善意による同調圧力とはこういうことさ:勝手に人の内面を決めつけるな

2023-05-13 12:07:54 | 生活

 

 

私たちは一般的に悲しいとされる出来事があると「その人は悲しんでいるのではないか」と思うし、逆に喜ばしい出来事があれば「その人は喜んでいるのではないか」と推測する。

 

しかし実際には、人によってその感情は様々であり、例えば人の死を悲しく思わないケースもある。それは「実は内心恨んでいた」のかもしれないし、「闘病で苦しんでいたので、解放されてように思えてほっとした気持ちが勝っている」のかもしれないし、「自分でもわからないけど哀しみの感情が湧いてこない」のかもしれない。私たちはその複雑な陰影の背景を知ることはできないし、まして「誰もが同じように悲しむべきだ」などとその人の内面を決めつけることはできないのである(さらに厄介なことに、人間は感情・感覚と言行が必ずしも一致しない・させないという性質を持っているが、そういう傾向に基づく予測を踏まえた展開はこの動画にも生かされている)。

 

なお、誤解の無いように念のため言っておくと、「表面的にはどう振舞った方が合理的か」というのはまた別の話だし、これにある程度の配慮は必要である(この点、明日掲載する予定の宗教儀礼と「なりすまし」の記事を参照されたい。現時点では「認識論と宗教的帰属意識:儀礼と帰属意識の乖離」などを参照)。というのも、他者が自分の内面を決めつける資格がないのと同じように、自分も他者の内面を決めつける資格はないからで、「私と違うあなた(たち)」の振る舞いにも一定の敬意を払い、過度にそれを毀損しない態度が求められるためである(これを一言で表せば「社会性」となり、動画で言えば「ロッカールームではゲームをやらない」という配慮が該当する)。

 

少し脇道に逸れるが、私が窮乏している人間に対して自己責任を主張する向きに対し、感情的・論理的な説得をすることはしない理由は今述べたような視点に基づいている。すなわち、私は個人的感情の領域での変化に過度な期待はせず(=人間に期待しない)、ゆえに「あなたがどう感じるかはあなたの自由だが、自己責任を主張することは社会として公益性に適っているか?」と述べ、かつ「その視点が欠落しているのだとしたら、なぜあなたたちは社会に有害な主張をさも得意げに繰り返すのか?」という問いの発し方をするのである。

 


閑話休題。
このような視点を欠くと、「あなたも私たちと同じように感じるはずである→なぜあなたも私たちと同じように感じないのか?」という善意の抑圧が始まり、そこから「同じように感じないあなたは悪である」というレッテル貼りにまでつながっていく。このような構造が、何度も述べているような「共感」による排除なのである(これは例えば、自分に特別不利益をもたらす事でもないのに、人の嗜好にやたら文句をつけてバッシングをするような行為も該当する)。そしてかような構造に自覚的に振舞うことが、同調圧力を排した社会運営には必要不可欠と言えるだろう。

 

まとめると次のようになる。

1:人間の感性は人それぞれで、どのように感じるかはわからないし、決めつけることはできない

2:それぞれの感じ方は違うが、共生の作法として自分と違う他者の振る舞いに一定程度の敬意を払う必要がある

3:それゆえ、自分が思ったり感じたりしたことをそのまま言葉や行動に直結させるのは妥当とは言えない

4:しかし、それはあくまで表面的な話であり、内面を他者に合わせる必要は全くないし、それを気に病む必要もない

5:これが本来価値観の違う他者との共生のあり方はずだが、しばしば相手を自分の延長のように勘違いした善意の同調圧力が発動することがある

6:それは抑圧を生み出す不可避だが病的な現象なので、それに自覚的となり意識的に抑える必要がある

以上。

 

まあここまで書いた話はリチャード・ローティのリベラルアイロニズムに近いが、実際には人間は他者との同一性を求めずにいられない傾向を持っている、というのがジョナサン・ハイトなどの指摘したことであり、社会の多様化・複雑化の進行とAIの隆盛(共通前提の縮小・消滅)もあって、今後の社会運営はますます困難になっていくだろうという話になる。ただ、少なくとも個人レベルとしては1~4あたりを意識し、他者が求めることはせいぜいその程度の話だと思って抑圧から自由になっておくことが肝要だと思う次第である。

 

 


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