとゴモラ!)を否定的なものとして語る人々が自らそれを行い、かつそれを隠蔽する様に私はどう控えめに言っても「薄汚い偽善者たちが馬脚を露した」くらいの感想しか抱かないのだが(「解放の神学」が出てくるのもむべなるかな)、さて今回の報道を受けて彼の行為にとりたてて批判的態度を取っていない(特に女性の)人たちは、仮に件の人物の相手が女性(というか明らかに犯罪となる点では「少女」とした方が適切か)であった場合、果たして同じ反応をするのだろうか?ということだ。たとえそれでも、「当の本人たちが強く糾弾して被害を訴えているわけではない」とか、「それによって引き立てられたのだから良かったじゃないか」、あるいは「自分が楽しんで観ているものの問題点をいちいち暴かないでほしい」とか言うのだろうか?
こういった論難に対し、次のような反論が出るかもしれない。すなわち「当事者性という点で同性に起こった問題と異性に起こった性的犯罪行為を同じように受け止めるのが難しい」と。
なるほどそれは理解できなくはない。ただ、そうだとすれば、「男性が女性の性被害について同様な反応をするのも受け入れる」ということでよいだろうか?つまり、男性が女性の被害について無関心であったりしても、それは極めて必然的なことで、ゆえに非難すべきものではない、という態度を取るのか?ということだ(男性にとって女性の性被害は「当事者性が低い」のだから、当たり前のことだろう)。
もっと言えば、女性の権利拡大について「当事者でない」男性が無関心であることも批判される謂れはない、ということでいいだろうか?なぜなら、先ほどのロジックで言えば、「自分とは別のカテゴリーの存在が主張していることに関心を寄せない」のは当たり前のことで、自分がそうするのを正当化している以上、他人のそれを非難する資格はないからである(注)。
・・・そんなことを思ったりしている次第である。
まあ身も蓋もない分析を話してしまえば、無関心な反応が出てくる背景の一つは、性における男女への非対称的な観念も去ることながら(これはDVのシェルターを男性が利用することへの無理解などにも繋がる)、ジャニーズが好きな人にとっては、「その感情を乱されなくないので認知的不協和が働いた結果、不都合な問題には見て見ぬふりをする」という行動に繫がっているのだろうとも思うが、そのような振る舞いは(皮肉を込めて言えば)社会学的に極めて興味深い観察対象である、と述べつつこの稿を終えたい。
注:
なお、人間が親密性や同質性を感じる基準は言うまでもなく恣意的であり、このブログでは「Neuro-sama、沙耶の唄、『共感』という病」などで扱ってきた(ちなみに「リベラル」と呼ばれる人々が何を権利主張の対象とするかでしばしば分裂するのもこういった特徴から説明できる)。裏を返すと、例えば正義論(公正の原理)を唱えたロールズは、そういった性質ゆえに「無知のヴェール」という思考の枠組みを提示しなければならなかった、とも言えるだろう。
ちなみにこういった自己都合だけを主張するような傾向については、以前触れた「デートに際し、男は女に奢るべきか」という主張の語られ方を想起したい。
これは女性の「異性から眼差される身体=金になる身体」的な観点から、ブルセラ文化や鈴木涼美の『「AV女優」の社会学』などとも関連し、ゆえに以前取り上げたように「娼婦の考え」という評価が出てくるのは必然的だと言える(ただ、念のため書いておくが、「ナイトワークに従事している人たちがおしなべてそういう発想を持っている」などという話ではないので悪しからず)。
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